第十七話:秋山と謎の手帳
第十七話
「あっちー」
本格的な夏も近い、そんなある日のことだった。
隣の席に秋山がいなくなった時に一冊の手帳が置かれていたのだ。黒くて、実用性に富んでそうな雰囲気の手帳だ。
「これはもしかしなくても秋山のネタ帳……だよな」
自傷小説家のネタ帳は面白そうだ。開けてみようかなと思いつき、手を伸ばしたところでやめた。
「罠だ」
第六巻とか虫の知らせがやって来たんだと思う。
喧騒のさなか、何者かの視線を感じてそちらを見るとストーカーよろしく秋山がこっちを見ていたのだ。
さも、今戻ってきましたみたいな顔をしてそのまま机の上に置いてあった手帳を掴んで胸ポケットにしまった。
「見た?」
「見てないよ。お前こそ俺を見ていただろう」
「自意識過剰」
「そっくりそのまま返すぜ」
見ていたらどうなっていたか想像して背筋が凍る。無理難題が得意みたいだから気をつけなくてはな。何を言われるかわかったものではない。
そして、期末テストが差し迫ったある日のことだ。
「ん?」
秋山の机の上に手帳がのっていた。
「期末テスト秘伝法……か」
あ、怪しい。
胡散臭い手帳を指で突いてみる。ふむ、いたって普通の手帳だな。
「だからと言って俺が見るとでも思ったのか、馬鹿め……今回の俺はただの俺ではない。二週間前から準備オーケーだ。それに、今日から朝早く来て職員室前のスペースで自習しているんだぜ? 目指せ、学園五十番台」
何せ、五十番台に入れば両親が家に帰ってきてお祝いするとか言っているからな。たまには両親の顔を見るのも楽しいもんだ。
周りの生徒に笑われながら席に座るとどこから見ていたのか秋山が残念そうな顔をして席に座っていた。
「運が悪かった」
「はは、残念だったな」
「私が五十番、君は五十一番」
「ほぅ、挑戦状とはいい度胸しているじゃあないか」
そう簡単には負けんぜよ。親がほとんど家に居ないさびしがり屋の本気を舐めんなよ。
期末テストはそのまま俺の勝利で飾り(その事を秋山に言ったら何の事だととぼけられた)、明日から夏休みと言う時に手帳がのっていた。
「またか」
二度ある事は三度ある。
というか、こんなのに引っかかる奴なんざいねぇよと突っ込もうとして手が止まってしまった。
「秋山実乃里による真白冬治評価表……だと」
凄く気になる内容だった。
「いや、待てよ。これはやっぱり罠だろ。開けたところで真面目に書いていないだろうし……」
う、うーん、そういえば前回、前々回とかしっかり書かれていたしなぁ。期末テストの方は『課金しろ』で何も書かれていない手帳には『次は妖怪かな』と書いていた。
つまり、これまで通りの内容ならふざけた事が書かれているわけだ。
「しかし、だ」
ふざけた内容だからと言って他人の、しかも女の子の手帳を勝手に見るような奴は幻滅だよなぁ。俺だって日記帳を見られると嫌だもん。
そもそも、衆人環視だし、秋山が俺に対する評価をしている手帳なんて見たら周りから気があるんじゃないかって思われるし。
十分ほど悩んだ末にやっぱり、読まない事にした。
「秋山、もう出てきていいぞ。俺は読まんぞ」
「そっか」
掃除用具から出てきた事にちょっとだけ驚いた。動揺を隠して、隣に座った秋山に尋ねてみる。
「その手帳、どんな言葉がのってるんだ」
「えっとね……」
手帳を開こうとして結局閉じた。
「どういう事だ」
「私は他人の手帳を勝手に読む人は嫌いかな」
「そうか」
「そうだね」
「じゃあ今後机の上に忘れて行くなよ」
「気になる?」
「ちょっとぐらいは」
「それは私だから?」
その言葉に目を剥くと秋山は唇をゆがめている。
質問に俺は答えず、中指を立ててやった。
「夏祭りの日、校舎裏に来てほしいんだ」
「え?」
「一度だけしか言わないから」
言うだけ言うと立ち上がってどこかへ行ってしまう。
夏祭りの日に校舎裏に来てほしい……その言葉はしっかりと脳内に残っている。
一体これは、どういう事なのだろうか。
差別化を図るために秋山編は秋山のまま、その他は変化をつけようかと思います。突拍子な思いつきでもなく、プロローグに持っていくにはどうしたらいいかと自分なりに考えていた結果でもあるんですけどね。だからと言って、プロローグにたどりつけるのかと聞かれると微妙です。そもそも、あのプロローグがこの話と関係するのかさえまだ曖昧と言う……事にしておいてもらたいですね。シリーズものを完結させるときは何かしらの痛みを誰かが背負わねばならんのです。そらぁ、シリーズものの主人公が適任でしょうね。ありがとう冬治君。さようなら冬治君。いつもの使い回し主人公はシリーズものを終わらせるときは結構いい感じで終わっているんですけどね。作者としては今後の冬治君の活躍に期待したいと思います。




