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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第五章 売り出せ中食! 見せろアイヲンの実力!』
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第一話 アイヲンモール異世界店、売上アップの最初のウリは、中食だ!


「選択と集中、ですか?」


「そうです、アンナさん。アイヲンモール異世界店の従業員は四人だけで、あんまり人手をかけられません。何もかもやろうとすると時間がかかりますしね」


「ナオヤさん、スケルトンは増やせますよ?」


「さすがリッチ! でも増やしてもスケルトンが接客できるわけないし!……できませんよね?」


 俺に質問に、アンナさんはニッコリと微笑むだけだった。


「いや待て俺。スケルトンだと人件費いらないし今だって警備に監視に清掃に役立ちまくってるけど待て俺。スケルトンだらけの店舗ってさすがにマズいだろ。墳墓系のダンジョンかよ」


 人件費不要で疲れも睡眠もいらない労働力という、店長や管理者なら誰もが心奪われそうなアンナさんの誘惑をはねのける。


「危うく闇落ちしそうになりました! さすがリッチ!」


 俺がアイヲンモール異世界店の店長になってから五日目。

 午後はやっぱりお客さまがほとんど来店しない。

 俺はアンナさんと一緒に、いままで営業に使っていなかったスペースを清掃していた。

 アンナさんと一緒にというか、エプロンをつけたスケルトンも何体か一緒に。


 ちなみに、クロエとバルベラはこの場にいない。

 細かな作業が苦手なバルベラはお客さまが来ないか店舗で待機してる。

 レジは打てないらしくて、来たら俺かアンナさんを呼んでもらうんだけど。


 クロエは俺が用事を頼んで、街に出かけている。

 アンナさんから借りた、()()()()()()()()()()『アイテムポーチ』を持って。


「アンナさん、本当に良かったんですか? 『アイテムポーチ』は高いものだって聞いたんですけど」


「いいんですナオヤさん、あれは使ってませんでしたから。私の部屋にはもう一つあるんですよ?」


「え? その、『アイテムポーチ』はアイヲンモール異世界店の給料じゃ買えないぐらい高価で貴重だったんですけど、二つも? どうやって手に入れたんですか?」


「昔々、まだアイヲンモールが建つ前、私はこの地で暮らしていたんです。そこに墓荒らしの冒険者——いえ、盗賊がときどきやってきまして」


「聞かなきゃよかった。墓って。そんでスケルトンやゴーストを使役するリッチの住処にやってくる冒険者って。マジで墳墓系のダンジョンじゃん! あ、それに俺気付いちゃったんですけど」


「どうしましたナオヤさん?」


「スケルトン隊長や外まわりのスケルトンが着てる鎧、なんか装飾や色づかいが『聖なる』な感じがしたような。まさか墳墓系ダンジョンの攻略に来た冒険者の」


 エプロン付きスケルトンたちの動きが止まる。一斉に俺を見る。

 アンナさんはいつもと変わらずニッコリ微笑んでいる。


「気のせい、気のせいですよね! そそそれにほら、盗賊を退治するのは悪いことじゃないわけで! 窃盗犯にはしかるべき対処をしないと!」


「帰ったぞナオヤ! ん? どうしたんだ?」


「おかえりクロエ! いやあさすがエルフ、往復するのが早いなあ! 聖騎士スゴい! ほんと助かる!」


 よーしよしナイスタイミング!

 バッと入ってきたクロエに感謝する。

 異世界には知らない方がいいこともあるらしい。


「ほ、褒めてもなにも出ないぞナオヤ! 私が気を良くしたらきっとナオヤは『でも俺も早いから! ちょっとだけだから!』などと言って迫るんだろう! ケダモノめッ!」


「あ、うん。いまはクロエのそのノリがありがたい。すごく平和な感じがする」


 アンナさんもスケルトンたちも、さっきまでと同じように清掃に戻った。

 クロエのおかげで変な雰囲気はなくなった。

 あいかわらずクロエの妄想が激しいけど無視する。むしろ感謝する。


「ナオヤ、さっそく出すか? どうするんだ? はっ、昨日と同じように焼くんだな! そして私たちに振る舞おうと! さすが店長!」


「テンション高すぎるだろ。まあしゃあないか、買ってきたのは()なわけだし」


 そう、クロエに買ってきてもらったのは肉だ。

 それもクロエが持ってる保管の魔道具、容量が小さな『アイテムポーチ』に入る量じゃない。


「んじゃここに出してくれ」


 俺はクロエにステンレスの台の上、大きなバットを指さす。


 俺とアンナさんとスケルトンたちが清掃してたのは、いままで使ってなかったキッチンだ。

 それもフードコートじゃなくて、生鮮売り場近くにある調理場だ。


「クロエ、アレもあったか?」


「ああナオヤ、このツボがそうだ!」


 アンナさんから借りた『アイテムポーチ』ではなく、自分の『アイテムポーチ』から素焼きのツボを取り出すクロエ。

 ああいう肉屋ならあると思ってたけど、やっぱりあったらしい。


 ツボを置いたあと、クロエは俺が用意していた巨大なバットの上に肉を出す。


「まずこれが角牛のモモ肉だ! 丸ごと焼いてかぶりつくのがおすすめだな!」


 ドンと置かれたモモ肉には骨がついたままだ。

 匂いを嗅ぎ付けたのか、バルベラがドアから入り込んできた。


「次にこれが突撃イノシシの背肉だ! 切り分けてから焼くのがおすすめだぞ!」


 隣のバットにドンッと違う肉を置くクロエ。

 今度の肉は白い脂身が目立つ。

 バルベラがじゅるりとヨダレを垂らす。


「最後は闘争鶏を丸ごと一匹だ! 羽根もむしってあるしこのまま焼くのがおすすめだ!」


「ぜんぶ『焼く』じゃん! 肉好きの名が泣くぞクロエ! エルフで肉好きってなんかおかしいけど!」


 肉を紹介するクロエのコメントに思わず突っ込んでしまった。

 クロエは街の食事処で肉を食べた時も、屋上でウサギ肉を食べた時も歯ごたえしか言わなかったし、発想が乏しいのはわかってたけど。


「だがナオヤ、本当によかったのか? わざわざアイヲンモールに来なくても、肉は市場や肉屋で手に入るんだぞ?」


「ああ、これでいいんだクロエ。『選択と集中』といっても、肉だけを売るわけじゃないしな」


「なに? そうか、やはりこれは私たちに振る舞うための!」


「肉好きすぎるだろエルフ! まあ味見はしてもらうつもりだけど」


 クロエもバルベラもアンナさんも、俺を見つめてくる。

 エルフとドラゴンはヨダレが垂れてる。


 アイヲンモール異世界店の目標は、月間売上一億円。

 でも従業員は四人だけだし日本からの商品も仕入れられないし、いますぐできることは限られてる。

 だから俺はまず『選択と集中』をするわけで。


「肉を選んだのはちゃんと理由がある。アイヲンモール異世界店の立地と、いま来店されているお客さまの傾向を見て決めたんだ」


 いまアイヲンモール異世界店に来店されるお客さまは、朝と夕方が多い。

 最寄りの街から他の街へ向かう途中、それに帰りに立ち寄る商人と護衛。街の外に向かう冒険者たち。それに、野菜を卸しに来る農家のおばちゃんたちだ。


「ナオヤ、肉だけを売るんじゃないって、どうするんだ?」


 首を傾げてクロエが聞いてくる。

 答えは決まってる。というか決めた。


 日本ではもう競争が激しすぎるレッドオーシャンだけど、街を見る限りここではブルーオーシャン。

 進出すれば売上が見込める、限りなく透明に近い青。


 俺は、まだわかってない様子の三人に宣言した。


「アイヲンモール異世界店、売上アップの最初のウリは、中食だ!」



新章スタート!

章タイトルでネタバレしてたので話タイトルも気にせずいきました。

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