第十一話:東と腹黒い手帳
第十一話
生徒会書記立候補代行候補なんて理解しがたい肩書きがつけられて既に二週間が経ってしまっている。
「うーん。どうしようかな」
俺のパトロン、ではない黒幕の東未奈美先輩は新聞部集計の調査を見て悩んでいるようだ。
「何か悩みでもあるんですか」
「できれば、もうちょっと押しのある候補を選びたかったなと思いました」
「俺の存在全否定ですか」
結婚した奥さんが旦那に対してもうちょっと高収入が良かった、とか顔は悪くないけどもうちょっとかっこよかったら良かったなんて言うような事だ。男のプライドは傷つきやすいのだ。
「歳は二十歳より上がいいですね。筋肉質で結構、体躯のいい人が良かったです」
「未奈美先輩のタイプは聞いていませんが」
それはそれとして、選挙活動でやっている事と言えば名刺配りぐらいだ。
みんなのやりたい事を代わりにやらせていただきますっ、なんて言い始めた候補は誰かに闇打ちされてしまった。
「冬治君」
「はい?」
「尻に菊が刺さった写真を撮ったのはやりすぎだったと思いますよ」
「その言い方だとまるで俺が襲ったと思われます」
「え、違うんですか」
「違います」
生徒会室では既に対立候補のつぶし合いが行われていて実弾も飛んだとか飛ばなかったとか。
「さて、わたしたちもそろそろ動きましょうか。眠れる獅子が目を覚ますときです」
右手を握りしめ、東未奈美先輩は立ち上がった。
「一体、どんな考えがあるんですか?」
「生徒会長に立候補している人は全部で五名。相討ちによる脱落者二名、ただいま現存三名で生徒会書記、生徒会体育委員、生徒会会計なのですね。これからやるべきことはたったひとつです」
垂れ目な書記は静かに燃えていた。
「他の二人に負けなければ勝てます」
「何その子供みたいな屁理屈」
「体育委員はやはり運動部系から票を得ていて、会計は文化部系、私達はこの二つの候補にそっぽを向いている人たちからの票が元ですよ」
Aは嫌だ。Bも嫌だ。それならCにしよう。俺だからという理由じゃないからなちょっとショックだ。
票には変わりないので仕方のない事らしいけど。
「残りの浮動票を得れば間違いなく当選です」
「それで、その方法は?」
「冬治君による地道な売名活動」
そしてそれから一週間後のことだ。
「新たな生徒会長は二亦挂さんになりました。はくしゅー」
「まけてるじゃねぇかっ」
何が地道な売名活動が実を結ぶ、だ。
得票数総合第三位、つまりは最後って事じゃないか。
「異議がある人は手をあげてください」
静まり返った会場で一本の腕がまっすぐ天井へと向けられる。
「異議、ありますっ」
全生徒が東先輩へと視線を向ける。俺なら緊張してびくつくだろうけど、先輩はそんなたまじゃなかった。
「生徒会書記東未奈美さん、どうぞ」
笑顔を振りまきながら壇上へと登った東さんは黒い手帳をめくり、とあるページで手を止めた。
「今回、生徒会長になった二亦さんは生徒会の会計さんから契約金をせしめています。そうですよね」
「出鱈目だっ」
ポスターにうつっていた女子生徒が発言している。
「どこに証拠があるのよっ」
「ここに、証拠があります」
ボイスレコーダーが再生され、その時のやりとりが全生徒に知れ渡った。視界が慌ててマイクをとる。
「そ、それでは繰り上げで得票数第二位の田中芳郎君が生徒会長です。皆さん、惜しみない拍手をっ」
まばらな拍手が講堂に鳴り響いた。
結局、俺が選ばれたわけではないので意味が無い。
「異議がある人は……」
「はいっ」
壇上に立ったままの東先輩が元気よく手を挙げる。
「東さん、どうぞ」
一度壇上から降りてもう一度昇りなおす東さんを見て、一人の男子生徒が手を挙げた。
「辞退しますっ」
「え?」
やましいことがある、そう言う事なのだろう。
未奈美先輩も軽く笑って閻魔帳を閉じる。
「え、えー…では、生徒会長は真白冬治君に決定です。異議がある人は……いますか?」
勘弁してくれ、そんな表情の進行係と生徒達。理由を見つける事が出来なかった対立候補は諦めたようだ。
こうして、俺は生徒会長となったのだった。




