第二話 想像以上に状況がマズい! これ月間売上一億円の目標って必達じゃん! 必ず達成させる目標と書いて必達目標じゃん!
「私は国の騎士団からアイヲンモールに派遣されているのだ!」
「…………はい?」
え、いや、はい? いまなんて?
「へー、最近は騎士も派遣されるんだ。派遣騎士。なんか仕事できそう、じゃなくて! 国から? 派遣?」
「ああそうだ。アイヲンモール異世界店を作る時に、アイヲンは国に建設と営業の許可を求めた」
「当然だな。日本でだって必要だし。この国の制度は知らないけど、ひとまず話を持っていくのは納得できる」
「上層部ではいろいろ話し合いが行われた。商人ギルドの反対もあったようだが、とにかく許可は下りた。だが異世界の商店だ。人材についての相談を受けたこともあって、国は騎士団から監視やく……相談役を派遣することにした」
「いや言っちゃってるから。監視役って言っちゃってるから」
「だが、フタを開けてみれば特別な物を売る気はないようだった。そこで相談役は交代となり、私が栄えある大役を任されることになったのだ! 人材を求めていたアイヲンモール異世界店に、長として! 派遣された!」
「……なるほど」
誇らしげに胸を張るクロエに、俺は何も言えなかった。
初期は違う人でその後にクロエが派遣されたって、それアイヲン側も国側も「思ったよりたいしたことない」と思ってやる気なくなってない?
国にとっては、この世界にはない珍しい日本の商品はほとんど持ち込まれない。建物は立派だけど仕入れは限られてるから。
アイヲンにとっては、文化が違うし商品を持ち込めないから売上はほとんど見込めない。
おたがい当初の思惑以下だったから派遣される騎士も交代になって、「ポンコツ騎士」って呼ばれてたクロエに……。
しかもアイヲンはアイヲンで派遣された騎士を店長に……。
「だから私は! アイヲンモール異世界店の店長として努力を続けたのだ! もう私をポンコツ騎士、失格エルフとは呼ばせまいと!」
「すまんクロエ。ほんとすまん」
「だがいかに努力しようと、私は本当のアイヲンモールを知らない。ゆえに、アイヲンモールを知るニホンジンを送ってほしいと要請したのだ!」
「なるほどつまりクロエのせいで俺は異世界に、じゃなくて! 要請される前に最初から派遣しとけアイヲン! 現地採用だけで新規店舗の立ち上げと運営って無茶すぎるだろおい!」
倒した一角ウサギの子供を肩に担いで、クロエは自分の働きを誇っている。
前向きにがんばってきた姿が不憫すぎてツラい。
最初から日本人を派遣しなかった株式会社アイヲンに不信感さえ湧いてくる。
まあアイヲンとしては〈転移ゲート〉が信頼できるかわからないし、リスクが高すぎて派遣しなかったんだろうけど。
「って俺はいいのかよ! そうだね最初からそのつもりで採用したんだろうしね! おおお、おおおおお……」
「ど、どうしたナオヤ? 大丈夫か? はっ! 道でうずくまって心配した私に看病させてなし崩しにそのまま! すべての面倒を見させようと! かかか体を拭かせて当然全身を拭かせて拭かせるだけでなく! くっ、殺せ!」
声にならない声をあげてうずくまった俺を心配そうに——したけどいつもと変わらなかったクロエ。
国とアイヲンからの扱いに気づいてないようで罪悪感ヤバい。
「ん? なあクロエ、国で話し合いがもたれて、建設と営業の許可は出たんだよな? クロエがいまも派遣されてるってことは、まだ期待されてる?」
「ああ、もちろんだ! 監視や警護として騎士が派遣されるのは国家事業だけだからな!」
「こっかじぎょう。クロエ一人だけど騎士は派遣されてるわけで、国はまだアイヲンモール異世界店に期待してらっしゃると。ひょっとして月間売上一億円いかなくて潰れたら国のメンツも潰す感じ? 騎士を派遣した事業が潰れるってヤバい感じ?」
「ああ、由々しき事態だ! 建設の協力もしていたし、おそらく建物ごと接収されるだろう! 建設には魔法も使われたんだが、その時に手伝った宮廷魔導師は持ち込まれた建材に興味があるようだったしな!」
「えっ」
「だがナオヤ、もし接収されなければ商人ギルドが手をまわしてくるかもしれないぞ! 買い取ろうとするか、最悪裏から手をまわして知らぬフリをしながら略奪を……くっ、ゲスどもめ!」
「はい?」
「もちろん盗賊などこの私が返り討ちにしてやる! アンナとバルベラもいるしな!」
「さすがエルフとリッチとドラゴン、頼りになる! じゃなくて!」
「どうしたナオヤ?」
「想像以上に状況がマズい! これ月間売上一億円の目標って必達じゃん! 必ず達成させる目標と書いて必達目標じゃん!」
国が騎士を派遣した事業が潰れる。国のメンツを潰してマズい。
商人ギルドの反対を押し切って営業してる。潰れたら手をまわしてきそうでマズい。
え、ほんとヤバい気がしてきたんですけど。
「月間売上一億円はいつまでに達成すればいいんだろ。それ次第じゃ俺いますぐ辞めた方がいい気がして……ダメだそれじゃ帰れない。〈転移ゲート〉はアイヲンモール異世界店の搬入口付近に繋がるわけで。確保してなきゃ帰れない」
土の道を歩いているはずなのに、足元がふわふわしてまるで雲の上でも歩いてるようだ。
心配するクロエの声も遠くに聞こえる。
「だ、大丈夫かナオヤ! しっかりしろ、ほらもうすぐ街だぞ! 私が背負うか?」
「大丈夫大丈夫イケるイケる」
「それに心配はいらないぞ! ニホンエンで一億の月間売上を達成するようにという国からの最後通告は、次の〈転移ゲート〉が繋がる前の月、五ヶ月後の話だからな!」
「ああ、んじゃまだ余裕があって……最後通告って言っちゃったし。国からの最後通告って言っちゃったし」
ふらっとした俺をクロエが支えてくれた。
道の先に異世界の街が見えたけどそれどころじゃない。
「五ヶ月後ってことは月が締まってもまだ〈転移ゲート〉は繋がってない。つまりダメだって判断されてから一ヶ月弱ある。それだけあれば接収も略奪もイケる」
初めての異世界の街も、女の子に支えられてるけど鎧だから固い感触も気にならない。
「ヤバい。これ想像以上にヤバい。帰れるかどうかも怪しくなってきた。どういうことだ伊織。やり口がえげつないぞアイヲン!」
急に叫び出した俺を、クロエが心配そうな顔で覗き込む。
やっぱり顔立ちはキレイでびっくりする、のはどうでもよくて。
俺の嘆きは、異世界の空に消えていった。
※今章は巻き込まれ以外の主人公のモチベーションがテーマです。
ちゃんと?自分から動き出す……気がしますのでしばしお待ちください!