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幻想世界の勇者

今回より視点が変わります

 コンティネンス大陸は5つの国に分かれている。

 東方には果てしない荒野と活火山の噴煙に包まれし

 火の国「ルーブル」

 南方には巨大な入り江とそれを囲む湿地帯に囲まれた

 水の国「カーレウム」

 西方には渓谷の間の谷風が休むこと無く息吹く

 風の国「ウィリデス」

 北方には数多くの霊峰が天高く聳え立つ

 土の国「フルス」

 そして中央には豊かな資源に風光明媚な大自然、更に大陸で最も優れた文明を有する

 光の国「ルクスグス」

「火」「水」「風」「土」「光」の国によってこの大陸は治められ、人々は長き平和を噛みしめながら、平穏な日々がいつまでも続くと疑いなく信じていた。

 しかしながら、突如、コンティネンス大陸の平穏は崩れ去った。

 闇の帝国「テネブラム」を名乗る異形の集団が遠方より現れ、五大国を襲撃したのである。

 特に東方の火の国「ルーブル」は壊滅的な被害を受け、その戦線は光の国「ルクスグス」まで迫っていた。

 そんな時代に、一人の『勇者』が立ち上がった。

 大陸を渡り歩き出会った三人の頼もしき仲間を伴い、闇の帝国と対峙した。

『勇者』『魔法使い』『戦士』『僧侶』からなる部隊パーティは、人々の希望の象徴となっていた。


 ☆☆☆


 赤土の荒野にて、一人の『勇者』が異形の大群に立ち向かっていた。


「燃え上がれ炎の精霊力エレメント!『バーニングエッジ』!」


 詠唱によって大気に満ちる火精霊サラマンドラが『勇者』フレイに掌握され、灼爛の炎を纏い輝く聖剣が黒き鎧に包まれた鬼兵オークを灰燼へと帰した。

 赤髪の『勇者』フレイは、百に迫る鬼兵オークの軍団とたった一人で相対していた。

 グルル……と呻き声をあげながら、異形の戦士達は棍棒を振りかざし、『勇者』を肉塊に変えんと迫り来る。

 フレイは身を翻し全ての剛腕を蜉蝣かげろうの如く避け、太陽に届くと見紛うほど跳躍した。

 掌握した火精霊サラマンドラを全て己が聖剣の剣先へと結集させ、炎の剣技が炸裂する。


「吹き飛べ!『メテオフォール』!!!」


 フレイが流星と化して舞い降りた瞬間に、赤土の荒野は爆炎に包まれた。

 火精霊サラマンドラが凝縮されし聖剣が、隕石の落下の如き衝撃と共に大爆発を引き起こしたのである。

 異形の集団の中心へと落とされた隕石は、その爆心地に存在した鬼兵オークを一匹残さず殲滅した。

『清浄なる白炎 (ヘブンリーブレイズ)』の異名を誇る『火の勇者』フレデリック=パクスの、一騎当千の無双であった。


 ☆☆☆


 異形の軍団が焼失した赤土の荒野に、老若男女入り混じった四人の集団が居た。


「もうっ! どうして、いつもひとりで突っ走るのよ!」


 宝石のように輝く青髪の美女が『勇者』を叱りつけていた。

 フレイは小動物の如く身を竦め、萎縮している。


「ご……ごめん、エヴァ。でも、少しでも兵士達の犠牲を減らすためには、一番脚が疾いボクが行くべきだと思って……」

「いくら相手の鬼兵オークの群れでも、万が一ということを考えなさい! もし『魔将軍』とでも鉢合わせしていたら、いくらフレイでも無事では済まなかったわ! もっと、私に頼りなさいよ!」


 激しい剣幕で怒鳴る『水の魔法使い』エヴァ=メルクリウスは凛とした視線でフレイを睨みつけていた。

 豊満な胸元を覗かせるアクアブルーのローブを身に付けた『魔法使い』は、そのプロポーションも相まってお伽話の中の魔女のように妖艶に映るが、同時に母のような暖かさをもフレイに感じさせていた。

 その双眸の中に薄っすら浮かべている涙を見つけたフレイはバツが悪そうに身を縮めた。


「ガァーハッハッハ!!! その辺にしておいてやれよ、エヴァ。フレイが『テネブラム』の尖兵なんぞに遅れを取るかってんだよ。何せ、この俺様が認めた『勇者』だぜ?」

「うわっ!? ゲオ、やめろよ~!」

「もうっ! 貴方がそういう態度だからフレイは調子に乗るのよ!」


 フレイの燃えるような赤髪をわしゃわしゃと撫で回す大男の名は『土の戦士』ゲオルギウス=ベルグランデ。

 ゲオルギウスは、熊のような巨体とそれを担う鍛え抜かれた肉体を持つ大戦士である。

 エヴァの剣幕を何処吹く風と受け流し、『戦士』はフレイの武勇に無骨な顔面を綻ばせている。


「しかしながら、フレイ殿。恐れながら、儂もこの度の出撃は猛省すべしであると思いますぞ。貴公がどれ程優れた剣士……いや、失礼『勇者』であろうとも、独りでは限界がございまする。突出する兵は猪の如し、故にその首掻き取られてるのも容易い。貴公という『勇者』を失えば、我々は死んでも死にきれませぬ。故に、これ以降は浅はかなことはせぬよう……」

「わかった! わかったよ、セネクス先生! もう無茶はしないと約束します! お説教は後で聞きますから!」


『風の僧侶』セネクス=マールスがクドクドと説教じみて苦言を呈しだし、フレイは慌てて話を切り上げた。

 白髪が混じった緑髪にの黄緑色の僧帽、そして厳格なる純白の法衣を纏う老僧侶は未だ険しい視線を向けている。


「話はまだ終わっていませんぞ!」

「セネクス先生……あの、『テネブラム』の残党がまだこの辺りに残っているかもわかりませんし、見回りを続けるべきかと……」

「おっと、これは失礼。儂としたことが口喧しくて申し訳ございませぬ」


 エヴァが遠慮気味に申し出たことで、セネクスは呆気無く身を退いた。

 フレイは助け舟を出してくれたエヴァに目線でもって感謝し、三人の仲間を見渡すように語りかけた。


「セネクス先生、ゲオも、そしてエヴァも……どうしても言っておきたいことがあるんだ」


 美しき『魔法使い』が、屈強な『戦士』が、厳格な『僧侶』が、凛とした顔で何かを宣言しようとする『勇者』に目を向けた。


「こんなボクに手を貸してくれて、ありがとう。ボクはいくら『勇者』と持て囃されようとも、自分一人では何もできない、ちっぽけな存在だと思うんだ。『魔法』ではエヴァにとても叶わないし、『武術』でもゲオに一度だって勝ったこともないし、『知識』なんて到底、セネクス先生に及ぶはずもない。でも、そんなボクが少しでも役に立てることがあるとすれば、それは『勇気』を振るう瞬間だけなんだ。『勇者』として誰よりも疾く先陣を切って魔獣に突撃することが、ボクができる唯一の恩返しなんだ。後に続く仲間達が力になってくれるから、ボクは『勇気』を振り絞ることができる。だから、これからも、ボクの仲間でいて欲しいというか……えーと何を言いたかったんだっけ?」


 照れくさそうに告白する『勇者』の胸の内の言葉に、仲間達は優しく微笑み、力強く頷いた。


「私はいつまでも貴方の仲間よ。だからもっと、頼りなさいと言ってるのよ、まったく、もぅ……嬉しいじゃない……」

「ガァーハッハッハ!!! フレイ、俺様に『武術』で勝とう何ざ、百年かかっても無理に決まってるんだよぉ。俺様が居る限り、テメェは生涯この大陸のナンバー2さ」

「老いぼれには勿体無さ過ぎる言葉ですぞ……ただほんの少しだけ、足並みを揃えてくれるとこの老体には嬉しいですな」


 各々の反応に、フレイは頬をかきながら、背を向けた。


「う~……なんか苦手だよ、この生暖かい空気……ええい、とにかくみんなボクに付いて来ーい!」


 照れを隠すように流星の如く荒野を駆け出す『勇者』に、仲間達は呆れ顔で続いて行った。

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