第十話 んじゃまあ、閉店したら女子会ならぬ食事会しますか!
「おかえりなさい、ナオヤさん」
「遅くなってすみません。問題ありませんでしたか?」
日が落ちる前に、俺とクロエはアイヲンモール異世界店に帰ってきた。
といってももうすぐ日没で、この時間になるとお客さまが来ることはほとんどない。
店長として働いたこの三日間で、17時以降の来客は一組だけだ。
閉店の18時直前のアイヲンモール異世界店には、案の定お客さまがいなかった。
「ええ、大丈夫でしたよ」
「そうですか、それはよかっ……従業員が二人でさばける来客数ってよくはないか」
俺とクロエが異世界の街へ視察に行ってる間、留守を任せたのはアンナさんとバルベラの二人だ。
スケルトン部隊とゴーストが周辺の警備や店内の監視、清掃を担当してるけど。
接客できるのは二人、いや、バルベラがレジ打ってるのは見たことないからアンナさん一人かも。
バックヤードで力仕事でもしてるのか、バルベラは見当たらない。
「ああ、締め作業は俺がやるんでアンナさんはあがってください」
「ふふ。ナオヤさん、私は疲れを知らないアンデッドですよ? じゃあ私は、各施設の魔法陣を確認してきますね」
「ナオヤ、では私は施錠を担当しよう! もうすぐ閉店だからな!」
「クロエ、施錠は俺がやるぞ? 街に帰らなくていいのか?ってそういえばもうすぐ街の門が閉まる時間だっけ。あれ、クロエっていつも閉店後に帰ってなかった?」
「私は国の指示でアイヲンモールに派遣された騎士だからな! 職務上の都合ということで、閉門したあとも通用口から街に入れるのだ!」
「そのへん配慮されてるんだ。んじゃ今日も終わってから帰るのか」
「いや、せっかくだからな! 今日は帰らないぞ?」
「えっ? その、帰らないって言われても泊まるところないし、いや俺の居住スペースはあるけどベッドは一つしかないわけでちょっと過去語りしたぐらいで距離が縮まったわけじゃないしまさかそんな」
「あらナオヤさん、クロエさんのが移っちゃったんですか?」
今日は帰らないって言い出したクロエの発言に動揺する俺。
アンナさんは口に手を当ててクスクス笑ってる。
「な、何を言い出すんだナオヤ! 今日は仔兎の肉を手に入れただろう? せっかくだからアンナとバルベラ、それにナオヤと一緒に食べようと! せせ精がつくとかそういうのは関係なく! くっ、殺せ!」
「……おにく?」
クロエは顔を赤くしてなんか言ってる。
バックヤードへの出入り口から、バルベラがひょいっと顔を出した。
「と、とにかく! 私はいままでだって泊まったことがあるんだ! バルベラの住処の近くに野営して!」
「そ、そうなんだ。あー、肉を振る舞うんならお土産のガレットもあるし、みんなが良ければ俺も」
「まあ! ふふ、じゃあ女子会じゃなくなっちゃいますね! でも歓迎しますよナオヤさん!」
「じょ、女子会、ですか?」
そんな概念と単語が異世界にもあるのか、でも翻訳指輪を通してるからそれっぽい言葉に訳されてるだけかも、なんて思いつつ自称女子たちを見る。
「クロエは18歳でエルフで、まあ女子か。アンナさんはリッチでアンデッドだけど21歳……21歳だから女子。バルベラは……」
「……140歳。子供じゃない」
「女子ってなんだろうな。見た目10歳だけど実年齢140歳のドラゴンで女子? 考えるだけムダか」
トコトコ近づいてきて主張するバルベラの頭を撫でる。
見た目通りじゃないってわかってても、ついつい子供扱いしてしまう。
バルベラも「子供じゃない」って言いつつ気持ちよさそうに目を細めてるし。
「んじゃまあ、閉店したら女子会ならぬ食事会しますか! 場所は……」
「いつもの屋上だ! あそこなら火を使っても安全だからな!」
「おいいいいい! ダメに決まってんだろ! 『火を使っても安全』じゃなくて! 屋上も火気厳禁だから!」
「そうなんですか? でもナオヤさん、地上で火を使うとモンスターや獣が寄ってくる可能性がありますよ?」
「……おかわり?」
「なるほど、あえておびき寄せて肉を補充するのか! モンスターも獣も、私とアンナとバルベラなら楽勝だからな! さすがナオヤだ!」
「発想が肉食系すぎる! そうだねバルベラはドラゴンでクロエはやたら肉推しなエルフだもんね! あと『さすが』って俺そんなこと狙ってないから!」
お客さまがいない店内に、ほぼ一日ぶりに俺の嘆きが響き渡る。
駐車場スペースじゃなくて屋上で火を使うのは、地上のモンスターや獣に見られないようにって理由らしい。
ここは異世界なんだと実感する。
だから——
「まあいいか、ここは異世界で、お客さまは屋上立ち入り禁止にしてるんだし。クロエ、みんなも。日本のアイヲンモールじゃ屋上で火は使えないからな? 絶対やるなよ?」
「屋上で火を使えない、だと……? で、では肉はどうやって食べるのだ!?」
「肉から離れろエルフ。あと別に調理済み商品を食べるぐらいなら許されるから。ステーキかハンバーガーでもテイクアウトしろ」
「……なま?」
「いや生なら肉食べていいってことじゃないから。食べ物にもよるけどバルベラがイメージしてる『生肉』はダメだから。ぜったい活きがいい『生』だろそれ」
「ふふ。ではナオヤさん、私は各施設を見てまわったあとに屋上で準備しておきますね?」
「ありがとうございますアンナさん。『死者の王』が最後の良心ってアイヲンモール異世界店ヤバい」
微笑みながら仕事に戻るアンナさん。
アンナさんに手を引かれてバルベラが、つられてクロエも離れていく。
ふよふよと宙に浮く黒いもやのようなゴーストも、三人についていった。
「これもうゴーストは俺に隠す気ないな。店内で幽霊騒ぎでも起こったら困る、いや異世界なんだし困らないのか?」
ポツリと呟く。
あとでアンナさんに聞いてみることにして、俺はレジに向き直る。
「昼前まではいつも通りの来客数と売上だったからなあ。今日はどうなっただろ」
レジをいじってPOSデータを出す。
来客数と売上を見て、俺は今日もため息を吐いた。
「街の様子も見たし、クロエにあんなこと言ったしなあ。がんばらないと、なんだけど」
園芸用品を販売してから今日で三日目。
農家のおばちゃんたちは欲しい物を手に入れたし、店に来る冒険者たちもひとまわりしたんだろう。
園芸用品の売上は落ちていた。
「品数も在庫もないししょうがないか。そもそもウチはアイヲンモールだし。ホームセンターじゃないし」
それに園芸用品はたまたまクロエが反応して、あわよくばって売り出しただけだ。
目標の月間売上一億円に向けて、考えて打った策じゃない。
「街の雰囲気も見てきたし、これからこれから! さーて、どんな作戦でいくか! どうやって一日334万円稼ぐか!……キツいなコレ」
俺が店長になってから四日目のアイヲンモール異世界店。
本日の来客数、36人。
売上、44,000円。
園芸用品を売り出して上がった客単価は、順調に下がりつつあります。はあ。
※あくまでも架空のショッピングモールのお話です!
テールゲートパーティはNGですからね!





