第三十二話:上条とデパート
第三十二話
期末テストを明日に控え、俺のクラスメートたちは必死になって勉強に打ち込んでいる。
「いやー、みんな必死だね。あっはっはー」
「一般生徒の冬治君、ずいぶん余裕じゃあないか。そうか、おれと一緒で諦めたのか」
よってきた友人のなれなれしい手をはじく。
「一緒にするんじゃねぇ。だから言ったじゃねぇかよ……俺と一緒に勉強しようって」
「だぁってぇ、あの頃は遊びたかったんだもん」
冬治君のいけずぅとつついてくるので蹴っておいた。
「冬治君」
「っと、龍美か。じゃあな、俺は用事があるから」
クラスメートに何となく、龍美の存在を知られたくない相手がいるので(その本人は用事で今はいない)さっさと外へと出る。
「早く行こうよっ」
「しっかし、期末テスト前だって言うのに本当俺は凄い事を考えちまったな」
「本当だよねぇ」
周りの生徒達は単語帳やら教科書を開きながら歩いている。ここまで勉強にのめり込んでいる学園なんて信じられないな。
「二年の二学期にもなればこうなるんだよ。真面目が多いんだよね」
「その点じゃ俺らは不良だな」
龍美と一緒に郊外のデパートへ行くなんてなぁ……この時期なら他の生徒に見られる事もないと思う。
学園を出て数十分後、辿り着いた場所に人は多かった。
「へぇ、初めてきたよ」
「俺の事前の調査によるとあと一時間ほどしたら学園に通っている連中の極一部が姿を見せるようだ」
「極一部?」
それってあたしみたいな人達かなと聞かれるので首を振る。
「自分で夕飯を作っている人たちだな。タイムセールスを一階の食品売り場でやるそうだ」
「そっか……この歳でももう料理作っている人は当然いるもんね。一人暮らしかぁ……憧れるよ」
しみじみとした調子の龍美に俺はため息をつく。
「一人暮らしってもんは大変なんだぜ」
「そっかな。あたしの場合はほら、ああいう趣味だからね。食玩眺めてにやにやしているところに親が来るともう、大変だよ」
「ゆるみきったところにこられると怖いのは確かだけどな、家事しなくていいって言うのはすごく楽だろう。料理のレパートリーとかさ、つかれて帰って来てから料理をしないといけないし」
そう言うと笑われてしまった。
「今は帰宅部なんでしょ。それなら別に疲れてないじゃん」
「む、確かにそうだ」
雑談しつつ、そのまま食玩のレパートリーが広がるフロアの一部へやってきた。いわばマニアショップと言っていい。
「うっわぁ、すっごいっ」
子供だ。童心にかえっていった龍美が俺のことなど忘れてあちらこちらへといったりきたりだ。
「……プラモも置いてあるけど食玩のスペースに比べたらすくねぇなぁ」
可動フィギュアなんかも置いてあるのか。ダンダムの新商品まで置いてあった。
知っている人が居たらそれなりに楽しめるであろう場所だ。一人ではしゃいで一ケースあげをやったり、箱を振ったりしている。
「生き生きしているなぁ」
期末テストの勉強を事前にやってきて良かったなと断定できる表情だ。人間、ああいう表情をしていれば楽に長生きできるだろう。
誰かに見られているかもしれないと言う負い目もなくなっているようで好き勝手している。
二十分ぐらいして俺のところへと戻ってきた。
「冬治君、ありがとう」
「俺は別に何もしてないよ」
「そうかなぁ。事前に調査だってしてくれてたみたいじゃん?」
「友達だからな。ま、何だ。こうやって龍美が生き生きしている表情を見られて良かったよ。満足したのか?」
「うん。ちょっとお腹すいたから何処かで軽く食べて行かない?」
家に連絡を入れてからデパート内のラーメン屋に入った。ラーメンが軽いってどんだけ龍美の胃袋は広いのだろうか。深海魚のそれと同じか?
「チェーン店のラーメン屋って美味しくないんじゃないのか?」
「うーん、あれだよ。誰と一緒に食べるかだね……えへ」
「根本の否定だな、おい」
「突っ込むところは其処じゃないからっ。もっと違うところに突っ込んでほしいなぁ」
そう言う類の突っ込みはややこしくなるから自制しているんだ。
「ん? おい、あれって下舌じゃないか」
俺の指差す先を一度だけみて龍美は本日初めての嫌な顔をした。
「うっわ……」
茶色の紙袋を隠そうとしたので俺が預かる。
「ありがと」
「気にすんな。この店でるか?」
「ううん、もう頼んじゃったから無理でしょ」
注文したラーメンが来たので申し合わせたように二人で素早く口にし始める。
「しかし、まさかあいつも来ているとはな」
「新商品の予約でもしてたんじゃないの」
「ああ、そういえばダンダムの新商品があったような気がするなぁ」
事実、下舌は龍美が持っている奴と同じ紙袋からダンダムのフィギュアの箱を取り出して凄くいい笑みを浮かべていた。
「……うっわ」
「嫌悪感丸出しだな」
「そりゃあ、人の目を気にする臆病者だからね。あたしにはあそこまで出来ない。さ、行こうよ」
気付けばスープまで飲み干していた龍美にせかされて残りを食べ終える。
帰り道に俺は下舌に提案してみた。
「なぁ、やっぱり下舌と仲良くなればいいんじゃないのかな」
「……何で」
「こうやってほら、下舌と一緒にここへこれるじゃないか。同じ趣味を持っている同士だろうから気が合うと思うぜ」
むすっとした表情の龍美に首を振られる。
「嫌だよ。何で嫌いな奴と一緒に来ないといけないの」
「龍美がそういうんなら仕方がないだろうけどよ……俺から見たら仲良くやれそうなんだけどな」
これ以上言って雰囲気を壊すわけにもいかないだろう。その話はもうやめておいた。
「ま、明日から期末テストだからな。頑張ろうぜ」
「うん、それはわかってる」
それからは二人とも無言で歩き続けた。
「じゃあな」
「またね。あのさ、また一緒に行こうね」
「そうだな、またテスト前にでも行くか」
「うん」
期末テスト前のイベントを終えて俺は一つ、ため息をついた。




