東京のせいにして
味噌汁が吹きこぼれてコンロにジュウジュ
ウと音を立てたのは、母が交通事故にあった
と電話で知らされているときだった。
わたしはコンロを掃除し、明日の準備をし
て、一人六畳の部屋でこたつに寝転がった。
片付ける場所がないので、冬でも夏でもこた
つはそこにありつづけるのだった。わたしは
横になったままスマホを手に取り、母が事故
にあったことをSNSで誰にともなく発信した。
それに対するリアクションは世界のどこから
も返ってこなかった。母を心配する気持ちを
誰かに肩代わりしてもらうわけにはいかない。
そんなことに今更気付いた。
命に関わる怪我をしたわけじゃない。こっ
ちのことは気にしなくて良い、と父は言った。
アパートは相変わらず静かだった。今日に
限って違うことといえば味噌汁の焦げた香り
がほんのすこしばかりするということだけだ。
それもすぐに気にならなくなるだろう。
夜が明けてもここは東京なのだから。