第三十四話:左野と実乃里、リッキーそして冬治
第三十四話
後輩と賭け事をしていて、見事に俺が勝った。しかし、あまりにも不憫だった為、そしてその頑張りを認めていた俺は冬休み二日目に待ち合わせ場所へやってきていた。
「やっほ、真白先輩」
「リッキーか」
「あのさ、挨拶は抜きにして隣に居る人って誰?」
俺の隣に立っている秋山実乃里を指差して首をかしげている。既に警戒状態に入っているとしか思えない眼を向けていた。
「あ、えっと……だなぁ。なんと説明すればいいもんか」
傍から見たら超怪しいだろう。眼をきょろきょろさせて冷や汗流しまくりで口をパクパクさせているんだから。
俺から説明してもらえるのは無理だと思った秋山が一歩前へ出る。
「私の名前は秋山実乃里。冬治と同じクラスで趣味は小説を書く事」
「なんだ、びっくりしたぁ……あ、私は羽根突律だよ。1-Bだよ」
リッキーはそういって携帯で時間を確認する。
「ん、そろそろ来るかな」
「はぁ……はぁ……まにあった」
そういって現れた俺の姿を確認すると優しい笑顔を見せてくれた。
「えと……」
そして、実乃里とリッキーを見て固まる。
「だ、誰?」
文庫を閉じて実乃里は左野へと近づく。
「秋山実乃里。冬治と同じクラスで趣味は小説を書く事……よろしく、左野初」
差し出された右手で無理やり左野の手をとって握手をした。
「あ、えっと、はい」
「ん、よろしい」
手を引っ込めてその右手をそのまま俺の左腕に絡めてくる。
呆然とする左野とリッキーに実乃里は続ける。
「今日はこの四人で遊びに行くんでしょう?」
「あ、ああ。そうだな」
気付けばこうなっていた。どこから漏れたか知らないけどさ……実乃里が待ち合わせ場所に一番にやってきて俺が二番目……といった具合だ。
「左野もそれでいいよね」
実乃里はそういって左野を見る。少しだけ不満そうな顔をしたけどまだ実乃里がどういった人間か計りかねていたのだろう。無言のまま頷いて従うのだった。
ひそひそ話が後ろから聞こえてきてさっきからドキドキが半端ないね。
てっきり今日は左野とリッキーと遊ぶもんだと思っていたからイレギュラーの出現にメンバー全員がやられてしまっている。
「じゃ、映画に行こうか」
何とか立て直すためにそう提案すると他のメンバーもしたがってくれる。
四人で中に入り、どれを見るか選ぶ。
「んー」
特に面白そうなタイトルは無い。CMばんばんうちまくっているアクションものととりあえず最新技術で作りまくったおどろおどろしいホラー、深夜に放送されているアニメ、そして四人の女性に惚れられるというラブロマンスがある。
「じゃ、多数決で決めようかね」
ここでも異論は無く、俺はホラーに一票入れる。
「俺はホラーがみたいよ」
「恋愛もの」
「ラブロマンス」
「あれ」
ホラーが一人、ラブロマンスが三人であった。
「多数決なら仕方ねぇなぁ……」
お金を払って入り、席に着く。俺の右に実乃里が座って左側に左野がすわった。そして、何故だから俺の後ろにリッキーがスタンバイしている。
「何で一人だけ後ろなんだ?」
「そらぁ、あれだよ、あれ。ここから一番良く見えますからねぇ」
良くわからない理論だったのでスル―しておいた。五分程度で映画が始まる。
あらすじはこうだ……とある学園での事件だ。一人の男子生徒が刺され、死亡する。その容疑者としてあげられた四名の女子生徒のうち一人が犯人を探すのだった。
「あれ、これラブロマンスじゃなくね」
最終的に女子生徒はタイムマシンという出しちゃ絶対にいけない類を登場させて過去に向かう。
問題を解決させて男子生徒を助けて事なき終えるのだ。
男にはわかり辛い表現だった。もしくは、俺以外の三人が共感しまくったのだろう。
「うう……あそこでかわりに刺されるなんてミノコ凄すぎ」
左野なんて鼻水ダダ漏れ、ついでに涙も全開だ。ハンカチを貸したところで派手に音を鳴らしてあっという間に汚してしまうだろう。
「はい、ハンカチ」
「うん、ありがと……ずびーっ」
「ああ……」
実乃里とリッキーからも借りてそのままダメにしてしまった。
それから小くじするために比較的うるさいファミレスに入る。
「凄かったよねぇ、さっきの映画」
「うん、面白かった」
「いやー、たまにはいいかな、ああいうのも」
「……」
いまいち入りこめなかった俺は一人テーブルの隅で注文の品を突いている。無視されているのは悲しいけども、これはこれでいい展開ではないだろうか?
左野と実乃里は先ほどの映画に対して全く同じ感想を抱いたらしい……そこでかなり花が咲いて周りを気にせず話しまくっている。
「んー、途中で出てきた陸上部の友達もトウヤに近づいていたはずなんだけどなぁ」
「トウヤか、うん、あの子は良かったよ」
「でしょ? ま、でも今日は変に爆弾を投下したくないからこのまま黙っておくよ」
それから四人で色々と遊びまくった。
ゲーセンで三対一のエアホッケーをしたり、ブティックに入って何故か俺が女性物を試着したのだ。
後は何故かスーパーで試食品を荒らしまくった。
「ふぅ、楽しかった。実乃里先輩はどうでした?」
「楽しかった」
「そっか、よかった」
実乃里と仲良く歩く左野を見て俺はどこかほっとしていた。俺に近づいてきてリッキーが耳打ちする。
「あれ、友達じゃないでしょ」
「……ん、微妙なところかな」
実乃里は俺の彼女と言えば彼女、しかしながら違うと言えば違うのだ。
「これさ、本当下手したら今頃グサリ、かもよ?」
「え」
信じられない表情でリッキーを見ると舌をぺろりと舐める。
「ま、それは無いとしてもさ……あの実乃里先輩が原因なのに一人勝ちの結果なのかな」
仲良く話す二人を見ながらしみじみと漏らしている。
「……そうかもな」
夕方になって待ち合わせ場所へと戻ってきた。
「じゃ、俺と実乃里はあっちだから」
「今日は楽しかったよ、初ちゃん」
「あ、えっと……」
左野は実乃里の方をちらりと見てから俺の方を見た。しかし、やはり実乃里の方へ視線を固定する。
「あの、話があります。実乃里先輩ちょっとこっちに来てください」
有無を言わせないままそのまま実乃里を連れて行った。残された俺とリッキーは顔を見合わせる。
「リッキー、あれは?」
「……え? わからないの?」
非難めいた視線を向けられたってわからないものはわからない。ここで知ったかぶるよりも大人しく頷いたほうが吉に違いない。
五分程度のやり取りがあって二人が戻ってきた。左野は何処かすっきりした表情で戻ってきて実乃里も嬉しそうにしている。
「何の話をしたんだ?」
「うん、ちょっとね。じゃ、二人ともばいばい」
「じゃ、わたしもこれで」
リッキーと左野が手を振って仲良く歩いて行った。当事者のもう一人を見るといつもの無表情に戻っていた。
「で、何があったんだ?」
「……乙女の会話。浮気されても困るからね」
「うわ……おい、実乃里」
「この後、私の家によってね」
「あ、おいっ……」
走り去ってしまった彼女の背中を俺はボケたように見続けたのだった。




