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第十三話:秋山と夜の女学園

第十三話

 居てもいまいち気付かない、その割には強引なところがある秋山実乃里に今日も呼び出された。

 この前書いていた小説は俺に読ませてくれたものの、いまいちではないかと感想を投げたら頬を思いっきり叩かれた事を報告しておこう。

「これは無理だろ……」

 無言で人差し指を彼方に向ける。

 指差す先にたたずむそれは、おそらく羽津第二女学園だ。

 おそらくじゃないな、校門に書かれてる。

「ここに入ろう」

「待て、お前今一体どんな話を考えているんだ」

 小説の種に女学園に侵入するのかと問われれば答えは否だ。さすがにこれはまずいだろう。

「特に考えてない」

「え、マジか。じゃあなんで侵入するんだよ」

「刺激になるかなと。面白い話が浮かぶかも」

 今俺の顔は凄くのっぺりとしたものになっているはずである。

「そんな理由で侵入するつもりか」

「損じゃないと思うけど」

「日本語って難しいな。俺はそんな、って言ったんだ」

「ほら、行こう」

「きいちゃいねぇ」

 嫌だと力いっぱいねじ伏せられたらどれだけいいだろう。

 力じゃ絶対に負けないだろうにそれでも手を引っ張られて俺はその学園の敷地へ入ってしまった。

 そして、女学園に侵入して困ったことがいくつかあった。既に絶体絶命に陥ったのは現時点で二つだ。

「誰だっ」

 見周りの人に見つかり、警報装置つきの扉を開けてしまったせいで警備会社がやってきたのだ。

「俺の想像していた女学園侵入とだいぶ違う筋書きだな」

 出来るだけ音を立てないよう努力して廊下を走る。共犯者は小説を書くのが趣味だと言う癖に足が早い。

「お化けが出る方面かと思ってた?」

「ん、まぁ、それもありかな。でも、入ってすぐにこうなるとは思わなかった」

 きっと女子プロレスの人が特攻してくるに違いない。あの人には勝てない。

「現実はいつだって非情だから。私はこうなるってわかってた」

 わかってたなら侵入しようとするな。アホっ。

 大声出したら一発でばれるだろうから心の中で叫んでおいた。

「どの道、このままだと捕まっちまうぜ」

「わかってる。考えがあるから」

「そりゃ、どんな考えだ」

「こっちについてきて」

 秋山に誘われたのだから自分の意思で動くよりも、従ったほうがいいかもしれない。つき従ってやってきたのは雑多な感じの部室だ。

「開いた」

 あっさりと錠前を解き放った事にはもう触れない事にしよう。

 中に入り、迷わず一つのロッカーに入りこむ。俺も習ってその隣に入りこもうとしたら同じロッカーへと引きずり込まれた。

「え、どういうこと」

 背中に当たる確かな秋山の感覚に心拍数をあげながら色々な意味を含めて尋ねる。

「しっ」

 思った以上に早く部室の扉があけ放たれる。俺が入ろうとしたロッカーを開けて、何故か俺達の入っているロッカーには手をつけなかった。

「くそっ、ここにはいるのが見えた気がしたが違ったか」

 警備員と思しき相手はそのまま部室を後にした。

 狭いロッカーの中に二人きり、そして深夜だからか余計に後ろが気になってしまって仕方がない。

 時折当たる秋山の息に身体を震わせてしまった。

「もういいかも」

「お、おう」

 部室内に出てから改めてロッカーの扉を見る。

「なるほどな」

 ロッカーの扉には故障中、ネジ多数開けるな危険と書かれていた。しかし、この程度で警備員が無視して通過するものだろうか。

「この学園で先日他の警備員が女子の下着を盗んだから警備員側としてはあまり部室とかには入りたくないんじゃない?」

「ん、それはあるかもな」

「それに、事件があったのはここだから」

 思いつきでこの女学園に侵入したものばかり思っていたからちょっとだけ秋山のことを見直した。いくらマイナスを見直したところでマイナスには変わりないけどさ。

「こんなだったらいいよね」

「しかも、憶測かよ」

 まだ捕まっていないのは偶然の上に成り立っているだけなのかもしれない。

 それからまたもや廊下に出て走り始める。ここまできたら一蓮托生で秋山の後をついて走るしかなかった。

 向かった先は屋上、最早どこにも逃げ場はない。

 今更、と言ったほうがいいだろう謎の鍵で屋上へつながる階段踊り場の鍵を開けて二人で夜空を見上げる。

「ほぉ」

 辺りにこの学園より高い建物が無い為か、綺麗な星空を眺める事が出来た。初夏の星座が俺たち二人を見下ろしている。

「綺麗でしょ」

「ああ」

 女学園に侵入して、警備員をひっかきまわしてまで見る価値はおそらくないと思われるけどな。

「本当はこれを見たかったのか?」

「え?」

「違うのかよ」

「最初言ったでしょ」

 刺激がほしかったと言っていたかな。

 何を言っても期待しているようなものが返ってこないだろうから黙って夜空を見上げていた。二人で一緒に見ているけれど、バラバラに見ているようなものだ。

「さ、帰ろうか」

「……ああ、そうだな」

 行きがあるなら当然帰りもあるわけで、階段を今再び駆けおりる必要があるのかとげんなりすると屋上の先を指差した。

「ここから降りられる」

「へぇ」

 一本の太い綱が結ばれていた。物おじする間もなく、四階の建物の屋上から秋山はおり始めた。

「来ないの?」

「い、行くよ。別に怖いわけじゃねぇ」

 そうだ、俺が先に降りたら今日の秋山はスカートだから見えちまうな。うん、別にこれは俺がちょっとだけ物おじしちゃったわけじゃないぞ。

 秋山が半分降りたところで俺もそれに続く。

 命綱なんて文字通り一本こっきり。どっちかと言うとその命綱にぶら下がっているだけで怖かった。

 寿命が縮んだのを実感しながらやはり人間は地球に足をつけて存在するのが一番だと再確認出来た。

「面白かった?」

 無事に学園の外へ脱出したことに感無量になっていた俺へ質問が投げかけられる。

「ちょっとはな」

「そっか」

 満足、不満と言うわけでもない無表情で秋山はただ頷くだけだった。


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