第二十話:下舌との邂逅
第二十話
下舌虎子とか言う奴を探して歩いて二十分。
「あいつか」
中庭でアニメの歌を歌いまくっている奴を見つけた。昭和のロボットアニメみたいな調子の歌だ。しかも、超うまい。
ぐるぐる眼鏡にお下げ、だっさい格好は情報通りだ。
「ふぅ……」
眼鏡を外して髪をほどくとすっごく美人になるのも情報通りである。
「あー、おなか減ったっす。ご飯食べようっと」
鞄から取り出したのはプラモデルの箱とコンビニのおにぎりだ。
「いただきます」
ニッパーをとりだしてランナーから部品を外し始める。カッターやら紙やすりもとりだしていた。ついでに言うなら接着剤も出していた。
「最近のプラモじゃないのか?」
接着剤なんて要らないんじゃないのかと思いつつ、その光景を見守っていると腕を引かれた。
「何してんの、冬治君っ」
「驚かすなよ……龍美か」
その間にも下舌の腕は止まらない。あっという間におにぎりなんて食べ終わってニッパーを忙しく動かしている。
「おいおい、あいつ全部バラバラにしちゃったぞ」
「下舌虎子は組み立ての説明書を暗記するんだってさ」
「マジかよ……」
見ながらやっている俺だってたまに間違えるのに。
「しっかし、可愛いな」
手元のプラモさえなければアイドルの休み時間みたいなもんだ。現に、下舌虎子の追っかけと思しき連中が何人か彼女に寄ってきている。
「へぇ、あんなのが好みなんだ」
「いやいや、ちげぇよ。ただ単純に可愛いなって思っただけだよ。ところで、あの連中は一体何だ? やっぱり、おっかけか」
「そうだよ。下舌虎子ファンクラブじゃないかな。ほら、左野初って子、一年に居るでしょ? あの子にも年上の変態どもがいるじゃん。あんな感じ」
「なるほどね」
左野はともかく、下舌ファンクラブは納得がいく。見ているだけで癒される、そんな人のようだ。
「あー、見てて腹が立つ。普通学園まで持って来なくない?」
人差し指でい抜くようにプラモを指差している。
「ま、まぁ、確かにな。模型部にでも所属しているんじゃないのか」
「違う、あいつはあんな奴なんだよ。そもそもさ、今眼鏡外しているじゃん。あのぐるぐる眼鏡、伊達なんだよ」
親の仇でも見るような目で唸りだした。
「お前も伊達眼鏡したらどうだ?」
「全力で拒否します」
二人でその後も下舌を見張っているとお昼休みが終わってしまう。
「っと、こんなもんかなっす」
「全然進まなかったぜ? そんなに組み立てるのが難しい奴なのかな」
「さぁ? あの人はゆっくり作るのが好きなんじゃないの?」
そこでまた肩を叩かれた。一体誰だと後ろを振り返ると其処には『下舌』と書かれた鉢巻きを付けた男が二人立っていた。
「きっ、君達、下舌虎子さんを見てたね?」
「あ?」
「こいつら、下舌ファンクラブの連中だよ」
ああ、何だか言われた通りファンクラブっぽい見た目だな。
「せっ、先生に言いつけてやる」
「いいつけられて困る事なんざ一つもないが……俺らはな、左野ちゃん倶楽部の者だ」
え、何言いだしてんのという視線を無視して続ける。
「この学園の覇者は左野初ちゃんだ。あんななんちゃってアイドルにうちの左野が負けるはずがねぇ」
「さ、左野ちゃん倶楽部だってっ。運動部のロリ愛好家どもの犯罪予備軍じゃないかっ。ぼっ、僕らより酷い連中だっ」
「今日は単なる様子見だがな。あんまりでかい面してるとお前らのお姫様が酷い目見るぜ」
「な、名前をいえよぉ」
「名前を覚えるよりお前らには俺の拳を覚えてもらおうと思うがね。どうだい、さっさと逃げたほうがいいよ」
覚えてろよぉとそういって逃げて行った二人組の背中を見送って一言。
「どうなるかな」
「さぁ? わたしは左野って人と知り合いじゃないから」
「そうか。俺も左野ちゃん倶楽部の人じゃないからな。ま、とりあえず次の授業が始まるから教室に戻るか」
「そうだねぇ」
投げっぱなしでも別にいいだろう。ま、下舌虎子を拝んだ事だしもう会う事もないだろう。
その日の放課後に出会うとは俺も思っちゃいなかった。
放課後、龍美と一緒に珍しく帰っていると体躯のいい連中に囲まれた下舌虎子を見つけた。
「お前さんよぉ、アイドルだか何だか知らないけど左野ちゃんの事を馬鹿にしてくれたようだな」
「左野?」
何の事かと下舌虎子は首をかしげていた。
「ちょ、ちょっと冬治君っ」
「え? どったの?」
「どったの? じゃないよっ。間違いなくお昼休みの事で因縁つけられてるよっ」
「自分でまいた種だろ」
「それは冬治君がまいた種でしょっ」
「こりゃまいったね」
「……」
振りあげられた拳を見て、俺は素早く下舌虎子の前に飛び出していた。
「お兄さん方」
「あん?なんだお前は」
「左野初があそこで見てるぞ」
「えっ!」
その一瞬を俺は見逃さない。素早く手を引いて下舌虎子と一緒に逃げる。後ろからすぐに追いかけてくる足音と声が聞こえてくるけども、逃げ切った。
「ふいー、危機回避成功か」
連中に捕まって居たらどうなっていた事か。あの筋肉で滅茶苦茶にされていた事は間違いないな。
「あの、ありがとうっす」
「え? ああ、気にすんな」
元はと言えば俺が悪いのだ。
ビン底のぐるぐる眼鏡が俺を捉えていた。
「名前教えてほしいっす」
「名前か……」
後でごちゃごちゃして今度は下舌ファンクラブに顔が知られるとやばそうだからな。手を振っておいた。
「気にしないでくれ」
「教えたくないんすか」
「そ、そうだな。わけがあるんだよ」
「ふーん? あ、じゃあ代わりにっすけどドンダム好きっすか?」
有名なロボットアニメをあげられて首をかしげる。そうか、そういやこの人はロボットアニメが好きとか聞いたな。
「ああ」
「そうっすか。自分も大好きっす。小さい頃はロボットが動いているだけでよくわからなかたっすけど、今見たらあの映像を作り上げた監督は……」
それから蘊蓄が始まった。知っているとはいえ、殆ど知らない部類の俺からしてみれば宇宙人に会ったようなものだ。
「あ、俺そろそろ行かなきゃいけないからこの続きはまた今度聞く」
「そうっすか。楽しみにしているっすよ」
メールで上条に逃げ切った事を伝えて家に帰る。
その日の夜、延々下舌からダンダムの説明を受ける夢を見た。




