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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第四章 異世界の街に行ってみたけど思ったよりチャンスあるかも!』
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第三話 普通のお店と思いきや想像以上にファンタジーだった件。なにこれ異世界の日常生活を把握するの大変そう


 五ヶ月後までに月間売上一億円。

 達成しなければアイヲンモール異世界店は国に接収されるかもしれない、あるいは建設と営業に反対していた商人ギルドがあの手この手で狙ってくるかもしれない。

 半年後に繋がる〈転移ゲート〉があるのは、アイヲンモール異世界店の搬入口付近だ。

 もし俺がそこに行けなったら、それか壊されたら。


「日本に帰れなくなる、かあ」


「任務ご苦労! 私は騎士団所属の騎士、クロエ・デュポワ・クリストフ・クローディーヌ・ヴェルトゥ・オンディーヌだ! こちらはアイヲンモールの店長である!」


「ああ、例の。どうぞー」


「うむ! さあナオヤ、入るぞ! ここがアイヲンモールの最寄りの街だ!」


 あまりのショックにぼんやりしてたら、いつの間にか街についてたらしい。


 アイヲンモールから歩いて一時間ほど離れた街。

 モンスター対策か、街は石壁に囲まれていた。


 兵士が見張っている門の間を通り抜ける。

 その先には広場があった。

 出入りする人をチェックしてるみたいだから、順番待ちのためのスペースだろう。

 お昼過ぎのいま、街を出る人はいないみたいだ。


「いやあんな簡単に通れるのかよ! クロエは名乗っただけだし! 俺なんて名乗ってもないし!」


「おお、復活したのかナオヤ! もう街に着いたぞ!」


 俺のツッコミに笑顔を見せるクロエ。中身はスルーされたけど。


「あー、すまなかったクロエ。いま考えててもしょうがないしな。それに売上をあげるために街を見に来たんだから!」


「うむうむ、それでこそナオヤだ! では私が街を案内しよう!」


「俺そんなイメージだっけ。そんで地元みたいな顔してるけどクロエはエルフだろ。なんちゃらの里出身だろ」


「だ、だが! 案内するといっても私の部屋には案内しないぞ! おおお男を騎士団の女子寮に入れたらきっとナオヤは理性を失ってケダモノのように誰彼構わず」


「ないから。俺のイメージおかしくない?」


 でも、クロエが言うようにちょっと調子が戻ってきたみたいだ。

 俺は街に来た目的を果たすため、顔を上げてまわりの観察をはじめた。


 異世界の街。

 門前広場から伸びる一番大きな通りは石畳が敷かれて、それ以外はむきだしの土だ。

 建物は二階建てか三階建てで、隣とは隙間なく接している。

 窓に木の扉がついているあたり、ガラスはないか貴重品なんだろう。

 外壁は漆喰っぽい。


「なんというか……中世ヨーロッパ風? フランスあたりの古い街並みって言われても信じそう」


「さあナオヤ、行くぞ!」


「行くってどこへ? 俺、いろいろ見てまわりたいんだけど」


「まずは肉屋だな! この()()()()()を処理してもらうんだ!」


「ああ、そういう。そうだな、その辺も見たいしちょうどいいか」


「うむ! ではこっちだ!」


 道中で仕留めた一角ウサギの子供を肩に担いで、クロエは一番大きな道、石畳が敷かれた通りを歩き出した。

 コツコツと靴音が鳴る。


 門から続く大通りなのに、歩いている人は少ない。

 いまはお昼過ぎだし、きっと働いてるんだろう。

 この時間帯はアイヲンモール異世界店も来客少ないわけだし。というかほとんどお客さま来ないし。


 それでもちらほらと人を見かける。

 さっきの門前広場に屋台を出していたおっさん、宿屋の呼び込みらしい少年、荷物を片手に早足で歩く男。

 みんな質素で似たようなデザインの服を着ていて、色合いもくすんでる。

 落ち着いた色が流行(はや)ってるのか、それとも染色技術の問題か。


 門にいた兵士のほかにも、武装している人たちはいた。

 商人のものっぽい馬車の横を歩く革鎧の男たち。あれは冒険者だな。

 門の兵士と同じ揃いのハーフプレートメイルをガチャガチャ鳴らす一団は、巡回の警備だろう。


「……やっぱり日本とは違うんだなあ。ほとんど徒歩移動だし。アイヲンモール異世界店の駐車場はあんなに広い意味があるのか?」


「ほらナオヤ、遅れてるぞ!……それとも視察には必要なことで、私が合わせた方がいいか?」


「おっと、すまんクロエ。夕方まであんまり時間ないしな、さっさと行こう。街の様子も見たいけど、やっぱり店舗や市場が気になるから」


 俺はこの街のことも、ここで暮らす人のことも知らない。

 どんな店があって、何を売っていて、いくらで、誰が買っているのかも。

 それじゃアイヲンモール異世界店で何を売るか決めようもないわけで。

 視察は今日だけじゃなくて何度も来るつもりだけど。


「着いたぞナオヤ! ここが私の行きつけの肉屋だ! おーい、おばちゃん!」


 門前広場から大通りをちょっと歩いただけで最初の目的地にたどり着いたらしい。

 クロエは「肉屋」と言ったけど、肉を売っているようには見えない。

 ほかと変わらない普通の建物で、違いは通りに面した入り口の横がカウンターになっているぐらいだ。

 奥にはわりと広めの空間が見えるけど、そこにも肉はなかった。


「あらクロエちゃん、今日は早いんだねえ。おや、それは?」


「帰る途中で狩った一角ウサギだ!」


「なんてこったクロエちゃん、まだ子供の一角ウサギじゃないか!」


 クロエが肩に担いでいた一角ウサギをカウンターに置く。

 肉屋のおばちゃんは仔兎なことに驚いていて、「かわいそう」ってことなのかと思ったら。


「やるねえクロエちゃん! 仔兎は肉がやわらかくておいしいんだよ! これ、売ってくれるのかい?」


「褒める方かよ! そりゃそうだ肉屋ですもんね! かわいいとか言ってられないですよね!」


「おばちゃん、いつも通り私が食べる分だけ切り分けてくれ! あとは売ろう!」


「はいよ!……クロエちゃん、その男はクロエちゃんのいい人なのかい?」


「あー、はじめまして。俺はナオヤです。クロエが派遣されてるアイヲンモール異世界店の店長になりまして、街を案内してもらってるんです」


「ああ、街の外にある例のおっきい建物の!」


 アイヲンモール異世界店は、肉屋のおばちゃんにも存在を知られているらしい。

 まあクロエが話したのかもしれないけど。


 俺とクロエと話している間にも、おばちゃんは目の前のカウンターで一角ウサギをさばいてる。

 こっちを見てるし喋ってるのに、さばく手は高速で動き続けてる。

 チラチラ見ていると、あっという間に一角ウサギは肉になった。

 なにこれ異世界の肉屋すごすぎない? おばちゃん達人すぎない?


「はいよ、クロエちゃん! これがクロエちゃんの分の肉で、こっちは買い取り分のお金だよ!」


「お、おばちゃん、肉もお金も多くないか?」


「なーに、クロエちゃんがいい人を連れてきたんだ、これはお祝いだよ! 仔兎の肉は精がつくって言うしね、これで今夜は」


「おばちゃん! ナオヤはただの上司で私のいい人じゃないんだ! 精がつくなんてそんな別に私のいい人じゃないのに肉を食べたナオヤは肉欲が抑えきれなくなって襲いかかってきて私を性的に食べ……くっ、殺せ!」


「これ街でも変わらないんだ。ポンコツ騎士って呼ばれてたのは木剣のせいじゃない気がする」


「はいはい。お二人さん、また来ておくれ!」


 俺はクロエの腕を掴んで、手を振るおばちゃんの前から立ち去った。

 そういえば。


「なあクロエ、肉屋に売った分の一角ウサギの肉はどこにしまわれたんだ? ほかの肉は違う場所で売ってるのか? それにあそこで処理してるわりに臭いも少なかったような」


「ああ、あの肉屋は保管の魔道具を使ってるんだ! それに臭い消しも魔道具だな! 街中でさばいてたら処理も臭いも大変だろう?」


「普通のお店と思いきや想像以上にファンタジーだった件。なにこれ異世界の日常生活を把握するの大変そう」


 当たり前のように言うクロエに、俺は頭を抱えた。

 街にある普通の肉屋は、保管に魔道具、臭い消しにも魔道具を使ってるらしい。



 俺、ファンタジーな異世界を舐めてたかもしれない。



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