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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第一章 え、アイヲンモールあるけどここ異世界ってマジ?』
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第二話 明日から、アイヲンモール異世界店の店長になるらしいです


「それで、なんで俺なんですか? 俺は戦えるわけじゃないし、もっと優秀な社員はいっぱいいたはずで……まさか家族がいないから?」


「『おもしろい場所で商いがしたいです。地元の春日野(かすがの)よりもっとド田舎や離島、海外もいいですね!』」


「……はい?」


「『ほうほう、なるほどなるほど。谷口くん、では異世界はどうだろう? もし仮に異世界に行けるとして』」


 表情を変えずに淡々と声マネする伊織さん。

 ……なんとなく聞き覚えがある。


「『異世界ですか?……おもしろそうですね! 俺、おっと、私は早くに両親を亡くしまして、育ててくれた祖父母も亡くなって孤独な身です。異世界に行って、アイヲンモールの魅力を伝えるべく商いする。ええ、おもしろそうです!』」


「声マネうまいというか記憶力すごいですねさすが本社勤務のエリート! くっそそれ俺のセリフじゃん! 俺が新卒採用の面接で言ったヤツ!」


 頭を抱えてしゃがみ込む。

 思い出した。

 新卒でアイヲンの採用試験を受けた時の、最終面接。

 そこで偉そうなおっさんが「異世界」って言い出してコイツいい歳してなに言い出してんだろ、まあ新卒採用によくある謎質問かって適当に答えたんだ。就活にお約束の、明るく前向きな感じで。

 あと、偉そうなおっさんたちが並んだ席の端に伊織さんがいたのも思い出した。


「入社の際にかわした書面でも、谷口さんは勤務可能地の項目で『全国・海外・異世界』すべてにマルをつけていました」


「あああああ! だって冗談だと思って! 書面に反映させるってあのおっさん偉い人なんだな、みんなよくこんな冗談に付き合うなって!」


「採用後は谷口さんの地元に最も近いアイヲンモール春日野店で経験を積んでいただく。いくつか研修を受けていただいた(のち)、アイヲンモール異世界店へ、というのは既定路線でした」


「おおおおお! 道理で変な研修がいろいろあると思いました! でも異文化コミュニケーション研修って海外勤務に備えてかなって思うじゃないすか! ガチな異文化どころか異世界って!?」


「では、アイヲンモール異世界店と谷口さんが異動した理由に納得していただいたところで、業務について説明しましょう」


「冷静かよ! あんまり納得してないんですけど!」


 俺のツッコミにも、伊織さんは表情一つ変えずに話を続ける。

 もう慣れてきたけど。


「アイヲンモール異世界店は、すでに一部営業をはじめています」


「……はい? じゃあ俺のほかにも日本から来てるんですか?」


「日本人は谷口さんだけで、この世界の人材を現地採用しています。現在営業しているのはスーパー部門の一部のみ。谷口さんはアイヲンモール異世界店の店長としてすべてを統括し、売上を達成させるのが業務です」


 固まった。

 日本人は俺だけ。あとの従業員はこの世界の人間。

 しかも俺が店長。

 入社三年目にして店長。とうぜん部下はこの世界の人間。


「〈転移ゲート〉が繋がる半年後までこちらと連絡が取れませんから、店長となる谷口さんにアイヲンモール異世界店の運営を一任します」


「俺に一任!? ち、ちなみに、目標売上はおいくらぐらいで……?」


「日本円換算で月間一億円です」


「いちおく」


「この世界、少なくともこの国の暦では一ヶ月は30日。一年は12ヶ月で、数年に一度の閏月で調整するようです。ただし直近では閏月は予定されていません。売上目標を日間に均すと約334万円ですね」


「さんびゃくさんじゅうよんまん。なら余裕……あれ、さっきスーパー部門の一部しか営業してないって」


「はい、その通りです。なお、日本とは半年に一度繋がります。その際に物資の搬入は可能で、こちらで商品を用意しておきます。ただし繋がるのは短時間なため、仕入れの希望をいただいた場合、入荷はさらに半年後になります」


「ええ……? 売上目標のハードル高くないすか? スーパー部門の一部しか営業してなくて、しかも仕入れのタイムラグが半年って」


「それと、谷口さんの私物はあちらに搬入しておきました」


「ありがとうございます?……俺の私物?」


「テナントはまだ入っていませんから、特例として空いているテナントスペースに居住することを認めます。では、そろそろ時間ですので」


「え、ちょっ」


「詳しい業務は明日出勤してくる前店長にお聞きください。そうそう、谷口さん。月間一億円の売上目標を達成しないと、アイヲンモール異世界店は閉店となります。その場合でも〈転移ゲート〉はくれぐれも確保しておいてください」


「は? いやいやちょっと待ってくださいって! 確保しておかないとどうなるんですか!?」


「繫がりが弱くなり、帰還がむずかし」


 そう言いかけて、幾何学模様の光が消えた。

 伊織さんも消えた。

 ときどき俺の質問がスルーされたのは、時間がなかったからなのかもしれない。


 残されたのは俺と、俺の私物らしい荷物と、搬入されたっぽい商品だけ。

 あとアイヲンモール異世界店。

 あと月間売上目標一億円。


「はあああああ!? 難易度高すぎでしょコレ! 伊織さん消えたし、え、これ異世界ってマジ!? いきなり異世界に送り込むってアイヲンヤバすぎィ!」


 伊織さんが消えた場所でゴロゴロ転がりながら叫ぶ俺。

 奇行すぎるけどこんな状況に置かれたらしょうがないだろう。

 そういえば、どうなってるのか光が消えた落書きは見えなくなった。


「あああああ! 明日からどうすんの俺! その前に今夜どうすんの俺! くっ、なんで採用面接で調子に乗ったし! ああああああ!」


 転げまわる。

 まさか、こんなことになるなんて。



 谷口 直也、24歳。

 社会人三年目のアイヲン社員。


 俺、明日から、アイヲンモール異世界店の店長になるらしいです。


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