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第四話:上条龍美

第四話

 学園が終わったら何となくお菓子が買いたくなった。近所を散策しつつ、諸々が安いと噂のスーパーへ足を向けてみた。タイムセールが始まって少し経っていたようで、恐ろしいほどのおばちゃんたちが目的の品物へわれ先に群がっていた。

「すげぇな」

 まるで動物園にでもやってきたみたいだ。タイムセール品が客寄せパンダと言うわけか。それらに興味の無い俺はおばちゃんたちの脇をよけようとしたら見事に失敗してしまう。そのまま流されるままにタイムセールス品を手に入れてしまった。

 籠に入れた商品もおばちゃんたちから『あんたには必要ないだろ』と交渉と見せかけて奪われる結果に。俺が持っているよりも家族に食わせるのなら致し方の無い事だろう。

 お菓子コーナーへ向かうと子供に交じって学園の生徒が混じっていた。

 子供が喜ぶ食玩のコーナーで箱を振って何かをしている。俺もあのくらいの歳ならおもちゃ箱のような感覚で見てたなぁ。

「ところであの人は何してるんだろ」

 近づいて聞いてみる事にしようと思ったら話しかけられるほど気易い雰囲気はなかった。まるで、博打に挑む勝負師のような面構えの少女だ。

 髪型はボブとでも言うのだろうか。そう言った感じの短さで、身長は女性にしては長身な方だろう。

「違う」

 たったそれだけの言葉で次の箱へと手を伸ばした。

 少女が手を伸ばした箱は『全世界アントフィギュア』だった。全九種+シークレットのブラインド方式の食玩具のようだ。おそらく美味しくないであろうラムネが一つはいっているみたいだ。

「……シロアリ、うん、このかさかさ、重さはシロアリだ」

 先ほどの博打は勝負に勝ったらしい。その表情は晴れ晴れとしていて子供がおもちゃを手に入れたような顔をしているのだ。

 見ていて清々しい気持ちになったので、俺もほんのちょっとだけその食玩に興味を持った。

「それってそんなに凄いのかい?」

 声をかけたのもテンションの高さによる勢いだと思ってもらいたい。

 突如、俺の目には先ほどの表情は全く違う『怖れ』の表情が映り込んでいた。何かまずい事でも聞いたのだろうか、それなら愛想笑いの一つでもした方がいいかと笑って見せる。

「え、えっと、あんた…そこの学園の生徒?」

「羽津学園?」

「そうなるね」

「まぁ、そうだよ」

 何やら警戒されているようだ。何でこんなに警戒されているのかわからなかったので素直に聞いてみた。

「最近転校してきたばっかりで良くわからないけど、羽津学園生は食玩を買っちゃあいけないのかい?」

「そう言うわけじゃないけど。あのさ、あんたって口は堅い方?」

 言われて考え込む。

「そうだなぁ、平均的じゃないかな。言わないでくれって言われれば言わないだろうなぁ」

「人の口には戸は立てられないって言うっしょ?」

 実に納得のいくことわざだ。

「でも、それは隣人が居ないと成立しないなぁ……さっきも言った通り、俺は転校してきたばっかりだから友達もいないんだよ」

「そっか、うん、それならちょうどいいや」

 何がちょうどいいのかよくわからなかった。

「これからあんた、暇?」

「暇と言えば暇だな」

「じゃあさ、いいものを見せてあげるからついてきてよ」

 少女はそう言ってにっこりとほほ笑んだ。まぁまぁ可愛い子だ。

 女子生徒に誘われて断るのも何だか悪い気がするので大人しくついて行ってしまう。

 レジでお金を払って外に出る。愛おしそうに食玩の箱へ頬ずりをする生徒は珍しいもんだと思った。

「あのさ、それ見せてくれないか」

「え、これ?」

「そうだよ」

「はい」

 渡されたそれを眺める。箱の後ろには九種類のアリがサンプルとして乗っていた。そのどこにもシロアリの姿は無い。

「シロアリって無いのに何でシロアリだなんて言ってたんだい」

「シークレットがシロアリだから」

「へー。でも何でシークレットがシロアリだってわかるんだ?」

 今の時代、食玩のシークレットなんてネットで一発でわかるだろうな。多分、それで知ったのだろうと思ったら違うようだった。

「うない棒一本で小学生を買収して教えてもらったんだ」

「なるほど」

 情報量安いな。

「しかも、はてな味」

「ひでぇ」

 はてな味のみに『うな重味』『ひつまぶし味』『うにに限りなく近いプリンにしょうゆ味』といったレア味が付加されているそうな。もちろん、既存の味全部から選ばれる為狙って当てるにはコツがあるとか無いとか。

「っと、ここがあたしの家」

 まさか家に案内されるとは思わなかった。何せまだ名前を聞いていないし、こっちも名乗っちゃいないのだ。

 名乗りもしない男を家に連れ込むなんて変わった人だ。そのまま家の中へとあげてもらって部屋へ入れてもらう。

「すげぇ……」

「すごいっしょ?」

 部屋は机と箪笥以外の家具はなく、あるのはガラスケースばかりだ。しかも、結構大型のもので中には食玩とかのフィギュアがところせましと並べられていた。

「羽津学園一のコレクター、上条龍美の部屋へようこそ」

「上条龍美さんか……へぇ、こういうのが趣味か。いいなぁ」

 何となく、威嚇しているカマキリを見ると龍美さんがよってきた。

「それ? それはね、『威嚇しているカマキリシリーズ』のシークレット、『威嚇してないカマキリ』だよ。なかなか当てられなくてね、中学の頃の修学旅行先でようやく手に入れたんだよ~。っと、ついでだけどさ」

 こういう人種は一度アクセルがかかるとそうそう止まる事は無い。

 実際、それから約二時間ほど食玩のことについて話を聞かされまくった。このシリーズは造形が素晴らしいとか、色の付け方が甘いとか、そんな話ばかりだ。

「いやー羽津学園にはこういった趣味の人が極端に少ないから本当、嬉しかったよ」

「何か勘違いしているみたいだけど、俺は食玩集めているわけじゃ…」

「いやいやいいや、そう言う意味じゃないよ。あたしみたいな人を見るとね、やっぱりどこか引いちゃうんだ。男ならまだしも、女はねーって具合に」

 どこだか困った風に頬を掻いて龍美さんは笑っていた。

「ちょうどいいからさ、友達になってほしいなー…なんて、どうだろ? あ、友達になってくれたらシロアリ、あげるよ」

 いらねぇ。

「シロアリは龍美さんがやっと手に入れたんだろ?俺だって友達がいないから別に友達になるぐらいお安い御用さ」

「そっかぁ……よかった。でもさ、記念だよ、シロアリは持って帰って」

 またコレクションを見せてあげると言う約束をしてその日は大人しく帰ることにした。

「……まずいな」

 中に入っていたガムの感想だ。家に帰って図鑑でシロアリを確認すると実に精巧に作られていた。最近の食玩って進んでるんだなぁ。


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