第七話:東未奈美と生徒会長室前
第七話
再びやってきた生徒会室、今度は迷子でやってきたわけではない。
自分の意思でやってきたのだ。既に頭の中で着々と学園の地図は作られているからな。蒼の鍵、紅の鍵、魔王城の地下倉庫の鍵を使わないと入れない部屋があるとは思いもしなかったけど。
「しかし、緊張するぜ」
俺は教室内が満杯の状態で中に入ろうというのが苦手だ。みんなの視線が嫌なんだよ。
悩み始めて二十秒、体感的に三分間の時間が過ぎたところで肩を叩かれる。
振り返るとそこには見た顔があった。
「また、迷子ですか?」
「違います」
「あの、恥ずかしがらなくてもいいんですよ。迷子は誰だって、経験があるものですから」
背伸びする男の子に対して優しく話しかけるようにされても俺が困るだけだ。
「いや、本当に違いますから」
「じゃあどんな理由で来たのですか?」
「えーっと、お礼を言いに来たんです」
「お礼ですか?誰にでしょう」
「あなたに、です」
東未奈美さんって若干天然はいってるよな。天然の人間扱いに困るから苦手なんだよなぁ。人間関係が嫌だいやだと言っていたら後に酷い目にあうのはお約束か。
「ああ、立候補を代行した事ですね」
「ほわい?」
首をかしげるしかなかった。
「どういう事でしょう」
「この前生徒会長が不在だと言う話をしましたね?」
「しました」
それはちゃんと覚えている。何せ、目の前の人物に出会った時の事だからなぁ。
「出たいと言っていましたよね?」
「言いましたっけ」
立候補代行って一体、どういうこったい。
「生徒会書記推薦候補、です。どうですか?」
「どうですかって」
「基本的には生徒会メンバーによる推薦または経験者の立候補でなければ当選しませんよ」
意外と黒い裏面があるんだな。いやらしく笑う姿もさまになっているからこの人はこわそうだ。
「この書類に目を通してくださいね」
「えっ、っと…」
手渡された書類とは言い難い冊子だった。
五センチの厚みを感じられる冊子を軽く開けると『特権』と書かれたページのようだ。
「特権その一、食堂を二割で頂ける…だと」
「はいー」
お金関係を絡めてくるとは思わなんだ。
「あとは資金流用を率先して行えます」
「ふむ、ふむふむ…あれ?でも会計係ってかっこしてある。何で?」
「それは会計がお金を使いますし、握っていますから」
羽津学園生徒会かなり、暗い所なんじゃないのか?
「生徒会長選挙はすぐに始まりますよ」
「すぐにっていつですか」
「今日の放課後、わたしが代行として手をあげます。冬治君にはそこで挨拶をしてもらいます。最初に出会った時にピンと来たのです。あなたのようなひとを生徒会は欲しがっているのだと。何でも、言う事を聞いてくれそうですからね」
にこりと微笑まれてふと思う。ああ、この人もそれなりに黒い人なのかもな、と。
「今の状況で敵となりうる相手は副生徒会長ですね。副生徒会長は副生徒会長として、あくまで独立した存在ですので生徒会長にはなれないのです」
「そうなんですか」
「ええ、でも安心してください。副生徒会長が立候補させた相手に刺客を向かわせていますから、わたしたちと同程度まで力をそぎ落とされる事でしょう」
この人は俺が生徒会長に立候補しないと言ったらどんな顔をするのだろうか。
「あのー、俺には立候補する気なんてさらっさらないのですが」
「ありがとうございます、この前のお礼が立候補という事なんですよね」
「…」
人の良心を突いてくるとは酷い人もいたものだ。
「ここで俺が『それでも、それでも俺は出たくないっ』と言ったらどうなるのでしょう」
「どうもなりませんよ。ただ、ほんのちょっとだけ学園生活に支障をきたすだけです」
「ほんのちょっと?」
「明日から学園に来たく無くなるような事が、起きます」
起こすの間違いなんじゃないのか?占い師が『貴方は大吉です』と言った後、全力でサポートすれば百発百中に成るはずだ。
「どうでしょう、悪い事は言いませんからちょっとやってみませんか?」
「ふむー…」
「生徒会長、楽しいですよ」
「あの、以前の生徒会長は何で居ないんでしたっけ」
「過労による転校です」
生徒会長という役職は過労で転校するほど過酷で険しい道なのだろうか。甚だ疑問が残るような話だ。
「頑張ってくださいね」
「…まぁ、東先輩がそうまでいうのなら頑張ってみますけどね。駄目でも、怒らないで下さい」
「怒りませんから」
東先輩が怒っているところはいまいち想像できないなぁ。
ともかく、立候補する程度でお礼が出来るのならそれでいいだろう。確実に勝てるなんて要素があるわけではないのだ。




