第二十八話:上条と約束
第二十八話
龍美が俺に食玩の大人買いを更に頼むようになって少し経った。
「買ってきたぜ」
「ごめん、ありがとう」
今集めているのは世界の珍車シリーズだ。全八種類のシークレット一種である。ちなみにシークレットは人力車らしい。
「なぁ、龍美」
「ん?」
忙しく箱を開け始めた友達に話しかける。
「最初に断っとくけど、別にお前からこうやってぱしられるのは嫌いじゃないんだ」
「はぁ?」
「自分で買いに行ったらどうだ? そっちの方がお前としても楽しいんじゃないのか?」
大人買いではなく、毎回、自分の五感を頼りにブツを当てる感覚がたまらないと言っていた。
「大人買いなら一発で全部そろうだろ? お前はそれでいいのか」
「そうだけどさ。みんなから村八分されるのも、怖いんだ」
食玩マニアか。男子ならともかく、女子はさすがにきついんだろうか。
「それなら下舌も一緒だろ?」
「あの子はあたしと違うから。可愛いから何しても許されるよ。そのギャップがいいんだってさ」
意外な事に女子からの受けもいいそうだ。
「お前もそれなりに可愛いと思うぜ?」
「嬉しいけど、それはあくまで冬治君の主観だよ。あたしが自信をもたなくちゃいけないのはわかってる……でもね、無理な物は無理なんだよ」
これ以上言っても無駄だろう。
「そっか、それならいいよ。ところでさ、今度郊外のデパート行かないか?」
「え? 何で?」
「息抜きだよ、息抜き。親の友達が其処に勤めているらしくてさ、その人が言うには食玩のラインナップに気を配っている店があるんだって」
全ての箱を開封し終えた龍美はジュースを片手にこちらへ視線を向ける。
「うーん、でもさ、ばれそうだけど」
「ああ、だから期末前日に行くんだよ。期末テスト前にまさか遊びに行く奴がいるなんて誰も思わないだろ?」
「……テスト大丈夫?」
「今から勉強を始めればいいだろ。そこそこいい点数取れると思うぜ?」
俺の言葉に納得した龍美は鞄から教科書をとりだしてきた。食玩はケースの中に早速並べられる。
「今からするのかよ」
「善は急げって言うじゃん」
「言うけどさ」
炊きつけたのは俺なので強くは言えない。
「まさか、龍美の部屋に来てまで勉強するなんてなぁ」
「女の子の部屋に来て一緒に勉強って憧れるでしょ?」
「うわーい、食玩がいっぱいだぁ。おねーちゃん、触っていい?」
「絶対に触っちゃ駄目」
生まれて初めて見る恐い顔だった。マニアってこれがあるから怖いんだよなぁ。
「じゃあ、せいぜいがんばって勉強しますかね」
「何か賭けでもする? あたしが勝ったら新シリーズの食玩を大人買いしてもらおうかな」
「いや、賭けは遠慮しとく。堅実に生きるのが人間、大切なんだよ」
「ははーん、さては誰かと賭けて負けたね?」
「まぁ、そんなところだよ」
それからは特に話す事もなく勉強を始める。
気付けば暗くなっていた。
「ご飯食べてくよね?」
「お構いなく。ちゃんと帰るよ」
「いいじゃん。食べていってよ。それなりに料理、うまくなったからさ。オムライス作ってくる」
言うが早いかあっという間に部屋から出て行ってしまった。食玩に囲まれた部屋で勉強を再開しようとして辞めた。
「何だか見られているようで集中できん」
かといって、部屋の中を物色できるわけもない。これが男子の家なら気兼ねなくエロ本を探せると言うのにな。
「そもそもこの部屋布団とちゃぶ台以外はケースしかないしなぁ。片付いているし、付属んラムネが転がっているぐらいだ」
大人しく勉強を再開することにした。
「ここは……あれだな……んー、眠くなってきたな」
慣れない事をしようとすると眠くなるもんだ。他人の家だと言うのにそのまま瞼が降りてきてしまう。
「……ぐぅ」
ちゃぶ台に突っ伏したまんま俺は寝てしまったのだった。
「ん?」
誰かが入ってきたかと思って頭をあげる。食玩のケースを見て一気に頭が覚醒する。
「あ、起きた?」
「って、十時だと……どんだけ俺は寝てるんだっ」
部屋に入ってきたのはパジャマ姿の龍美だ。ストライプのパジャマだし、普通に可愛いな。
「はい、温めてきたよ」
「お、おう。悪いな」
「気にしないでよ。でも、ぐっすり寝てるんだもん。ちょっとだけ驚いた」
そういって俺の隣に座ると食玩のカタログを広げ始める。気付けばちゃぶ台にはオムライスが置かれており、ケチャップで『食玩』と書かれている。無駄に器用だな。
「服のカタログとか見ないのか?」
「ん? たまに見るよ。冬治君がいない時にね」
「ふーん」
「やっぱり、女の子だからそういったもの見ていたほうがいい?」
「いや、俺は別に気にしない」
「気にしてたじゃん」
「何となくだよ、何となく」
パジャマの龍美は女の子らしいからな。ちょっとそう思ってしまっただけだろう。
「御馳走様。おいしかったよ」
「よかった。まずいって言われたらどうしようかと思った」
ご飯を食べて立ち上がる。
「さてと、帰るわ」
「え、泊まって行かないの」
「あのなぁ……無理だろ。明日の準備もあるし」
「嘘……冬治君って教科書毎回持ち帰ってるの?」
「ああ、こう見えて真面目なんだよ。そこまでショック受ける事かね」
そういって俺は部屋を出ようとした。すると、腕を掴まれる。
「ん?」
「あ、あのさ。楽しみにしてる」
「何をだ」
「えっと、期末……」
「期末テストを俺に楽しみって言われても困るぜ?」
「違うよっ。郊外のデパート、連れて行ってくれるんでしょ?」
「ああ、それか。楽しみにしててくれよ。龍美を満足させるだけのラインナップがあるかどうかはわからないけどな」
玄関までついてきてくれたのでそこで今度こそ別れる。
「じゃ、お邪魔しました」
「気をつけてね」
しっかりと手帳に書き込んでおいた方がいいだろうな。すっぽかしたら超うるさそうだ。




