第三十一話:東との亀裂
第三十一話
北原をふって気まずくなるかなと思ったらそうでもなかった。
「生徒会長、またねー」
「ああ、気をつけて帰れよ」
今年最後の生徒会役員会議じゃいつもの通り生徒会室を出て行った。
「最近北原さんとは一緒に居ないのですね」
「そうですか?」
「はい、どこか親密そうな空気が漂っていましたからね。もしかして、付き合っていたんですか」
それに首を振り、俺は箒を黙って動かす。
掃除も終えて鞄を持つと東先輩が近づいてきた。
「一緒に帰りませんか」
「え? ああ、いいっすよ」
特に一緒に帰る相手もいないのでそのまま校門を後にすることにした。影など無く、虫の鳴き声も聞こえてこない冬の夜だ。
風が吹いてつい身をよじらせる。
「うう、さぶっ」
「大丈夫ですか?」
「え、はい。寒がりなんですよ。そういえば東先輩、進学するのか就職するのか決めたんですか?」
多分、進学だろうと考えながら差し障りのない話題をふってみる。
「はい、進学しますよ。既に決定しています」
「やっぱりかぁ……」
「これも冬治君のおかげです。ありがとうございました」
「俺のおかげ?」
首をかしげると東先輩が不思議そうな顔をする。
「わかっていないんですか?」
「はぁ……いまいち、というか全然わかりません」
「実質の生徒会長はわたしでしたからね。教師も知っている事ですよ」
言われて苦笑いを浮かべるしかなかった。
「そういえば、そうでしたね」
「はい。わたしにとって生徒会は必要のないものになりました」
言われて、ちょっと嫌だった。先輩にとっては利用したに過ぎなかったんだろうなぁ、やっぱり。
生徒会長になって、ちょっとでも生徒のために、この学園の為に頑張ってきたつもりだたんだけど他の生徒もそんな感じにしか見ていなかったんだろう。
大学への進路の為、教師の心象を良くするための道具みたいな存在だったんだろうな。
「生徒会長の権利はもう必要ないんですね」
「はい。でも、冬治君が望むのならわたしはこのまま生徒会に居ますよ」
「……いえ、いいです」
「冬治君が生徒会長を嫌なら権利を返上してもいいんですよ。そうすれば空位のまま次の会長選挙を誰かが始めるでしょうから」
こうやって伝統というものは受け継がれていくんだろう。実に残念な話だった。
それから無言で別れ道までやってきた。
「じゃあ、冬治君また今度」
「俺、生徒会長を辞めます」
別れる時のあいさつではない言葉を俺はぶつけた。
「そうですか」
「ええ、俺は東先輩を少しだけ憧れていました。この学園に転校してきたとき、行きすぎかなと思えるような事をしてもらいましたからね」
学園内で迷っていた俺の事を助けた東先輩は……何だったんだろうな。最初から計算ずくで動いていたのか、単なる気まぐれかは分からない。
俺から投げたボールを受け取って先輩は黙っている。
また、俺の方から投げてみた。
「その後、一緒に生徒会長を目指して選挙をやった時もそれなりに楽しかったです。生徒会長にさせてもらったから東先輩が殆ど権利を持っていましたけどね、俺は良かったですよ。正直、東先輩には失望しました」
これ以上言う事もないだろう。
俺は東先輩に背を向ける。
「……北原さんも本当は冬治君の権利が欲しがったんじゃないんでしょうか。ちょっと行きすぎですけど、彼女になれば色々と出来ますから」
後ろから投げられた言葉に俺は信じられないようなものを見る。
其処に居るのは普段の東先輩ではないような気がしたのだ。
「今、なんていいました」
「北原紗衣さんは冬治君の権利が欲しくて近づいたのではないかと言ったのです。彼女の志望先の大学は学力だけでは難しいでしょうね」
言わんとすることが何となくわかって、俺はため息をついた。
「……やっぱり、俺は東先輩の事を買いかぶっていたようです。北原は確かに俺に告白してきましたけどね……革命を起こしたかったんですよ。悪しき習慣だって言っていましたから」
言わば摂政政治みたいなもんだ。
「本当にそうでしょうか。北原さんは……」
どういった言葉をつづけようかなんとなく想像がついたので東先輩の続きを手で制す。
「東先輩、それ以上北原の悪口を言うのなら俺は先輩が相手と言えど手加減しません」
「冗談ですよ」
「もう、先輩の顔なんて見たくありませんよ。さよなら」
「……」
別れの言葉なんて欲しくなかった。




