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第十五話:東と北原

第十五話

 見事に生徒会長に当選した俺、真白冬治よりも知名度がある東先輩。

 生徒会長のイスに座っているのも俺ではなく、委託生徒会長となった東先輩である。

「真白君はわたしの指示通りに動いてくれればいいから」

 新任の挨拶の時に言われた言葉がこれである。面倒事が少々嫌いな俺からしてみればまぁ、いいかなと思ってしまった。

 男としては毅然とした態度でノーと言いたいものだね、うん。何か意見しようとすれば暗い笑顔で『黙ってて』って言われるから何ともし難いものがある。

 それでも生徒会での話し合いがあるときはお飾りと呼ばれようと出席しない割には行かないのだ。

「生徒会長さーん」

「ん?」

 ノートと筆記用具を手にした俺を親しげに呼んでくれる新生徒会書記の、何とかさんである。

「あ、いまあたしの名前を考えてましたね?」

「へぇ、良くわかったな」

「それはもう、男心は心得てますからね」

「そうかい、悪いけど名前をまだ覚えてないんだ。俺の事を生徒会長さんって呼ぶぐらいだから君も名前を覚えてないんだろうけどさ」

 この言葉にちょっと憤慨して恐い顔をされる。

「そんなわけないですよ。真白冬治先輩でしょ」

「そうそう」

「あたしの名前は北原紗衣です」

 もう忘れないで下さいと言ってから右手を掴まれる。

「ほら、行きましょう。そろそろ始まりますよ」

「ああ、そうだな」

 俺の苦手な元気っ子だ。話すときも顔が近いし、役員会が行われる時は必ず名指しで俺の意見を求めてくる。

 生徒会室に入ると殆どの生徒がそろっていた。つまり、俺と北原が最後だったわけだ。

「それでは七月の役員会を始めます」

 これが俺の数少ない仕事の一つである。開始と終わりの宣言だけと言っていいかもしれない。

「それでは第二月曜日に行われているあいさつ運動についてです。生徒会役員の参加人数を参加可能な方全員に変えたいと思います。反対の方はいますか」

 東先輩の言葉に誰も反論を出さない。まぁ、これはいいだろう。あいさつ運動はあったほうがいいし、学校周辺での犯罪行為も減るとか言われているからな。

 滞りなく議論が進み、最後は生徒会メンバーからの要望の時間になった。

「何かありますか」

 基本的に何もないから今日もすぐに終わるだろうと思っていた。

「はい」

「え? あ、北原……さん、どうぞ」

 北原が立って役員全部を見渡す。

 最後に、俺を見て笑顔を向けられる。

「あの、第三月曜日に行われている清掃活動、一名から二名に変えたいんです」

「理由は何故でしょう」

 俺ではなく、東先輩が笑顔ながらどこか不気味な雰囲気を漂わせて北原を睨んでいる気がする。

 ちなみに、この清掃活動は俺が担当している。影で呼ばれている名前は『お掃除生徒会長』だ。

「今の人数ではさすがに学園内の清掃活動が完璧だとは思えません」

 それでも一応普段学園に行く時間帯より三十分早く来ているんだぜ。

 これは遠まわしな俺への批判かと考えていると北原が視線を向けていた。

「生徒会長はどう思いますか」

「俺か? そうだな、強制的に決定してもきちんとするとも思えないからな。そもそも、清掃活動については元より自由参加なんだよ」

「え、そうなんですか」

 周りの役員からもそんな声が聞こえてくるので頷いておいた。

「ああ、だからやりたいって人が居たら一緒にやってくれればいい。勿論、部活もしている人は朝が忙しかったりするから強制するわけでもない。ま、俺以外は部活に入っている人ばかりだから気にしなくていいよ」

「どうしますか、北原さん」

 この東先輩の言葉にどう思ったのかは良くわからない。

「わかりました。さっきの提案はなかった事にしてください。あたしの早とちりでした」

 舌をちらりと出して北原は席に座った。

「それじゃあ、他に何もないならお開きにします」

 その後すぐに解散に成り、東先輩と俺が残る。無論、この部屋の清掃だ。

「真白君」

「はい?」

「北原さんって真白君の友達?」

 その質問の意図を考えるより先に俺は首をかしげていた。

「どう、でしょうね。関わり合いがあるのは生徒会だけですし」

「そっか、それならいいわ」

 絶対に会わないって人なのかもしれないなぁと思いながら俺は箒を動かすのだった。

 そして、第三月曜日にいつものように学園へ向かうと北原が立っていた。

「北原か。早いじゃないか……君はぎりぎりに来るのが美学だって言ってなかったかい?」

「今日は違うんですよ、生徒会長」

「何が違うんだ?」

「見てくださいよ、この格好」

 そう言われて見直すとパステルカラーのエプロンをつけていた。

「ああ、家庭科の実習でもあるのか? 良く似合ってるぞ」

「ありがとうございます、って、違いますよっ」

 褒め方って難しいなと心の中で呟いて首をかしげる。

「じゃあ、なんだ。俺が気に障るような事でも言ったのか?」

「えっと、お手伝いするために来たんです」

「掃除のか。ま、自由参加だから好きにしてくれていいよ。ありがとな」

「頑張ります!」

 その日はいつもより清掃活動が早くに終わった。これも北原のおかげだなと言ったらしきりに照れていたのだった。


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