第二十六話:左野と勝利者
第二十六話
火がついたのか、やる気が出たのかは知らない。
リッキーは一年生でトップをとったのだ。
「やるじゃないかリッキー」
「今回は運が良かっただけだよ」
「左野は……その、残念だったな」
「そんな気遣いは無用よっ。慰めなんて要らないっ」
「そうか……ドジっ娘め」
左野の点数はそこそこ良かったものの、一つ問題があって国語が二問目から全部回答がずれて一点だった。
一点はなかなか取れないな、うん。
「追試受けたもん。先生、次は気をつけろって言ってくれたもん」
「そうかそうか……ま、左野は置いておくとして、だ」
勝者にはそれなりの権利があるのだろう。俺は左野のミスがあったおかげで左野に勝つ事は出来たものの、さすがに二年で一位をとる事は叶わなかった。
「リッキーが望む事って一体何だ」
「えーと、世界征服」
「そうか、俺には無理だ」
「突っ込んでほしいなぁ」
「流す派なんだよ」
勝者の意見を何でも聞くと言うわけにもいかない。
「出来る範囲で頼む」
「わかってるよ。うちの左野とさぁ、デートしてほしいの」
「左野と、デート?」
「そう、デート」
左野の方へ視線を向けるとやはり、驚いていた。
「え、俺がリッキーとデートするのではなくて、左野とデートするのか」
「そう」
理由を聞いても教えてくれるかどうか怪しい。しかし、尋ねなければリッキーは自ら言う事は無いはずだ。
「何で」
「うーん……そう聞かれると困っちゃうなぁ。理由を聞いて変な物だったらデートをしないとか言い出すつもり?」
「いや、それはねぇよ。勝者はリッキーだからな」
「そっか、じゃあ面白そうだから……かな。日時は次の日曜日、午前九時駅前集合でその日一日デートをしてもらいます」
「わかったよ」
「え、あんた何勝手に承諾してんのよ」
「そらぁ、お前……賭け事って言うのはちゃんと守らないと駄目だろ? お前がリッキーに勝っていたなら意見出来たかもしれんがね」
左野は俺の言葉に納得したのかは不明な物の、黙りこんでしまった。
じゃあ、決定だとリッキーは左野を連れて行ってしまった。
そして約束の日曜日、八時三十分には駅前にやってきた俺、微妙に緊張中だ。
「……男と女が二人っきりで出かけるのはデート、だよな」
夜中に学園に侵入したり、他の女子高に侵入するのもデートだろうか。
緊張している理由はたった一つ、左野と俺をデートさせつつリッキーはそれをどこからか見ているはずなのだ。
「お、お待たせ」
「左野か」
八時四十五分、左野が駅前に現れた。
「まだ十五分あるぜ?」
「あんたねぇ、時間ジャストにくるなんてアホでしょ」
「待ち時間が無くていいだろ」
「それなら何であたしより早く来ているのよ」
「遅れちゃまずいと思ったからだ。何せ、デートだからな」
デート、の部分を強調すると口をへの字にしてムッとしていた。
「で、リッキーはどこに隠れているんだろうな」
「は?」
「リッキーだよ、リッキー。何も考えなしにこんな事を仕組むとは思えないから」
「ま、まぁ、何も考えていないわけじゃないけどね」
「だよな」
おそらく、俺がこうやって左野に場所を聞こうとする事もあの子はお見通しなのだろう。だから、多分左野にもどこに隠れているのか教えていないはずだ。左野は何処か引っかかりやすい性格だからすぐぼろを出しそうだし。
「じゃ、行こうか」
「う、うん……その手は?」
「デートだろう? 手ぐらい繋ごうぜ」
「そうよね」
からかい気味に言ったにもかかわらず左野は大人しく従ってくれた。
まだ店が開くには時間があるので開いていた喫茶店に入ってアイスコーヒーを二つ頼む。
「俺は氷少なめでお願いします」
「そんなに寒い?」
「ううん」
やってきたアイスコーヒーは氷が入っている分、左野のほうが少ない。それを話すとポカンとした顔になってすぐさま馬鹿にするような目を向けられる。
「あんたねぇ……」
「別にけちなわけじゃないさ。こんなんでも話のタネには成るだろ」
「それはそうだけど、つまんない」
「そうかい」
「もっと別の話してよ」
「別の話ね。わかった」
じゃあ少しおかしな友達の話でもするとしよう。
「俺の隣の席に座っている女子生徒からちょっと変わったお願いされたんだよ。ん? なんだ? すっごく恐い顔してるけど」
「デートで他の女の子の話するなんて馬鹿じゃないの?」
左野に言われるのはしゃくだ。しかし、そう言われればそうだろう。
「ま、じゃあ期末の話でもするか。また賭け事する?」
もうこりごりだとかまたつまらない話をするなと言われるだろう、そう思っていたら嬉しそうな顔をされた。
「うん。しよう。今度は負けないんだから」
「おいおい、やる気があるな」
「すっごく勉強したんだから当り前よ。あんなケアレスミスするなんて信じられないもの……学園側の陰謀なのかと思ったわ」
責任転嫁も甚だしいな。
そこから話に花が咲き、気がつけばお昼まで話し込んでいた。さぞかし、店から見たら迷惑な客だろうよ。
「アイスコーヒー二杯で相当粘ったなぁ」
「向こうから言われなきゃもっと喋ってたわね」
「ああ」
声が大きくなって隣の席から苦情が来たのだ。
「じゃ、昼はどこで食う?」
「ファミレスね。もちろん、真白先輩のおごりで」
「仕方ねぇなぁ」
特に計画を立てていたわけでもない。
午後からは店を冷やかす程度で気がつけば町が夕焼けに染まっていた。
「あっという間だな」
「そうね。デートだから気合入れてきた自分が悲しいわ」
「そんなに緊張していたら楽しめないだろ」
苦笑して左野を見ると夕焼けのせいか顔が赤い。
「今日は楽しかった」
「俺もだよ」
「あ、あのさ。期末テスト、勝ったらまたデートしてくれない?」
別に暇な時ならいつでもいいのに、わざわざそんな事を言ってきたので首をかしげると話が続いていた。
「あんたとデート出来るっていうのなら期末、頑張れる気がする」
「そうか。わかったよ」
「じゃ、あたし帰るわ」
「送って行こうか?」
「いい、また無駄に喋りそうだから」
じゃあねと手を振って走って帰る左野の後ろ姿を見て考える。
「左野は俺の事を……少なくとも嫌ってはいないんだろうな」
どうしたもんかね、顎に手をやって色々と考え込んでしまった。




