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第三十五話:東と推薦取消の恐れ

第三十五話

 東未奈美が教師に呼び出されたのは三学期の始めだ。

 三年のこの時期は将来をかけている人たちも多い。しかし、東未奈美は既に進学先が決まっており、今は自由な時間を好きな事に使っているので例外だ。

 もっとも、体裁等を考えて学園では常に勉強をしていると言って間違いない。推薦は決まったところで終わりではないのだ。万引き等の犯罪を起こせば当然取り消されることがある。

「東、推薦した大学の人達が生徒会長……いや、今は空位だから元生徒会長の二年生と話がしたいそうだ」

「え、それはなぜですか」

 話に聞いていた展開と違う事が起こった為、東は首をかしげる。

 おそらく、辞めたと言う事を大学側が気にしたのだろうと考える。生徒会長をもっと強くひきとめるべきだったと後悔する。

「ふむ、それは簡単な事だ……お前の推薦が決まってからちょうど辞めた時期と重なるんだよ」

 目の前の相手に対して色々やったところで意味などない。問答は不要と話の続きを促すことにする。

「……それで、いつ話をするんでしょう」

「彼の都合のいい日に行われるはずだ。遅くても、年が明けるまでにはやるだろうがね」

 それはまた珍しいものだなと東は考える。

「わたしも同席できますか」

「出来ないようだ。何せ元生徒会長はお前の息のかかった生徒だと向こうが考えているはずだからすぐに結果を知られるのもまずいだろうし、何らかの入れ知恵を行う恐れがある」

「そうですか、わかりました。それで、結果がわたしに伝えられる事はあるんでしょうか」

 教師は首を振った。

「万が一ダメになってしまった場合の事を考えると……一般か二次だな」

 どの道、今からでは間に合わないように思える。

 進路を変えるには突然過ぎて、手を打つには少し遅かった。

「そんなに気になるなら真白冬治君に聞いてみたらどうだ。彼は君の後輩なのだろう?」

「……そうですね。そもそもどうしてこんなことに? まさか学園内の情報が外に出るなんて思いもしませんでした」

「んー、誰かのタレこみでもあったんじゃないのか? まるで生徒会長は操り人形だったみたいだとな」

 東未奈美の頭の中に二人の容疑者が浮かんだ。北原が浮かんで消える。正々堂々といった少女がこんな事をするはずはないだろう……。

「……冬治君は周りの人間の事を悪く言われたら」

 もしかしたら、言うかもしれない。前科があるためにその考えは間違えでないような気がする。

 もしも、推薦が消えたのなら間違いなく冬治の事を恨むだろう。東未奈美はそう思って職員室を後にした。



――――――



 秋山実乃里に誘われて、何故だか北原紗衣もくっついてファミレスへとやってきていた。俺の前に二人が座って何やら書類を捲っている。

「えー、こんにちは」

「は? こんにちは……」

 いぶかしげに見ても二人の表情は変わらない。

 いつもの二人ではないな、一体どうしたんだと尋ねてみるけど無視される。

「真白冬治君ですね?」

「おいおい、何の冗談だ」

 北原がどうなのかと聞いてきたので仕方なく頷く。

「そうだよ」

「元生徒会長の」

「はい」

「ころっとだまされるような」

「騙されては無いよ」

「これは失礼しました」

 実乃里がぺろっと舌を出して自分の頭を叩く。

「かわいくないっつーの」

「嘘、本当は心の中でちょっと可愛いかもって思ったでしょ」

「時と場合による」

「まさしく今」

「いや、ないわ」

 これじゃ話が前に進まないと北原が呆れていた。

「んで、お前らは俺をおちょくりに来たのか」

「見くびらないでよ、冬治」

 実乃里が突如として凛とした声を出す。その声音は少し騒がしかった店内に響き渡り客の視線を一人占めにしている。

「しょっちゅうおちょくってます」

「……北原、話を進めてくれ」

「わかりました生徒会長」

「違う、今はただの一般生徒だ」

「そうでしたね」

 書類を一枚めくって北原は其処に書かれている文字を読み始めたようだ。

「えーと、冬治先輩は何故生徒会長に立候補したのでしょう」

「立候補? したっけなぁ……」

 あれは確か東先輩が勝手に進めたのではなかったか。

 いまいち思い出せないので首をかしげる。しかし、またここで突っ込んだら話の腰が折れてしまうのでやめておいた。

「確か東先輩が原因だったかな」

「そうですか。では、その東先輩は生徒会長としての冬治先輩にとってどのような人でしたか」

「どのような人、か」

 顎に手を当てて考えてみる。

「はい」

「ん?」

 何故か実乃里が手をあげていた。ここはどう見てもお前が発言するような場所じゃないと思う。それに、東先輩について実乃里に話した事はなかったはずなんだがなぁ。

「何だよ」

「本日書記を担当する秋山実乃里です。よろしく」

「……」

 北原の方を見ると勘違いしたらしい。同じように右手をあげた。

「えっと、進行の北原紗衣です」

「はぁ、もういいよ。えっとだな、俺にとって……いや、生徒会長の俺から見たらあれだな、摂政政治ってやつかな。北原も知っての通り操り人形というか、言われるままに動いていただろ?」

「はい」

 そういえば北原はこういった伝統を変えて行きたいとか言っていたしその調査をしているんだろうな。

「ん? どうしたの冬治」

「いや、何でもないから気にせず書記をやってくれ」

 実乃里が関係しているのはちょっと疑問だけどさ。

 その後もやけに東先輩を絡めてくるような質問が多く、ぼろくそ言いまくった。うっ屈としたものがあったのも事実で、言ったあとでちょっとやりすぎたかと考えてしまう。

「女々しい」

「俺もそう思う」

「秋山先輩、生徒会ちょ……冬治先輩の事を責めないで下さい。あたしも冬治先輩と同じ立場ならそう思いますから」

 席を立ちあがったのは実乃里の方が早かった。

「じゃ、そっちの資料も頂戴」

「はい。あの、任せてもいいんですか?」

「うん」

 実乃里は鞄を持って俺たち二人に手を振った。

「んじゃ、また学園でね」

「ああ」

「はい」

 久しぶりに北原と会ったので結構長話をしてから俺らもファミレスを後にする。話の内容は主に進級の話だったり年末の話だったりする。

「あの、冬治先輩」

「ん?」

「実乃里先輩と付き合っているって本当ですか?」

「……ああ、そうだよ」

「そうですか。冬治先輩、頑張ってくださいね。じゃ、良いお年を」

「そっちもな」

 手を振って去って行った北原が見えなくなるまで見送った。

「冬治君」

 北原と別れて一陣の風が吹いた。

「東先輩」

 おそらく、今俺の顔はGを見つけた顔に成っているだろう。あっという間に信頼なんてもんは崩れ去るもんだと東先輩を見て思ってしまった。

「何か用ですか」

「はい」

「手短にお願いします。忙しいので」

「すみません、急用なんですよ。あの、大学関係者に会ったりしましたか」

 俺の進学の話はまだのはずなんだけどなぁと考える。素直に答えることにした。

「いいや、会ってませんよ。それが何か?」

 ほっとしたような顔をしてから今度は俺に少しだけ近づいてくる。

「……評価を教えてくれませんか」

「は? 俺の成績ですか?」

「違います。冬治君が私に対して出した評価です」

「何で教えなきゃいけないんですか。知っているようなものですよ」

 はっきり言って、最低だ。人のために動いているのかと思えば結局は進学するためだったような感じを匂わせたのだから。

 きっと大人な人から見たら甘い考えだと笑われるだろう俺の考えは今なら許されるはずだ。

「そうですか。あの、人には言わないで下さいね」

「……わかりました。約束しましょう」

「絶対ですよ?」

「くどいですね。俺は約束を守ります」

「それを聞いて安心しました」

 さよならとも言わずにそのまま東先輩はどこかに行ってしまった。

「……何かあるのか?」

 三学期にちょっと調べてみようかな。それだけ彼女の行動は怪しかった。怪しいと言えば、北原と実乃里も怪しかったな。

 後日、東先輩が俺の家にやってきた。明日から学園が始まると言う日の事だ。

「あの、冬治君」

「はい?」

「色々と迷惑をかけました。もっと、冬治君と生徒会をやって居たかったと思います」

「……信じられませんね」

「信じてくれなくても構いません。これからのわたしは冬治君がいたから成り立っているのは間違いないでしょうから……大学にわたしは進学できますから」

 そういって東先輩は笑った。交じりっ気なしの笑顔だ。

「じゃ、わたしはこれで」

「……あの、東先輩」

「何ですか?」

「案内してくれてありがとうございました」

 何の事だかわからない顔をして、彼女は笑ってこういった。

「いいんです、生徒会のメンバーですから」

 東先輩が見えなくなるまで俺はその背中を見送ったのだった。


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