第二十三話:北原と期末への戦い
第二十三話
二学期の中間テストが始まると言うのに朝から学園の清掃活動だ。
「全く、ゴミなんてすてるんじゃないぜ。俺が困るだろうが」
「生徒会長そっちは終わりましたか?」
「まだだよ、まだ。ったく、二人でも終わるわけねぇよなぁ。今度散らかした奴が居たらそいつのロッカーに突っ込んでやる」
紗衣が近づいてきて俺の物騒な独り言を聞いていた。
「うわー、何だか荒れてますね?」
「あ? そらそうだぁ。何せ今日から賭け事が始まるんだからな」
「賭け事ですか」
「そうだよ。下級生との触れ合いイベントだ。俺が勝っても何もないけど、負けたら何か言う事を聞いてやらないといけないんだ」
簡単に説明してやると凄く不思議な表情になった。
「勝っても利益ないんですよね?」
「そうだよ」
「何でそんな事をするんですか?」
「賭け事って言うのは分が悪い方が楽しいんだよ」
生徒会長には滅亡願望があるんですかねと聞かれた。
「ま、それはともかく北原も今日から中間テストだろ? 必死に英単語覚えなくていいのか?」
「私は賭け事とかしてませんし」
「いいや、それでも生徒はテストの成績を気にするもんだ。というか、生徒会としては出来るだけ頑張って点数をあげてもらいたいんだけど」
生徒会の中から補習対象者が出てくるなんて冗談もはなはだしいぜ。
俺の言葉もむなしく、北原は軽く首を振った。
「されるがまま、なすがままですよ。やる時はやる、やらないときはやらないのが私のポリシーです」
「うん、今はやるべき時だよな」
「清掃を、ですよね」
「屁理屈娘め……」
生徒会から補習対象者が出たら生徒会長も連帯責任で出ないといけないと知っての事だろうか。
そしてそれから中間テストがあっという間に過ぎてしまった。
自分で納得のいく点数を採れた俺は生徒会室でほっと……胸をなでおろす事が出来なかった。
その月の生徒会役員会に顔を出していつものように議題を進めて行く。
いつもと変わらない光景ではない。最後に俺と東先輩が一緒に掃除をするというのがお約束だったのに今日は違った。
「本当にすみませんっ」
「北原、お前ってやつは……」
勉強道具をもって補習が行われている教室へ肩を並べて歩いている。東先輩は実に怖い顔をして(見た目は笑顔、中身は……)北原をじっと見つめていたぜ。
「えへへ……でも、先輩と一緒に補習だなんて嬉しいですね」
心の底から嬉しそうな顔をされたせいでどう取っていいのかさっぱり分からない。
「それはお前だけだな。俺は関係ないのにお前と一緒に補習だぜ?」
「またまたー、生徒会長とわたし、生徒会メンバーですよ? 関係ないなんてありえませんよ。カテゴライズされますって」
「本当、前向きだな」
「はいっ。ほら、これで生徒会長は期末テスト間違いなくわたしのことが心配になりますよ?」
「怖い事を言うなよ……」
やべ、マジで不安になってきた。
「こういうときは東先輩が羨ましいな」
「何でですか?」
「いや、気にしなくていい」
何せ、実質的な権力をもっているのは東先輩なのに面倒な時は俺が出ないといけないから。
それでも、東先輩は俺が補習に行くと知って変わろうかと聞いてきてくれたからましな方なのだろう。そして、東先輩の言葉を遮ったのは北原だ。
「東先輩は生徒会長じゃありませんから」
不穏な物を感じた俺はすぐさま場を取り繕ったからな。それからはもう、笑顔のままでにらみ合いを始めたし……女って怖い。
「あ、そういえば生徒会長」
「何だね、補習ちゃん」
「下級生との賭けってどうなったんですか?」
「あれはなー……悪いな。本人達に他言無用と言い渡されているからいくら北原と言えど、言えないんだ」
「わかりました。でも、意外と生徒会長って口が堅いんですね?」
てっきり、口を割らせる方向へ話をもっていかせるんだろうと考えていたから素直な言葉に俺は驚いていた。
「でもとはなんだ」
「行進しますか?」
「しねぇよ。お前は俺の事を舐めてるな? こう見えて約束とかは守る方だぜ」
小さいことからコツコツとやるのが近道なもんだ。
そもそも、約束を守るのは人として当然の行いだろうさ。
「あ、じゃあ約束を守る律儀な生徒会長にお願いしてもいいですか?」
「何をだ」
「下級生とフレンドリーに付き合っているんですよね? 今度の期末テスト、私と賭け事しませんか?」
「生徒会メンバーが廊下で賭け事をしませんか? なんて誘っちゃいけません。お母さんはそんな風に紗衣の事を育てた覚えはありませんよ」
「で、どうなんですか」
ノリの悪い奴め。
「いいだろう。前例がある以上受け入れてやらないといけないからな……」
「やった! じゃあ、約束ですよ? 今から先輩にとって期末テスト必死こいて勉強するために私が負けた時の事を話しておきます」
ちょっと恥ずかしそうに照れて北原はこういった。
「私が負けたら、何でも言う事聞きますっ。その、少しえっちなことも……いいですよ?」
「あー、やる気失ったわ。今度の期末は自己最低記録をたたき出すかもしれん」
「そこまでですかっ!」
「北原じゃなぁ……それで、そっちの勝利条件はどんな感じだ。総合点数か? それとも順位で比べるか?」
俺の問いに北原は元気よく手を挙げた。
「はいっ、私が赤点を一つもとらなかったら私の勝ちです」
「ハードル低いなー」
迷いのないあほっぽい顔も可愛いけどさ、こいつ勉強できないのかよ。
「で、どうですか?」
「……いいだろう。その条件でのんでやる」
「ほえ面かかないで下さいね」
「それはこっちの言葉だ」
そしてついでを言えば俺がやる気を出しても今回の賭けは全く意味が無い。何せ、こいつが赤点をとるかとらないかの戦いだからなぁ。
「まさかアホの子だったなんてな……」
「え? なんですか?」
「いや、何でもない」
盗らぬ狸のお稲荷さん……。狸からもぎ取ったお稲荷さんを何に使うか俺は考え始めていた。
実は今作には仕掛けがあります。シリーズを読んでくれている方ならひっかかります。別に驚くことでもないんですがね、後出しだ!とかインチキだっ!なんて言われないようにするための免罪符でもあります。全然やる気がおこらなかった今作、作者は北原が出てきたところで静かに闘志を燃やしています。このやるきのまま最後まで突き進みたいものですね。




