誕生日プレゼント
「うぁ~…暇だぁ…。」
なんの代わり映えも無い週末。俺は部屋でゴロゴロしながら同じ台詞を吐き続けていた。見るからに無気力且つダメ人間の週末である。
決して友達がいないわけではない。寧ろ多い方だ。でも、誰にだって何の予定もない、そんな週末だってあるはずだ。そんな時は誰だって思うはずだ、暇だって。
「暇だぁ~。暇だぁ~。」
ゴロゴロ、ゴ…。んっ?
部屋の中央に目をやると、クッションの上に俺の携帯が無造作に転がっている。
特に電話もメールもあるわけではないが、暇つぶしにいじってみる。
ネット…つまらん。ゲーム…何の充実感もない。音楽…いつも聞いてるし。何か他に面白い事はないか?う~ん。特に思い浮かぶものも無いので、とりあえず電話帳をいじってみる。
誰かに連絡でもしてみようかな?由佳ちゃん、カオリ、圭介、良太…あっ。
ふと、1件の名前に目が留まった。それは、俺の携帯の「友人・地元」に登録されている、陣内浩輔。その名前だった。
コイツは、俺の幼馴染みで、小学校の頃からずっとつるんでいた、親友であり悪友でもある奴だ。
浩輔は、自分の中で何かイベントがあると、事ある毎に俺に電話を掛けてきてはろくでもない事に巻き込む。
今の俺は、コイツのせい…いや、浩輔のお陰であるといっても過言ではない。ただし、浩輔との思いでは大半がロクなものがない。
幾つかのエピソードを挙げてみよう。
エピソード1:誕生日プレゼント
あれは高校2年の夏の誕生日の夜の出来事だった。
家族に誕生日を祝ってもらい、食事を済ませ部屋に戻っていた時の事だった。時間は22時を既に回っていた。俺は部屋で音楽を聞きながら、学校の宿題をやっていた。すると、突然誰かが部屋の窓を、力惜しげもなく叩きだした。
ドンドンドンドンッ!!ドンドンドンドンッ!!
こんな時間にいきなり誰だっ!(怒)
この時間に俺の部屋の窓から来る奴なんて、数えてもそうはいない。俺は何に恐れることもなく、思いっきり部屋のカーテンを開けた。
しかし、そこには誰もいない。・・・だ、誰だ?
すると数秒後、俺の家の電話が突然鳴り出した。俺は急いで電話に出る。
「もしもし?どちら様ですか?」
俺からの問いに対して、答えが無い。そして暫く沈黙が続く。
ガチャッ。
その電話は突然切れる。
何なんだ?俺は少し怒りを覚えながら部屋に戻る。部屋に戻ると、また
ドンドンドンドンッ!!ドンドンドンドンッ!!
何なんだ一体!俺は猛烈な怒りと共に、再びカーテンを開けた。
すると、そこには満面の笑みを浮かべた浩輔が立っていた。浩輔は、俺がカーテンを開けたにも関わらず、さらに部屋の窓を叩き続けた。
「うるせーっ!」
俺は怒りを顕にし、部屋の窓を開けて大声で叫んだ。
「よっ!晃、お疲れっ!」
浩輔は俺の怒りを物ともしない自由奔放な奴だ。
「『よっ!』じゃねーよ!こんな遅くに一体なんなんだよ。」
「おーおー、言ってくれんじゃねーかよ。お前の誕生日だと思って折角来たのによぉ?」
どうやら浩輔は俺の誕生日を祝いに来たらしい。
「何だよ。お前、よく俺の誕生日なんか覚えてたなぁ?」
「当たり前だろぉ?ダチの誕生日くらい覚えてんのはジョーシキ、ジョーシキ!」
「ホントかぁ?お前何かが目当てで来たんじゃないのか?」
俺は浩輔の性格を知り尽くしている。それが故に浩輔に疑いをかけた。
「お前なぁ。俺は本当にお前の誕生日を祝いに来たんだよ!プレゼントだって持って来たんだぜ?」
「…ホ、ホントか?」
俺は、まだ疑いを拭いきれない。
「ホントだよ。まぁ、いいからちょっと外に出ろよ!」
外?一体外に何があると言うんだ?俺は浩輔に言われるがままに外へでてついていった。
ついていくと、浩輔は徐に川岸に座った。
「ホレ、座れ。」
「…お、おぅ。」
すると、浩輔は洋服のポケットを探り出した。
「手出せよ。」
「オィ、変なもんじゃないだろうなぁ?」
俺は浩輔への疑いが最後まで拭いきれなかったが、恐る恐る俺は手を出した。
「ジャン!!」
浩輔は満面の笑みと共に、俺の手の上に小さな箱を乗せた。そして、浩輔はゆっくりと乗せた手を戻した。
すると、俺の手のひらに現れたのは、今は懐かしい、金色の星で数字の7を描いたセブンスター。そう、明らかにタバコである。
「浩輔、ちょっと待て。これ、セブンスターじゃないか。」
「おぅ、そうだよ、当たり前じゃん。」
「『当たり前じゃん。』じゃねーよ。誕生日プレゼントにタバコっておかしいだろ?俺達まだ高校生だぞ?」
「いーじゃん別に。俺も吸ってるし。(笑)」
「いいわけねーだろっ!(怒)」
「まー、一本吸ってみて、ダメだったら俺貰うから。」
浩輔は相変わらずの笑顔で、相変わらずな変なことを言う。
本来であればタバコなんぞは全く吸う気も無かったのだが、誕生日にわざわざ家までこんな遅くに持ってきてくれたという、変な情にかられてしまい、俺は1本だけと心に決め、タバコに口をつけた。
ライターで火をつけ、思い切り吸い込み、そして吐き出す。
・・・?
特にこれといって何も・・・!”#$%&!!
煙を吐いた途端、頭がボーっとなり、目の前がグルグルと回り始めた。
「な…なんだ、これは!」
浩輔はフラフラになっている俺を見ながら大爆笑。一頻り笑いが収まると、浩輔はこういった。
「大丈夫、大丈夫!俺も初めての時はそうだったから。そしてすぐに治るから心配すんな!」
俺からすれば大迷惑である。俺はフラフラのまま部屋に戻った。
「じゃ、俺帰るから♪」
浩輔はダメージを受けた俺を見て、楽しそうに去っていった。
悔しかった。浩輔にしてやられた悔しさが俺の胸をいっぱいにした。そして俺は一つの疑問が頭を過ぎった。浩輔は毎日吸っているのに、何故なんともないんだ?
今となっては、自分自身お馬鹿な考えだとその時の自分を悔やんでしまうが、俺は馬鹿にされた悔しさからか、もう一度浩輔がくれたタバコに手を伸ばした。
2本目のタバコでは、何も起きず普通に吸えてしまったのだ。その事が浩輔に勝ったような気になり、嬉しくて仕方なく、次に浩輔に会った時は、目の前で自信満々で吸ってやろうと、それから何本ものタバコに手を出したのだった。
これが俺と浩輔のお馬鹿な誕生日エピソードである。