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文化祭 - 三

浩輔に取り残された俺は、とりあえず校舎の中を彷徨う事にした。彷徨うといっても、ついさっきまで浩輔と一通り回りきったため、真新しい物なんて特に見当たらない。

況してや、俺にはここに浩輔以外知り合いなんて誰一人としていない。大勢の女子高生がいるなかで、見知らぬ男子高校生が一人ポツン。なんとも悲しい状況だ。

逆に、浩輔を一人ここに残して帰るという選択肢もないわけではないのだが、それはそれでアイツが一人で楽しむのが目に見えて、なんだか腹立たしい。


うーん、どうしたものか…。


一人考えながら廊下を歩く。そのうち、そんな事を考えているのもバカらしくなったので、ふと、ガラス窓から見える外を見ながら、そのまま廊下を歩く。


ふむ、なんとも天気がいい。あ、鳥も飛んでる。何の鳥だ?と、次第に本当にどうでもいいことを頭の中に浮かべていた。この間、約十秒程といったところだろうか。ぼちぼち前を向こうかと思った瞬間、突如前方から、


「あーっ!」


という叫びにも似た声が聞こえた。


『なんだ?』


と思って前を向いた瞬間、俺は一気にびしょ濡れになった…。かと思いきや、次に物凄い勢いで人が俺に飛び込んできた。

あまりの急な出来事に、俺はその飛び込んできた人を受け止める余裕もなく、ぶつかってきた勢いそのままに後ろに倒れた。

それと同時に、『ゴンッ!』という音と共に後頭部を強打。

俺は、


「ぬおぉぉ…。」


という唸り声を上げながら、後頭部を抱え込む。

あまりの一瞬の出来事に、なにがなんだか状況が全く理解出来なかった。そして、物凄く痛い。

でも、このシチュエーション、学園恋愛マンガとかでよくある、『この事件がきっかけで二人は恋に落ちて…。』的な流れか?なんて事を淡く期待した。しかし、現実はそんなに甘いものではなかった。踞ったままの俺の耳に飛び込んできた言葉は、淡いなんて言葉を一気に吹き飛ばすものだった。


「アンタ何こんな所でボケーッと突っ立ってんのよ、邪魔じゃない!!折角先生に飲み物渡そうと思ってたのに!!どうしてくれんのよ!!」


その一言を言い放った後、その女はその場にぶちまけた飲み物の残骸を片付けもせず、「先生ー!」の一言と共にその場を去っていった。


俺は唖然とした。


そして周囲には、なんとも言えない沈黙が流れ、それと共に幾多もの女子生徒の憐れみの視線が刺さるように飛んできた。

それに気がついた俺は、内心動揺しながらも、無造作に転がっている紙コップを立て、何事もなかったかの様にその場を後にした。


俺は、飲み物でびっしょりと濡れた制服を洗う為に洗い場を探した。幸いにも学ランを着ていたので、被害はそれだけで済んだ。

校庭の隅に洗い場を見つけたので、とりあえずそこで制服を軽く洗い流す事にした。

しかしまあ、女子高の文化祭に来ていながら、男一人で制服を洗っている姿はなんとも惨めなものだ。そんな姿を頭に浮かべた途端、先程の事件に対して怒りが沸々とわいてきた。


「つか、なんなんだよさっきの女。ぶつかって、ジュースぶちまけて、挙げ句の果てには逆ギレかよ。しかも、『先生~♪』だって。こんな性格ブス、先生だって相手すんの嫌だろうよ…。にしても、痛えな、チキショー…。」


と、ぶつくさ独り言を呟きながら制服を洗っていると、背後からぼそぼそと声らしきものが聞こえた気がする。


「…ません。」


しかし、水道から勢いよく出る水の音にかき消され、はっきりと俺の耳には届かなかった。俺はさらにブツブツ呟きながら制服を洗う。


「…みません。」


俺は制服を洗い終え、水道を止めた。洗い終えた制服を二、三度パタパタと軽くはたき、洗い場を立ち去ろうと振り返った。

それと同時に目の前から、


「すみませーん!!」


と、大声が俺に俺に向かって飛んできた。突然の大声と、知り合いもいないこんな所で話しかけられるという出来事に驚き、俺の心臓は激しく揺れ、俺の体は大きく跳ね上がった。


「うわっ!!えっ、えっ?は、はいっ?」


動揺のあまり、おかしな返事をしてしまった…。それと同時に、洗ったばかりの学ランを落としてしまった。

目の前には、眼鏡をかけた小柄な女の子が立っていた。だが、俺は全く見覚えもない。聖愛の制服を着ているので、ここの子には間違いない。はて、何故話しかけられたのだろうか?とりあえず、彼女に問い掛けてみる。


「あの、すみません…。どちら様でしょう?」


すると、彼女は少しおどおどした様子で話始めた。


「あ、突然お声かけして申しわけありません。私は聖愛女学院で生徒会をやっています、藤咲菜緒と申します。先程うちの学校の生徒がご迷惑をおかけしたと伺いまして。それで、お詫びにと思って声をかけさせて頂きました。」


というと、彼女は深々と頭を下げた。おいおい、初対面の人にいきなり謝られてもこっちも困るわ。とりあえず俺は、


「あの、いきなり頭を下げられても困るんだ。ちょっと頭上げてもらってもいいかな…。」


しかし、菜緒という女の子は中々頭を上げようとしない。それどころか、頭を下げたまま言葉を続けた。


「いえ、そういうわけにはいきません。我が校の生徒がご迷惑をおかけしたのに謝らないわけには。本当に申しわけありません。」


うーん、困った。とりあえず再度声をかける。


「あのぉ、藤咲さんだっけ?さっきの事はもう大丈夫だから、頭上げてくんないかな…?」


するとその子は、申し訳なさそうにゆっくりと頭を上げた。これでやっと話が出来る。俺は再び彼女に向かって話しかけた。


「なんか、わざわざゴメンね。でも、君が俺にぶつかったわけじゃないし、そんなに謝らなくてもいいよ。確かにさっきの子にはちょっとイラッとしてるけどね。でも、君みたいにちゃんとしてる子もいるってわかったからよかったよ。ありがとね。」


そういうと、その子は恥ずかしそうに俯いた。次の瞬間彼女から、


「あっ。」


という声が聞こえた。


「あの…、制服落ちてますよ。」


そうだった。さっき驚いた瞬間に、洗ったばかりの制服を落としたんだった。


「あー、さっき藤咲さんに驚かされたのと一緒に制服落としちゃったんだ。大丈夫だよ、また洗うから。」


悪戯に笑いながら制服を拾おうとすると、彼女が咄嗟に寄ってきて砂まみれになった俺の制服を拾って、


「すみません、私に洗わせてください。」


そういって、洗い場で俺の制服を洗い始めた。俺は他の人に制服を洗ってもらうのを申し訳なく思い、


「いやいや大丈夫だよ、俺自分でやるから。他にもまだ文化祭の仕事とかあるんじゃないの?」


そう聞くと、彼女は制服を洗いながらこっちを見て、


「大丈夫です、やらせてください。私が驚かせて制服落としちゃったんで。」


と、ニコッと笑ってそのまま制服を洗い続けた。俺は彼女の何気ないその笑顔に、少しドキッとした。この藤咲って子、よく見ると結構カワイイ。眼鏡をかけてはいるが、目鼻立ちがはっきりとしていて、端的に言うと『眼鏡美人』ってところかな。なんて事を考えていたら、俺の悪い癖が突発的に出てしまった。


「今見ててふと思ったんだけど、藤咲さんってカワイイよね。」


これである。俺は昔から、思ったことをすぐ口に出してしまうのだ。別に悪気は無い。しかも、褒めているのだから別に良いのでは?ぐらいに思ってしまうのだ。


これを聞いた彼女はさすがに驚いて、


「えっ、えっ!何を言ってるんですか、そんな事ありません!」


と、困惑と少々怒りの交じった返事が返ってきた。俺もまさかそんなリアクションが返ってくるとは思ってもみず、少し困惑した。こういう無神経なところが俺の悪いところだろう。そうこうしているうちに、彼女は俺の制服を洗い終えた。びしょりと濡れた俺の制服を何度かパンパンと叩いて水を切り、


「はい、終わりました。」


俺に制服を返そうと、一旦俺に制服を差し出した。俺もそれを受け取ろうと手を差し出したが、彼女は突然差し出したその手を戻してこう言った。


「さすがにこんなに濡れたままだと着て帰れないですよね。」


それはそうだが、流石に俺もこのびしょ濡れの制服を着るつもりは無い。なので、


「あー、大丈夫だよ、俺そのまま持って帰るし。暫く持ってたら乾くでしょ。」


と言って制服を受け取ろうとすると彼女は、


「そういうわけにはいきません。あっ、家庭科室にアイロンがあるので、それでやれば少しは乾くかもしれません。とりあえず、家庭科室に行きましょう。」


そういうと、半ば強引に俺を連れて家庭科室へと歩き出した。そこまでしてくれなくてもいいのに…と内心思いながらも、俺は彼女についていく事にした。幸いな事に、浩輔もあの友香という女の子と一緒に行動していて俺一人時間を持余していたので、これはこれで丁度よかったのかもしれない。


家庭科室につくと、そこでは喫茶店が開かれていた。やはり文化祭の一つの華ということもあってか、中にも外にも多くの人で溢れていた。そんな中、彼女はアイロンを取りに教室の中へ入っていった。暫くすると、アイロンを手にした彼女が戻ってきた。


「お待たせしました。今、ちょっと中を見てきたんですけど、喫茶店すごく大盛況でした。」


と笑顔で言った。


「でも、ここだとちょっとアイロンかけれそうにないので、生徒会室に行きましょう。あそこだったら誰もいないと思うので。」


「まあ、これだけ人がいたらアイロンはかけれないね。それなら移動しよっか。」


そう言い、俺達は生徒会室へ向かうことにした。


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