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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第十一章 従業員用アパートが完成しました! 人が先か商品が先か、それが問題だ』

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第一話 あ、うん。問題は大きさじゃないんです。月間一億円いくには従業員の増員も必要ですからね、そこはいいんです


「ん、なんだかんだ、いつもと同じ時間に目が覚めたな……」


 俺が店長になってから32日目のアイヲンモール異世界店。

 昨日は30日ぶりにお休みで、今日は朝イチじゃなくて遅めの出勤にしたけど、自然と早朝に目が覚めた。


「……なんというか、体がアイヲン仕様になってるみたいだ」


 ボヤきながら体を起こす。

 と、テナントスペースの格子状のシャッターの向こう、エプロン付きスケルトンと目が合った。


「おはようございます。お疲れさまでーす」


 寝起きで人骨と遭遇してももう驚かない。

 なにしろスケルトンは主力従業員なんで。

 エプロン付きスケルトンは清掃と調理を、鎧ありスケルトンはアイヲンモール異世界店周辺の警備を担当してくれてる。

 しかも、不眠不休で。

 疲れ知らずのアンデッド頼りになります。


「あ、いまは従業員用アパートの建築もやってもらってたっけ。ほんと助かってます」


 言うと、エプロン付きスケルトンはぺこっと頭を下げた。

 ポリッシャーを押して去っていく。


「そういえばそろそろアパートが完成するんだっけ。出勤時間前に見に行ってみるかなあ」


 ベッドからのそのそ起きだす。

 もうすぐテナントスペースに寝泊まりすることはなくなる。

 生活は快適だったけど、残念な気持ちはない。

 アパートに移れば朝イチでスケルトンに出くわすことも、夜中トイレに起きてゴーストと遭遇することもなくなるだろうから。


 ぼんやりと考えながら身支度を整えて、俺は一ヶ月以上暮らしたテナントスペースを出た。


 目的地は、アイヲンモール異世界店裏手の建築現場だ。


「おはようございますアンナさん」


 一階に降りてバックヤードに入ると、アンナさんがこっちに歩いてくるところだった。

 あいかわらず顔色が悪い。

 けどそれは30連勤のせいじゃなくてアンデッドだからで。

 スケルトンとゴーストを使役する『死者の王』、リッチだからで。

 ……うん、明日はアンナさんが休みのシフトだから。しっかり休んでもらおう。疲れないらしいけど、うん。


「おはようございますナオヤさん。ちょうど呼びに行こうとしてたんです!」


「はあ、なんでしょうか。……もしかして?」


「はい! お願いされていた従業員用アパートが完成しました!」


「おおー、早い!」


 二人でバックヤードを歩く。

 すぐに、搬入口が見えてきた。

 今日は魔法陣は光っていない。

 つまり日本からの荷物も届いていない。


 地を巡る魔力の波長が変わったとかで、二週間から一ヶ月に一度、小規模な「転移ゲート」が繋がるようになった。

 といっても、日本からの一方通行で、運べるのはカゴ台車三台分だ。


 人や大量の物資はあいかわらず半年に一度のタイミングでしか繋がらないらしい。

 だから、俺が還るには半年後に必ず「転移ゲート」を確保しておかないといけない。

 けど、五ヶ月以内に月間一億円の売上目標に達成しなければ、アイヲンモール異世界店は存続が怪しいんだとか。


 ……先月は、月間で1770万円の売上だったんだけれども。

 先は長い。

 いやあと5倍以上売り伸ばさないといけないって大丈夫かこれ。


「大丈夫、大丈夫だ。俺が来てから売上も客数も順調に伸びてるんだ。いける、いけるはずだ。いけると信じていく」


「ナオヤさん?」


「あ、すみません」


「ふふ、心の準備はいいですか?」


「あっはい」


 クスクス笑いながら、アンナさんが搬入口横の従業員出入り口の扉に手を掛ける。

 俺の返事を聞いて、すっとドアを開けた。


 外に出る。

 向かいを見る。

 アイヲンモール春日野店なら、小さな駐車場と通路があって、道を挟んで目の前に大型インテリアショップがあるはずの、従業員出口の向かい。


 そこには——


「むっ、ナオヤも来たのか! おはよう!」


「……おはよう?」


「あ、うん。おはようクロエ、バルベラ。ところでその、なんだこれ?」


「うん? なにって、従業員用のアパートに決まっているではないか! ナオヤが作らせたんだろう?」


「あ、うん。たしかに頼んだけど。頼んだけども!」


「……つよそう」


「あ、うん。強そうだねバルベラ。建物なのに強そうって。強そうだけども!」


 ——石造りの、二階建ての建物が。


「あれ、俺、地震が怖いからって平屋でお願いしたような。骨組み見た時もそのつもりで問題ないって言ったような」


 従業員出口からアイヲンモール異世界店の外周をぐるりと囲む、レンガ風歩行者通路と馬車が通れる通路の向こう。

 そこに、石造りの二階建ての建物があった。

 コの字型で、アイヲンモール側は中庭らしい。

 それはいい。

 問題はそこじゃない。

 コの字型で、石造りで、森が見えない高さの二階建て。

 お披露目だからか、鎧を着込んだスケルトン部隊がズラッと並んでる。


「デカくない? 骨組みの時の三倍ぐらいになってない? 具体的に言うと左右が増えてない?」


「あの、ダメでしたか? いまはナオヤさんとコレットちゃんたち、それに行商人さん一家だけですけど、いずれ増えるだろうと思いまして……」


「あ、うん。問題は大きさじゃないんです。月間一億円いくには従業員の増員も必要ですからね、そこはいいんです」


「どうしたナオヤ? 問題があるのか? ま、まさかナオヤは! 難癖をつけて『お詫びは体で払ってもらおうかなあ』などと私に迫りッ! くっ、殺せ!」


「早朝から元気だなクロエ。迫らないから。だいたいクロエは建築を担当してないだろ」


 俺の言葉を聞いて、スケルトン部隊がガチャガチャ音を立てる。

 え、俺たちなんかやらかしちゃったかな、とばかりに動揺してる。


「あ、うん。問題はないんだ。ちょっとイメージと違っただけで。建築お疲れさまでした」


 安心させるべく一声かけると、スケルトン部隊はあからさまにホッとした様子を見せた。

 少し前に出た隊長も、ガシャリと居住まいを正す。


「ナオヤさん、では何が」


「うわあ、うわあ! すごいねおかーさん! わたしたち、今日からここに住んでいいんだって!」


「本当に、すごいわね、コレット……私たちがこんなに立派な()に……ナオヤさん、いいえ、ナオヤさまに感謝しましょう。今夜も祈りましょうね」


「うん! えへへ、()()に住むなんて、わたし、お姫さまになったみたい!」


 アンナさんの言葉はコレットの声でかき消えた。

 コレットは犬系獣人らしくキラキラ目を輝かせてぶんぶん尻尾を振って、やたらとテンションが高い。


 うん。

 砦。

 お城。


「ほらやっぱりこれ砦じゃないですかぁぁぁあああ! 石造りで! 窓が小さくて! 無骨な装飾と! なんか屋上の手すりが物々しいんですけどぉぉぉおおお!」


「その、建築に使える乾燥した木材は限られてまして……石なら魔法でなんとかできるもので、その、ダメでしたか?」


「いいんですアンナさん、ほぼ無料でこんなに短期間で作っておいてもらっといて文句なんてないんです。ただちょっとイメージと違っただけで」


「だがナオヤ、ここには外壁がないのだぞ? 防衛力は高い方がいいだろう?」


「それは! そうだけども! 何と戦うんですかねえこれ!」


「……パパ?」


「パパさんと戦うならもっと強化しないと一撃で、じゃなくて! 戦いません!」


 だから武器を掲げてやる気見せないでくださいスケルトン部隊のみなさん。



 俺が店長になってから32日目のアイヲンモール異世界店。

 休み明け初日は、早朝から頭が痛いスタートです。





次話は12/13(金)18時更新予定です!


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予定では5日に7話無料配信もスタート!

なお、連載中のコミカライズは

『アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン! THE COMIC 1 』として、

12月26日にライドコミックスさまから発売されます!

あわせてよろしくお願いします!!!



※なお、この物語はフィクションであり、実在するいかなる企業・いかなるショッピングモールとも一切関係がありません

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