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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第三章 リッチと人化可能なドラゴンも同僚なんですって。ハハッ』
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第一話 寝ぼけてたのかな? やっぱり疲れてるとロクなことないね! これからは深夜まで起きてるのやめようっと! いやあ、ヒドい夢を見た!


「それでも81,000円。まだまだ足りない」


 異世界に来てから二日目の営業を終えた夜。

 俺は自分の居住スペースにしている空きテナントで、眠れぬ夜を過ごしていた。


 ちなみにさっき、分解して運び込まれた俺のベッドを組み立てたから、もうマットレス直敷きじゃない。

 二台目のカゴ台車にあった荷物も持ってきたし、ここのテナントスペースはすっかり俺の部屋になっていた。

 まだ荷解き終わってないけど。


「月間売上一億円。日本でならスーパー部門だけでも余裕なんだけどなあ」


 眠れない理由は、高すぎる売上目標をどうやって達成するか考えていたからだ。

 販売をはじめた園芸用品はそこそこ売れた。

 一昨日の16,000円と比べたら売上は5倍近いけど、目標にはまったく届かない。

 アイヲンモール春日野店なら、売上は日に一千万円を超えるんだけど。


「そもそも来客数が二日で80人。売れる商品もだけど、集客にも手を打たないと」


 考えることは多い。やることも多い。

 なにしろ俺がこのアイヲンモール異世界店の店長で、運営を一任された責任者だから。


「はあ。ちょっと顔を洗ってくるか」


 もう深夜2時をまわってる。

 眠気を吹っ飛ばそうと、俺はテナントスペースを出た。

 行き先はトイレだ。


「ああ、風呂も考えないとなあ。フードコートでお湯を沸かして外まで運んで水浴びって面倒だし」


 アイヲンモール異世界店は電気が通ってるし水も使えるし、トイレは清潔で快適だ。

 ただ、人が暮らすようにはできてない。

 まあ問題はお風呂ぐらいなんだけど。

 それも魔石ってヤツでコンロを使えてお湯を沸かせるから、問題は場所だけだ。

 フードコートの業務用シンクにお湯を張ってお風呂代わりにしようかと思ったけど止めたのはナイショです。

 炎上こわい! いや異世界だからそもそもネットが使えなくてアップできないけど!


「家具売り場かキャンプ用品に何かないかな。……俺の私物を手配してたぐらいだし、アイヲンが何か用意してるかも。明日探してみるか」


 薄暗いアイヲンモールの店内を、大型の懐中電灯で照らしながら歩いていく。

 左右にテナントが並ぶエリアは中央が吹き抜けになっていて、俺が歩いてる二階の通路から一階と三階が見える。

 人気(ひとけ)はない。

 さっきからずっとブツブツ言いながら歩いてるのはビビってるからじゃない。


「そういえば屋上のドラゴンを見たのは初日の夜だけか。いや見たくないけど。近寄りたくないけど」


 夜のアイヲンモール異世界店。

 なんか誰かに見られてる気がするし、ときどき気配を感じる気がするけど気のせいだ。

 警備員さんは見かけないし、深夜にアイヲンモール異世界店にいるのは俺だけだ。


「……本当に、俺だけなのか? モンスターがいる世界で、商人たちは護衛を雇って移動してるのに、警備もいない?」


 自分の独り言に固まる。


 そうだ。

 日本のアイヲンモールだって、侵入や盗難対策に警備員がいる。

 異世界だって窃盗犯はいるだろう。いわゆる「盗賊」てヤツもいるかもしれない。


 それに人だけじゃない。

 俺は初日の夜にドラゴンと、あとデカくて角が生えたウサギの群れを見かけた。

 アレが建物に突っ込んできたら被害が出るだろう。

 ゴブリンやオーク、オーガみたいな人型のモンスターだっているかもしれないわけで。


「明日クロエに確認しよう。だ、大丈夫、ぜんぶ施錠してるし、そんな、モンスターが入り込むなんてそんなわけがないよね、俺戦えないしそんな、ははは」


 懐中電灯をグッと握りしめる。

 吹き抜けから一階を覗き込む。

 三階を見上げる。

 二階の通路の先を懐中電灯で照らす。

 何もいない。


「だ、だいじょうぶだいじょうぶ。トイレかあ。朝までガマン……いや何もいないし! ビビってないし!」


 静かだ。

 アイヲンモール異世界店の二階と三階の通路にはカーペットが敷かれている。

 俺の足音も聞こえない。


 薄暗く、静かな深夜のアイヲンモール異世界店。

 聞こえるのは俺の衣擦れの音と息づかいだけ。


 通路を曲がる。

 懐中電灯の光に照らされて、赤と青のペイントが見えた。


 トイレだ。

 清潔で快適なアイヲンモールのトイレだ。

 薄暗くて、曲がり角が多くて先を見通せず、鏡で予想しないところが見えて、背後ががら空きになる男性用トイレだ。


 俺は、ゴクリと唾を呑み込んだ。


「いやいや何回も来てるし! 異世界に来てから夜のトイレだって何回も使ってるし! いまさらそんな気にしたってなあ!」


 しんとした空間に、俺の声だけが響く。

 なんで一度イヤな想像をしたら頭から離れないんだろう。

 違うし、小刻みに震えてるのは寒い、寒くはないな、ほらトイレをガマンしてるからだし。あんまりガマンしてないな。


「イケるイケる。まだ子供だった頃トイレは母屋の外にあってボットンだったから。その時からぜんぜんイケたし。爺ちゃんについてきてもらってたけど」


 静けさが聞こえないように、ずっと独り言を続ける。

 懐中電灯を首の付け根に置いて、肩と頬で挟んで両手をフリーにする。

 チャックを下ろして用を足す。


「ほらなんでもない。何にも出ない。小は出たけど。はあ、こんなビビってたなんて誰にも言えないな。クロエなんて爆笑しそう。いやアイツは俺がビビった理由がわからなくて首を傾げてそう」


 チャックを上げる。

 振り返る。


 ()()()()()()がいた。


「おわあああああああ!」


 肩と頬で挟んでた懐中電灯が落ちる。


 半透明の人影がちょっと下がる。


 俺は走り出す。

 あ、手を洗ってないな、とかどうでもいいことが思い浮かぶけどそれどころじゃない。


 トイレを出て通路の角にさしかかる。


 背後から半透明の人影が、ええい、幽霊に追いかけられてる気がして振り返らず走る。


 あの角を曲がれば。


 カーペットを踏みしめて、ダッシュしたまま角を曲がる。


 ()()がいた。


 骸骨が、白い骨をむき出しに立っていた。


「ヒエッ!」


 止まれなくて骸骨に突っ込む。


 ぶつかってガシャンと音がする。


 ゴロゴロ転がって、止まって。


 目を開けると。


 視界いっぱいにしゃれこうべが。


 カタカタ音を立てて嗤う。


「あっ」


 俺の肩に、冷たい感触が当たった。




 目を覚ますとベッドの上だった。

 俺が部屋代わりに使っているテナントスペースのベッドの上だ。


 横になったまま視線を動かす。

 おかしなところはない。


「いやあ、なんか変な夢を見たなあ! 夜のアイヲンモールに幽霊と骸骨が出る夢なんて! はは、俺子供かよ! ああ、知ってる天井ってすばらしい!」


 俺は体を起こした。

 靴は片方履いたまま寝てたみたいだ。

 もう一足の靴はベッドの横に置いてあった。すぐ隣に大型の懐中電灯が並べられている。


 まるで、急いで走って靴が片方脱げて、落とした懐中電灯と一緒に、誰かが拾って並べた、みたいに。


「寝ぼけてたのかな? やっぱり疲れてるとロクなことないね! これからは深夜まで起きてるのやめようっと! いやあ、ヒドい夢を見た!」


 起き上がってベッドから出る。

 何気なくテナントスペースの外、格子状のシャッターの先を見る。


 ()()がいた。


 明るい朝の光を浴びて、骸骨が立っていた。


「ああああああ! 俺もう異世界ヤダ! おウチに帰してくださいもうほんとアイヲンヤバい!」


俺にホラーは書けないようです…w

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