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Winter 前編

友人からのリクエストの前編です。


列車とは程遠い倉庫のようなところで少年は座り込んでいた。

冬の厳しい寒さを帯びた風が何度もガラス窓を揺らす。

列車が揺れるのと相俟って、ギシギシとひどく不安定な音が止まない。

「・・・・・・」

少年はボロボロの衣服の上から肌を摩り、白い息を吐いた。

隅に座り身体を震わせているこの憐れな少年は、孤児院を出て行かされたばかり。

手にはクシャクシャになった工場の地図が描かれている・・・・・・大陸の最果てにある工業地帯への。

少年は再び息を吐き、冷気に身体を震わせた。

喋ることを忘れた少年の口からは、言語のカタチを大きく崩した何かが時おり零れる。

外から烏の大群の鳴き声が聞こえ、少年は何故か嬉しくなりそれを真似ようとしたが、列車の音に掻き消される。

車内はまた静寂に包まれ、少年は目を伏せると初めて横になった。

床に触れた耳に軋むような音が殴りこんできたので、少年は眉をひそめると仰向けに体勢を変える。

無機質な天井から目を逸らすと、何かが少し向こうで動いた。

逃げる気力も体力も無かったのでそのままジッとしていると、声が聞こえた。

「これが底辺というものなのか」

掠れた声だった・・・・・・少し若いけれど自分よりずっと年上の声。

少年は久しぶりに聞いた人の声に自分の為になんとか応えようと、今まで言葉を発していなかった唇を動かし何度も奇声を漏らした。

「・・・俺、なんか・・・まだ・・・マシ、だ」

少しだけ月の光が射し込み、一人の青年と目が合った。

上等そうな服が破れているもあるせいか、その瞳は暗く澱んでいるように見える。

「例え君にはそうだとしても、私にはこれが底辺だよ」

ただ淡々とした何の感情もこもっていない声で青年はそう応えた。

青年はそれきり口を噤み、再び静けさが戻る。

列車の音が聞こえる。

少年は喋りたらない舌を必死に口の中で動かした。

端的に言えば、言葉に飢えているのだ。

突然乾きはじめた唇から白い息を吐きだすと、軋むガラスを少し見る。

橋に差し掛かったようだ。

更に揺れる列車に身体を預け、少年は目を閉じた。

まだ、夜は長い。



素晴らしいお題を下さった友人に改めてここで感謝を述べたいと思います。

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