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第二十一話:秋山のお願い

第二十一話

 暦じゃ秋だ。でも暑い。

「あちぃ……」

「じゃあ肝試しだね」

「何でそうなるんだ」

 隣のえせ小説家の一言にけだるげに答えると他の生徒達が寄ってくる。

「え、今日肝試しやるの?」

「生徒会長の言う事だから実現するよ」

「おい、生徒会長がそんな事をほいほい出来ると思うなよ」

 騒ぎだしたらうるさい我がクラス。転校した時から思った事だけれど、他人の不幸は蜜の味とか勉強をしていないクラスメートには超手厳しい連中だ。

「勉強してないからとかありえねー」

「赤点とかマジねぇわ」

「不良が許されるのは中学まででしょ」

 なんて言っている連中だからな。

 こいつら全員、影の努力者だから何ともいえんがね。赤点とった連中が受けるような補習にもクラスメートほぼ全員が参加して熱心に話を聞いているし、休日に行われている勉強会にも七割近くが顔を出している。

 クラスメートの事はともかくとして、今は肝試しに走り始めた連中を止めねばならない。

「肝試しかぁ。よし、じゃあ先生が真白と一緒に学園長を説得しよう」

「マジかよ」

 ここの先生もノリがいいからな。自由は責任の上に成り立っているとかうんぬんいっていて、赤点とったら常に家庭訪問を行っているぐらいだ。

「よかったね、冬治」

「よくないよっ」

「もっとメンバーが欲しいって事?」

「ちゃうわい」

 くそっ、生徒会長の仕事を増やしやがって。

 まぁ、クラスとしては超優秀だし、品行方正のそろったメンバーが肝試しをしたいと言ったの影響があったのだろう。

 割としっかりした計画をまとめ、それを学園長に出したら認められてしまった。

 とんとん拍子で話は進み、責任者は俺、秋山実乃里である。

「八時から開始、二人ずつの五分後ごとにスタートで旧校舎ルートからと新校舎ルートで時間を短縮します。驚かす側は演劇部の方々で、九時には完全撤収。ゴールしたものは担任へのメールと印鑑によるチェックを行います。なお、今回の目玉はいわくつきのひな人形です。以上」

 なおし忘れて行き遅れた人から譲り受けた由緒正しい(?)ひな人形である。

 肝試し当日、自由参加にもかかわらずほとんどのクラスメートが集まっていた。

「じゃあ生徒会長から何か一言」

「改めてルールを説明します。今回のイベントは肝試しです。周る相手は既に知っての通り隣の席の人と、ですね。つまり、男女です。勘違いしてもらっては困りますが、これは仲良くなるためのイベントではありません。散々怖がってもらうためのイベントですから安心してください……やるからには手を抜いていませんので演劇部には死ぬ気で挑んでもらっています」

 このクラス、隣の席が彼氏彼女って言うのも少なくない。何せ、自由に席替えできるからな。変わってくれって言われていいよと言えば即席替えが可能だ。

 だからと言って授業中に騒ぐような輩はいない。

「よっちゃん、君は僕が守るから」

「ありがとう時雨君……」

「けっ、アベックはちびっちまえよ」

「まぁまぁ、冬治。その為に他校の演劇部を呼んだんでしょ?」

 そうなのだ。誰もこの学園の演劇部だけとは言っていない。

 ホラー系をやらせたら日本一だと噂の学園から引っ張ってきた。

 こんにゃくとか的確にシャツの隙間に滑り込ませる事が出来るそうな。

「私と冬治はラストだね」

「そらそうだ。こっちは企画だからな」

 そして実に残念なことに殆ど撤去されている可能性が高い。

 開始十分、旧校舎と新校舎から断末魔に近い叫び声が聞こえてきている。

「ざまぁっ。アベックどもざまぁっ」

「冬治、アベックは古いと思う」

「転校してきたときに俺をはめやがった罰だ」

 俺が腹を抱えて笑っている隣で秋山はメモ帳に何かを書きこんでいる。

「こんなときでもネタを書いてるんだな」

 呆れるもんだとため息をつくと眼を輝かせてペンを滑らせている。

「こういう時こそ、だよ。叫び声とか悲鳴とか実にいい材料になる。何もしなくても頭に浮かぶって人もいるけど、私はやっぱりその場所に行かないと想像できないタイプだから」

 腰が砕けた状態の男子生徒、何故か下がジャージだったりする男子生徒もいる。涙ぐんだ女子生徒が彼氏と思しきクラスメートに支えられていた。

「ふむ、残りはギブかぁ」

「せ、生徒会長っ。あんたどんだけ頑張ったんだ。やりたくなさそうだった割には頑張りすぎだろ」

「うるせぇ、手加減するわけにはいかないだろう」

「屋上から人が落ちてったのはどういうトリックだっ」

 そう言うのは知りません。ええ、私はその件についてはノータッチですから。

「……呼ばれて出てきたんじゃないのかね」

「は?」

「俺はおどかす事には関わってないから。秋山、次は俺達の晩だ。行くぞ」

「うん」

 秋山をひきつれて、俺は旧校舎側から中に入る。

「幸か不幸か、惨状だけが残っているな」

 ストーリー系のおどかし方だとか言っていたかな。おどかされた側に使った道具の残骸が転がっている事が多く、血しぶきも多い。ある一定の角度から窓を眺めると女の顔が映ったりする技術も使われていたり、それに気づかない生徒もいたりするはずなのに本当、手が込んでいる。

「そういや、こうやって秋山と夜の学園に忍び込むのは久しぶりか」

「うん、そうだけど今回は特別に許可が下りているから。そもそも忍び込みじゃないからね」

「ま、そうか」

 俺が秋山の後ろを離れずに歩くのも気付けば慣れてしまったのかな。

「ねぇ、冬治」

「ん?」

 われたアイスホッケーの仮面をふんづけて転びそうになりながら、秋山は続けた。

「私今度恋愛小説書こうと思うんだ」

「恋愛小説ねぇ。普段は書かないのか」

「良くわからないから」

「良くわからない? 一体何がだ」

「そういうの。疎いから。付き合った相手いないもん」

「そうか」

「そうだよ」

 それから黙ってまた歩く。おかげで他校のしかけてくれたいくつかのギミックを見逃してしまった。

「彼氏になってほしいんだ」

「は? ぶっ」

 終わりが見えてきたところで飛んできたこんにゃくを避け損ね口に入ってしまう。

「俺がお前の彼氏だって?」

「彼氏が良くわからないから。冬治ならいいかなって思える」

「小説書く為だけにか?」

「うん」

「あほらし……他に頼めよ」

「いないから、そう言う人は」

 驚くほどの無表情。どこか照れたように言ってくれるのなら俺もにやけて頷いていた事だろう。

「駄目かな。それとも冬治はやっぱり東先輩って人と付き合っているの?」

「え? いや、あれは東先輩が広めているデマだ。気にすんなよ」

「じゃあ、いいよね」

 まぁ、確かにいい、のかな。別に俺が困るようなことも起きないだろうし。

 せっかくの肝試しも秋山のこの申し出によっていまいちおぼろげな記憶になってしまう事間違いなしだろう。

 期待半分、不安半分の彼氏として秋山と接することになったのだ。


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