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異次元の中の示現流剣士

ほんの少しだけ雷蔵視点に移ります

「招待してやろう、貴様等が渇望する戦場へと」


 虚無の空間の中で、雷蔵はユスの木刀を、白羽は化合弓コンパウンドボウを構え、声の主と対峙した。

 光届かぬ暗黒に包まれ、上下左右もわからぬこの空間は、自らの正気を疑ってしまうほど夢のように現実味がない。

 しかし、雷蔵は己の鼓動を確かに感じ取り、此処が夢でも幻想でもなく、紛れも無い現実であると確信した。


「ここは何処だ? 俺達に何をしている?」

「何処でもない。貴様等を運ぶ際に通過する運行通路といったところだ」

「運ぶだと……俺達を何処へと連れ出すつもりだ? まさか……」 

「無論、『戦場』だ。貴様等が望んだことであろう」


『戦場』という言葉を聞き、雷蔵は逡巡する。

 直前の白羽との会話で、戦国の世に生まれ落ちたら云々といった話が出たが、よもやそれを指しているのだろうか?

 そうであると仮定したら、とんでもない事である。

 そんな雑談の華の中でふと湧いて出た、他愛のない与太話を本気にされ、『戦場』へと招集されるとは。


「馬鹿なことを言うな! 無理矢理に連行されてまで、俺は『武術』を振るうつもりはない!」

「雷蔵さん……あの……」


 激昂する雷蔵に、銀色の矢を番えたまま固まっていた白羽が遠慮気味に話しかけた。


「どうした? 早くこの狼藉者を射抜いてでも黙らせてやるんだ」

「いえ、先程からそうしようと、この暗闇の中を視ていたのですが……ここには何もありません」

「何もないとは、どういうことだ? ならば、ここで響く声の主は何処にいるというのだ」

「わたしの目には『神秘』が宿っています。夜目が効くだけでなく、信じられないかもしれませんが、山の頂上より麓をつぶさに観察することすらできまず。そんなわたしの目に、この空間は何も映らないのです」


 何も映らない。

 白羽が語ったその言葉は妙に説得力を感じさせ、この亜空間が無限に続く監獄であると雷蔵は痛感した。


「クックックッ……貴様等は籠に囚われた鳥よ。大人しく我らに招かれるが良い。何、悪いようにはしない。貴様等は『救世主』となるのだからな……」


 空間の主の言葉を聞き流しながら、雷蔵と白羽は状況を打破するべく思考を巡らせた。

 二人が所持するものは、着用している衣類と各々の得物のみ。

 加えて、暗闇の中でふわふわと浮いている状態では、満足に『武術』を駆使することも叶わない。

 やがて、白羽は物憂げな表情で雷蔵に語りかけた。


「……はぁ……わたしにはこの状況から抜け出すことは出来ないみたいです……雷蔵さんにお任せしてもよろしいですか?」

「任せると言われてもだなぁ。この通り宙ぶらりんとなっていては踏み込むこともできないぞ」

「ならば、わたしを使ってください。わたしがあなたの足場となります」


 白羽の暗い瞳の中に覚悟を感じた雷蔵は彼女の腕を掴み、その身体をぐいっと己の足元へと引き寄せた。

 乙女を足蹴にし、雷蔵は遠慮なくその小さな背中を踏み、木刀を「蜻蛉」に構えた。


「何だ? 貴様等は一体何をしている?」

「黙って見ていろ。俺達が籠の中に大人しく閉じこもるタマがどうか、目に物見せてくれる!」


 困惑する空間の主に、雷蔵は力強く言葉を返す。


(俺の「示現流」が「神秘」にまで到達したというのならば出来るはずだ。『雲耀の太刀』は如何なるモノも斬り捨てる!)


「キェェェェェェェェェェェェェェィィィィッ!!!」

「痛っ!? 思ったより痛いです!」


 猿叫を轟かせ、雷蔵は白羽の背に踏み込み、握り慣れたユスの木刀を右袈裟に振るった。

 ビガッッッ!と雷鳴の如く響く轟音と共に虚無に刻み込まれた『雲耀の太刀』は亜空間に歪みを生じさせた。

 虚空に出現した切れ目から、パンパンに膨れた風船が勢い良く空気を吐き出すように、虚無が外部へと搾り出されていく。


「馬鹿なッ!? 我輩の『インフィニットスペース』を切り裂くとは!?」


 狼狽する空間の主を気にも留めず、雷蔵と白羽は虚空の切れ目へと吸い込まれていた。

 切れ目からは広大な荒野が覗いている。

 二人はそこが出口だと確信し、抵抗することなく向かっていた。


「よせ! 正気か貴様等!? ひとまずは吾輩から離れてはならぬ!『魔法』も知らぬヒトの身では命を落とすぞ!!!」

「このまま抵抗もせずに連行されるよりは上等だ」


 雷蔵と白羽は頷き合うと、互いの手を握りながら切れ目へと飛び込んだ。

 二人が消え去った亜空間の中で、一人その主は途方に暮れていた。


「何ということを……至急、手を打たねば……」


 ☆☆☆


 闇の国「テネブラム」が誇る移動魔導城砦「アーテル」

 マウンテンタートルと呼ばれし巨大な魔獣の背に、異形の軍勢の本拠地ともいえる魔導城砦が聳え立っている。

 その広大なる魔城の王室にて、『魔王』ラウス=ベルルームは頭を抱えていた。


「魔王様、如何なされました!?」


 側近である黒鎧の剣士が深刻な声色で『魔王』へと近寄った。


「大したことではない……と言いたい所であるが、事態は一刻を争う。至急『四大魔将軍』を招集せよ」

「ハッ! 直ちに!」


「テネブラム」随一の剣士であり、『魔王』の血を引く魔将軍筆頭、「血塗られし魔剣 (ブラッディブレイド)」ルシルクル=ベルルームは、その尋常ならぬ雰囲気を察して、影のように王室から消え去った。

次は『勇者』サイドとなります

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