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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第三章 リッチと人化可能なドラゴンも同僚なんですって。ハハッ』
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第三話 いや履歴書! 写真付きの履歴書ぐらい提出させてから採用しろよ!


 開店前のアイヲンモール異世界店、店舗入り口。

 俺が異世界に来てから三日目の営業を前に、俺は従業員との初顔合わせを行っていた。

 俺が店長なのに遅すぎるぐらいだけど。


「ナオヤ、挨拶は終わったか? あと一人いるんだが」


「あら、あの子もまだ挨拶してなかったんですね」


「はい? え、クロエ? アンナさん?」

 

 アンナさんと配下のスケルトンたちとの顔合わせを終えた俺に、エルフのクロエが聞いてきた。

 どうやらまだほかにも従業員がいるらしい。


「では呼ぶぞ! おーい!」


 なぜか屋上に向かって大きな声で呼びかけるクロエ。


 俺が異世界に来た最初の夜、()()()()()()()()()へ。

 ドラゴンがいるかもしれないから、俺が近づかなかった屋上へ。


 スケルトンがカチャカチャ音を立てて離れていくのを横目に、俺は屋上を見上げた。

 アイヲンモール異世界店の屋上。

 地上からでも、アイヲンのロゴがデカデカと描かれた屋上看板が見える。


 その横に、ひょこっと人影が現れた。

 ()()()()()()()()()()()()()()


「……従業員? あんな場所に?」


「そうです、ナオヤさん。あっ! もう、あの子ったら!」


 屋上に現れた人影は。


 ()()()()()()()()()()()()()()


「あああああ! ダメだ、それはダメだって! なんとか助かりますように!」


 従業員が屋上から飛び降りた。

 アイヲンモール異世界店は三階建てで、でも各フロアの天井が高くて、屋上から地上まで15メートル以上ある。

 まだ顔も知らない従業員の無事を祈る。

 純粋に助かってほしいんで! 従業員が屋上から飛び降り自殺したなんて知れ渡ったら集客に影響がなんてそんなことこれっぽっちも考えてないんで!


「神様仏様アイヲン様! どうか助かり……え?」


「おおっ! あいかわらず見事なものだな!」


「もうあの子ったら。階段で下りるのが面倒だからって」


 飛び降りた人影は、スタッと着地した。

 まるでちょっとした段差から飛び降りただけ、みたいに。


 そのまま無言でトコトコ歩いてくる。


 クロエの白に緑のラインが入った金属鎧、アンナさんの青い模様付きの黒いローブと違って服装は普通、というか質素に見える。麻っぽい素材で生成りの地味な上下だ。

 髪は燃えるような赤で、瞳も赤い。

 近づいてくる女の子は、こめかみのあたりから左右それぞれに角が生えていた。シカの角を短くして後ろに流したような感じ。

 どうせ角も本物なんだろうし種族が気になるけど、それよりも。


「子供じゃん! 10歳ぐらいの女の子じゃん! ダメダメ隠して、いや隠してもどうにもならないか!? この子が従業員って労基! 労基がヤバい!」


「ナオヤさん?」


「どうしたナオヤ、何を焦ってるんだ? ろうき? 狼鬼? 日本にはそんなモンスターがいるのか?」


「モンスターじゃないから! モンスター以上に怖いけど労基はモンスターじゃないから!」


「では狼鬼は(けもの)なのか?」


「獣でもないし! 喰いついたら離さないケダモノかもしれないけど!」


「……おいしい?」


「おいしくもないなあ! むしろマズい、いや正確に言えば労基に注意されることをしてたお店がマズいんだけど!」


 10歳ぐらいの女の子を働かせてたと知られれば、労基が飛んでくるだろう。

 家業の手伝いとか新聞配達なら許されるんだっけ、でもさすがに10歳は無理だろ、そもそも家業じゃないし新聞屋でもないし、ここアイヲンモール異世界店だし——


「あ。そっか、ここ日本じゃないんだった。いやあ、焦った焦った」


「……バルベラ」


「うん? どうしたのお嬢ちゃん?」


「……お嬢ちゃんじゃない。名前、バルベラ」


「そっかそっか、お名前はバルベラちゃんね。異世界って子供が働いても大丈夫なのかなあ」


「……むっ。子供じゃない」


「あー、ナオヤ。バルベラの見た目は子供だが、私より歳上だぞ」


「……はい? え、クロエって20歳(はたち)ぐらいだよね? あ、でもエルフだしもっと歳いってるのか? いやそれじゃバルベラちゃんがけっこうな歳に」


「失礼だぞナオヤ! 私は学園を卒業してすぐ騎士団に採用されたからな、18歳だ! まだ乙女でもちろん心も体も乙女でまさかナオヤはそんな私を狙って『俺が女にしてやる』などと私を襲うつもり」


「はいはいクロエは18歳なのね。なんか学園とか騎士団とか気になるワード出てきたけどいまはいいや。それで、バルベラちゃんはいくつなのかな?」


「……140歳。『ちゃん』はいらない」


「はい? いまなんて?」


「……140歳。子供じゃない」


「ひゃくよんじゅっさい。あ、ああ、そうなんだ、へー、それじゃバルベラちゃん、おっと、バルベラは立派な大人だね。……っておいいいい! 見た目10歳なのに140歳って異世界ヤバい! 女の子かと思ったら死んだ爺ちゃんより歳上でした!」


 天を仰ぐ。

 アンデッドのリッチやスケルトンを受け入れるなんて俺も異世界に慣れてきたなあと思ってたけど。

 見た目10歳なのに140歳。

 これが……これが合法ロリか! ちげえし俺ロリコンじゃねえし!

 見た目はあれだけど労基に突っ込まれても大丈夫そうでよかったって思っただけだし!


「待って待って。クロエはエルフだけどほぼ見た目どおり18歳。バルベラは見た目10歳だけど140歳。じゃあアンナさんは?」


「私は21歳です」


「あ、俺より歳下なん……アンナさん、それ享年じゃないですか? リッチになったあとは?」


「私は21歳です。アンデッドは歳を取りません。21歳です。いいですねナオヤさん、21歳です」


「お、おう」


 微笑んだままなのにアンナさんは妙に迫力があって思わず頷く俺、谷口直也24歳。

 みんな答えてくれたけど、異世界でも女性に歳を聞くのは気を遣わなきゃいけないらしい。


「いや履歴書! 写真付きの履歴書ぐらい提出させてから採用しろよ! そんで資料に入れとけよアイヲン! 異世界だからって適当すぎるだろ!」


 勤務中も金属鎧を着たままのエルフ、地下室に籠もりがちなアンデッドのリッチ、見た目10歳なのに140歳のバルベラ。

 あと警備と清掃のスケルトンとゴーストたち。


「これ現地採用どうなってるんですかねえ……。あ。バルベラって長寿みたいだし角が生えてるけど、種族は?」


「……ドラゴン」


「うん? 聞き間違いかな? エクスキューズミー?」


「……ドラゴン。人化できる」


「あああああ! 人間が俺とクロエしかいないじゃん! いや厳密に言うとクロエはエルフで人間、人族ってヤツは俺だけか! アイヲンモール異世界店は人外だらけか!」



……これでABCが出揃いましたw

名付けが安直なことに定評があります。

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