第三話:東未奈美
第三話
転校して二日目、学園で迷子になった俺は達筆な生徒会室という文字とにらめっこしていた。いくら睨みつけても答えなんて、道筋なんて出てないんだけどさ。
デパートのフロアマップなんて代物が生徒会室前に貼られているわけもない。年間行事と、生徒会メンバーの名前が連ねているだけだ。
「うーむ、実際に迷子ですと言うのは恥ずかしいよなぁ」
生徒会室って近くに階段がありそうな雰囲気あるよな。
雰囲気があるだけだ。階段なんて近くにありそうでなかった。
「どうかしたんですか?」
「え?」
後ろを振り返ると一人の女性がいた。腕章を見ると三年生のようだ。
身長は俺くらい、今では珍しいポニーテールで眼鏡をかけている垂れ目っぽい女子生徒だ。垂れ目って俺と相性悪いんだよなぁ…垂れ目のばあさんが俺にかなり因縁吹っかけてくるし、垂れ目の万引きGメンが俺を万引き犯と勘違いしてたし。
「もしかして生徒会長っすか?」
「え? 違いますよ。わたしは東未奈美です。生徒会の書記ですよ」
優しそうに笑っても、垂れ目に偏見のある俺は騙されない。
いや、相手には騙そうって魂胆は無いだろうが。
「それで、どうかしたんですか?」
「あー……その」
正直に言うのが恥ずかしい。ごまかしたところで俺が迷子なのは変わりが無い。見栄を張ってもいい事は無いからな、こればっかりは素直さが大切だ。
「迷子なんです。圧倒的に迷子です」
「え」
「だから、迷子です。あの、言っておきますけど方向音痴じゃあないんです。こっちに居て今日でまだ二日目で…って、何で泣いてるんですかっ」
涙で目が真っ赤にはれている。こんなところを誰かに見られたらあらぬうわさをまかれるんじゃないか。
「それは大変でしたね」
「え、ああ、はい」
両手を掴まれて頷く。迷子なので嘘はついていないけど、凄い勢いで掴まれてびっくりしちまった。
「迷いついた先が生徒会室で、恥ずかしいけど、どうにかしないといけないと思ったんでしょう?」
「そうですけども……」
よく当てたなー迷子の人ってこういう思考するのかな。それとも俺の顔にそう書かれていたのだろうか。
「不安にならなくてもいいです。わたしが、案内します」
「それはありがたいです」
「どこに行くつもりだったんでしょう」
「えーと、校門ですよ。もう帰ろうとしていたんです」
ハンカチで目を拭いた東さんに手を引かれて、廊下を歩く。
「あれ、書記長じゃん」
「彼氏?」
廊下を歩いているとこんな感じの声が聞こえてきた。それなりに有名な人なのだろうか。考えていると下駄箱までやってきた。
「ここで、靴に履き替えてくださいね」
「あ、ここまでくれば校門まで大丈夫です」
「いいや、わかりません。人生には何があるのかわからないのですから、下足箱から校門までの間で迷子になってしまう恐れがあります」
ならねぇよ。
恩人にそんな言葉を吐けるわけもなかった。
ただ一言、
「そう、ですね……」
疲れた感じの声で答えるしか俺にはできなかった。
まるで近所のお姉さんに手を引かれている小学生の気分だ。隣に居るわけではない為、本当にそう見えているのだろう。
さっきから指を刺されて何だか笑われているようだった。
生徒会書記の東未奈美さんのおかげで俺は無事に下駄箱から校門までの道のりを迷わずに済んだ。
「ありがとうございました。大変助かりましたよ」
「それは良かったです。生徒のお役にたってこその生徒会ですから」
有難迷惑だなんて口が裂けても言えないだろう。言ったら泣く、そんな予感がありありと浮かぶのだ。
恩人を泣かすのは非常に良くない事だ。
「この学園の生徒会って凄いんですね」
「というと?」
「まぁ、困っている生徒を助けると言うか何と言うか」
「何を言うんですか。困っている人を助けるのは当然の行為ですよっ」
すごい食い付きだった。
「そ、そうですね」
「わかってくれて嬉しいです」
「書記でこんな感じなら生徒会長は余程凄いんでしょうね」
この言葉に東さんは肩を落とした。
「居ないんです」
「居ない?」
「転校して、生徒会長の椅子は空いているんです。副生徒会長も辞退したために空席です」
「なるほど」
「来月選挙があるのでえーっと……誰さんでしたっけ?」
「俺は真白冬治です。二年ですから敬語なんて使わなくていいですよ」
「じゃあ真白君も是非出てくださいね」
じゃあと言う割には敬語が取れていない気がする。
「わかりました」
リップサービスで笑っておいた。
「今日はありがとうございました」
「いいですよ。気にしないでくださいね」
垂れ目の先輩に手を振って、俺は帰路につくのだった。




