幻想世界の侍
新しい作品を投下します。
楽しんでもらえたら幸いです。
其処は戦場であった。
剣戟が響き、矢が飛び交う、鮮血で彩られた戦場であった。
戦場を行き交うのは鉄の武器のみにあらず。
爆炎が、吹雪が、烈風が、石礫が、ありとあらゆる自然現象が戦士達を蹂躙していた。
杖から、水晶から、指先から『魔法』が放たれ、戦場を更なる混乱へと陥れていた。
鼻をつく死体の異臭と断末魔の叫びが響く戦場の一角で、新たなる怒号が轟いた。
「キェェェェェェェェェェェェェェィィィィッ!!!」
獣の如き叫びと共に、一人の男が戦場を駆け抜ける。
打ち込まれる剣戟も、飛び交う矢も、神秘なる『魔法』でさえも、ただ一つの刀をもって切り捨てた。
男の猛進を遮るべく、白銀の鎧に包まれた騎士が聖なる光の刃を大剣から撃ち放つ。
気合一閃。
雄叫びと共に、迫り来る光刃を男は切り払った。
白銀の騎士は、己が奥義を何気もなしに打ち破られ狼狽したその瞬間に、あっさりと右袈裟より両断された。
漆黒の和服に身を包んだその男はその亡骸に一瞥もせず、新たなる標的を求めて戦場を徘徊する。
幻想の世界において全てが異質な存在である『侍』が、我が物顔で異世界の戦場を跋扈していた。
「……ジ……ゲン……」
戦鬼の如き侍の闘争を目撃した兵士が、畏怖と共にその名を呟いた。