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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第三章 リッチと人化可能なドラゴンも同僚なんですって。ハハッ』
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第七話 ……ほんと、俺は店長なのに、知らなかったことばかりです


「ナオヤさん、そのままにしてください。片付けはやりますから」


「ありがとうございます、アンナさん」


「いえいえ、やるのは私じゃなくてこの子たちですから」


 いつの間にか、フードコートにスケルトンが来ていた。

 骨にエプロンをかけた清掃担当のスケルトンだ。

 俺とアンナさん、バルベラ、クロエの四人が立ち上がると、さっと近づいて食器を片付けてくれる。

 そのまま厨房に入って洗ってくれるらしい。


「スケルトンが便利すぎてヤバい。自然に受け入れはじめた自分が怖い」


「ナオヤ、では私は一階でお客さまを待とう! また後でな!」


「……手伝う」


「私はいつもの安全確認と保全に行ってきますね」


「安全確認と保全? アンナさん、ついていってもいいですか?」


「ええ、もちろんですよ。では行きましょうか」


 クロエとバルベラを見送って、俺はアンナさんについていく。

 安全確認と、保全。

 アイヲンモール異世界店の店長として、責任者として、アンナさんの業務を確かめなくちゃならないだろう。


「そうだナオヤさん、灯りを持ってきてくださいね。人間は暗闇を見通せませんから」


「わかりまし……ああ、アンナさんは見えるんですね。さすがアンデッド」


 途中、俺が生活しているテナントスペースに懐中電灯を取りに行った。


 そういえば女性を部屋に上げるのは初めてだ。

 部屋っていうか空いてるテナントスペースだけど! シャッター閉めても格子状だから外から丸見えだけど! あとアンナさん女性だけど人間じゃないし! いやアンデッドなだけで人間ではあるのか?


 俺が軽く混乱してる間、アンナさんは興味深そうに俺の私物を見ていた。

 特に家電や本、マンガなんかを。

 興味を持ってるようだけど、家主の俺に気を遣ってなのか手は伸ばさない。人に配慮できるリッチってなんだろ。


「お待たせしました……その、物によっては貸しますからね? 営業時間外にでも来ていただけたら」


「いいんですか!? ありがとうございますナオヤさん!」


 パアッと笑顔になるアンナさん。

 胸の前で組んだ手にむぎゅっと潰されてやっぱりけっこう大きいな、じゃなくて。

 きっとクロエなら「め、珍しい物で、わた、私を部屋に誘って何を——ナニをするつもりだ!? 『ほら珍しい()()を見せてやろう』などと言ってポロンと出して私に迫り! くっ、殺せ!」とでも言い出したことだろう。


 アンナさんとはそんなことになるはずもなく、俺たちは生活スペースを出た。

 迷うことなく、アンナさんは地下に向かう。

 行き先はボイラー室だった。




「それほど消耗していませんね!」


「何をしてるかうすうす気付いていますが……あの、アンナさん、何を?」


「魔法陣の点検が終わって、いまは燃料の残量を確かめているところです!」


 タービンがまわる音に負けないように、大きな声で会話する。

 ボイラー室に入ったアンナさんは、慣れた様子で発電機に近づいていった。

 床や発電機に描かれた魔法陣をチェックするのも手慣れた様子だった。

 それを見れば、さすがに俺でもわかる。


 ()()()()()()()()()()


「まさかこれ、アンナさんが作ったんですか?」


「いえ、そんなことはできません! 私は点検と管理、あと簡単な修理ぐらいしかできませんから!」


「充分すぎるでしょ! アンナさんが有能でヤバい! ちなみにこの発電機、燃料は?」


「燃料はこれです!」


「赤い粉? これはなんですか?」


「レッドドラゴンのウロコです!」


「……はい? なんか聞き覚えがあるモンスター名が」


「ドラゴン形態のバルベラちゃんのウロコを粉にしたものです!」


「え、ええー」


 想像してしまった。


 ——誰もいない深夜。

 アイヲンモール異世界店の屋上に寝そべるバルベラ。

 ドラゴン形態なのに目に涙を浮かべている。

 アンナさんが微笑みを浮かべながら震えるバルベラのウロコに手をかけて、プチップチッと——


()え変わりの時に落ちたウロコをもらってるんです! 魔力が大量に含まれていますから月に一、二枚もあれば充分で、いつも余るぐらいですよ!」


「あ、なんだ」


 ほっと胸を撫で下ろす。

 それにしても。


「つまり発電のための燃料が自前ってことか! ランニングコスト抑えられるじゃん! アイヲンモール異世界店の従業員優秀すぎるだろ!……給料確かめよう。適正に支払ってるって信じてるぞアイヲン」


「さあナオヤさん、次に行きますよ!」




 水道施設もアンナさんが管理しているらしい。

 燃料、というか動力はやっぱりレッドドラゴンのウロコを粉状にしたものなんだという。

 発電機はそれを燃やして利用してたけど、水道施設は魔力だけを使うんだそうだ。

 うん、よくわからん。

 とりあえずアンナさんとバルベラがすごいことだけは理解した。


「アンナさん、次はどちらへ? そういえばアンナさんって、アンデッドなのに昼間に外に出ても大丈夫なんですね」


「ええ、リッチは高位のアンデッドですから。次の行き先は森の入り口ですよ」


 電気、水道の確認を終えてフードコートのコンロの魔石を交換して、アンナさんが向かったのは外だ。

 午後の陽射しが照りつける中を歩くアンデッド。

 言葉だけだと違和感があるけど、アンナさんの見た目は普通の女性だ。

 陽の光を浴びて苦しんでる様子もガマンしている様子もない。


「森へ? だったらアイヲンモールの裏側に行かなくても、横にも森が広がって」


「ナオヤさん。私は見た目が変わりませんけど、ほかの子たちは……」


 アイヲンモール異世界店の敷地の外。

 森の中から、ガサガサと音が聞こえてくる。


「まさかモンスター!? アンナさん、逃げましょう!」


「ふふ、大丈夫ですよナオヤさん。ほら」


 そう言って音がした方向を指差すアンナさん。


 現れたのはスケルトン部隊だった。


「ああ、朝に見たスケルトン隊長。それに鎧姿のスケルトンたちも」


「はい。昼間は姿を見られないように、森の中から警備を担当しているんです。バルベラちゃんの縄張りですから獣もモンスターも少ないんですけど、たまに迷い込んできますから」


 骸骨馬に乗ったスケルトン隊長と、鎧姿のスケルトンたち。

 派手な鎧の隊長は一体で、ほかのスケルトンは50体ぐらいか。

 あいかわらず多い。


「周辺に異常はないようです」


 下馬したスケルトン隊長に触れて、アンナさんが教えてくれる。

 (あるじ)と配下だからわかるのか、あるいはリッチが高位のアンデッドだからわかるのか。

 あとアンナさんは、スケルトンたちが森で集めたらしい野草と茸を受け取っていた。


「って明らかに毒々しい色の茸があるんですけど! それよく食べようと思いましたね!」


「あら、この茸は食べる物じゃありませんよ? 研究用です」


「研究? いやそのアンナさんに限ってそんなはずはないと思うんですけどでもリッチだし配下はスケルトンとゴーストだしまさか」


「ふふ、ナイショです。でも、悪いことでも邪悪なことでもありませんから。安心してください」


 アンナさんは微笑んだ。

 なぜか少し寂しそうに見える。


 ……俺は、アンナさんの言葉を信じることにした。

 まあ説明されてもわからないだろうしね! 発電機も水道も使ってる魔法を説明してもらったけど意味不明だったし!

 だいたいよからぬことを企んでるなら、ライフラインを抑えてるアンナさんはなんでもできたはずだ。


「……ほんと、俺は店長なのに、知らなかったことばかりです」


「ゆっくりでいいと思います。お店のことも、私たちのことも」


「そう、ですね。……いやお店は早く売上アップしないと困るんですけど!」


「ふふ、そうでしたね。店長、よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げるアンナさん。

 横にいたスケルトン隊長と後ろのスケルトン部隊は右手を胸につける。敬礼っぽい。


「あー、とりあえず。隊長もみなさんも、警備ありがとう」


 店長として労うと、スケルトン隊長は右手で胸を一度叩いた。マントをひるがえして骸骨馬に乗る。

 そのまま部隊ごと、森の中へ戻っていった。



 俺がアイヲンモール異世界店の店長になってから三日目。

 最初の二日間の合計で来客数は80人、売上は97,000円。


 月間売上目標一億円に対して遠すぎて、どんな店舗だ、従業員はポンコツかよ、とか思ってたけど。

 みんな、予想以上に優秀だったらしい。


 ……これで売上伸ばせなかったら店長の俺が無能ってことかもね! ハハッ! いや笑えねえし!


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