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ハルヤ、叱られる

カーチャンにはすべてお見通しですよ。

「無茶はしちゃだめって言われたでしょ?」

 ドラゴンの情報を研究室に持ち帰ったハルヤを待っていたのは、フニカのお説教だった。

「だ、だって、オレがやらなきゃいつまでも何もできないよ。ドラゴンたちに怯えながら、十年なんてあっという間に過ぎちゃうよ!」

 そう反論するも、フニカの一睨みによって射竦められるハルヤ。

 たった六歳の少年に、母のお説教に打ち勝てなんて無茶な話なのだ。

「確かに、ハルヤがドラゴンの本拠地に忍び込む間、会議はなんにも進展は見せなかったわ」

 フニカはシルバーバッチなので、ハルヤが研究室に戻るといったあとに会議室に顔を出したのだ。

 しかし、あまりにも遅々とした会議進行に呆れたフニカはハルヤの様子を見に研究室に顔を出したが……もちろんハルヤはいるはずもなく。

「お母さんがどれだけあなたを心配したかわかってるの? あなたの事だから、ドラゴンのところに行ったことはわかったわ……ドラゴンに踏みつぶされそうになるなんて」

「見てたの?」

 驚きを隠せないハルヤ。

「心配で心配で何もしないなんてできないじゃない。魔法で見てたの、ドラゴンのところに大人の私まで行ったらばれちゃうわ。……リスに化けたのは、いいアイディアね」

 でも、とフニカはビシリとハルヤの目の前に指を突きたてた。

「危険は危険よ。……次から何かするときは、お母さんに言いなさい」

「そんなことしたら、反対するじゃんか……」

 ハルヤは不満げに唇を尖らせる。

「反対はしないわ。危険が少しでも減る方法を一緒に考えるのと、保険をかけさせてもらうだけよ」

 この街を守りたいのは、フニカだって同じだ。あの会議室を見る分には、きっとそれを成し遂げられるのはハルヤだけ。しかし母であるフニカは自分の息子を危険に晒したいわけはない。ならば、全力を尽くして協力する。それが彼女の決定だった。

「ほんと? 相談すれば何しても怒らない?」

「えぇ、代わってあげたいところだけど……お義父さんに止められたのよね、以前。ハルヤはお義父さんを超えられるから、苦難の壁にぶち当たったときは止めずに協力しろって」

 はぁ、とため息をつくフニカ。

 あの時、義父に猛反対したのだが、結局は納得させられてしまったのだ。

 母としては絶対にハルヤを家に閉じ込めておきたいところだが、街の未来を、ハルヤの意志を、そして亡くなった義父の思いを考えるとフニカはハルヤを止めることができない。

 それに、フニカ自身ハルヤの将来に期待しているのだ。

 どこまで立派になるのか。どこまで羽ばたいていくのか。

 息子が輝かしい道を歩けるのであれば、この決断は間違ってはいないだろう。

 ならばフニカにできるのは、ハルヤの身に降りかかる火の粉を振り払ってやることだけだ。

「良かった! オレ、お母さんに協力してもらえなかったら一人でドラゴンに挑まなきゃいけないところだったよ、ありがとうお母さん!」

 もし、嘘をついたことが原因でお母さんが協力してくれなくなったらどうしよう。怒られている間中、そんな不安がハルヤの胸を駆け巡っていた。もう嘘はつかないぞ、と胸の中で新たな決心をする。

「かわいい息子を一人でドラゴンに挑ませるものですか。で? 音声までは聞き取れなかったわ、あの場所でどんな情報を得てきたの?」

「あ、えっとね。ドラゴンの子供がじいちゃんとオレに襲われたって言ってたんだ」

 フニカの表情が怪訝そうにゆがんだ。

「……心当たりはあるの?」

 それを見てハルヤは慌てて言葉を付け足す。

「ないよ! オレが魔法で街から遠ざけたのは、ゴブリンだけだもん!」

 となると、とフニカは顎に人差し指の第二関節を軽く当て、考え始めた。

 ドラゴンというのは、未知の生物であるからどんな能力があるか知られていない。

 魔法使いが何人かかっても捕獲もできないほどの強さで、今知られていることは偶然発見されたドラゴンの遺体を保護し研究された結果など、ほんの一握りのことなのである。

「もし――」

 フニカが仮説を立てる。

「ドラゴンがそのゴブリンを乗っ取り、精神を操っているところをハルヤが攻撃したとすれば?」

「精神を操ると、操った本人が怪我をするの? それに、ドラゴン族ほど強い種族が精神に直接干渉するなんて考えられないよ。そう教えてくれたのはお母さんじゃん」

「そうね……」

 精神干渉は、強い肉体を持たないものが自分の身を守るために進化した結果だとフニカの研究でわかっている。この論文で彼女はシルバーバッチを手にしたのだ。

「……どうして、ドラゴンは嘘をついたんだろう?」

 首を傾げるハルヤ。

「どういうこと?」

「だって、そうじゃん。オレが攻撃したのはゴブリンなのに、ドラゴンは自分が攻撃されたって言ったんだよ? もしかしたら、あのドラゴンはこの街が嫌いだけど自分一人だと結界を破れないからみんなに協力してもらうために嘘をついたのかな」

「でも、そうだとしたらどうしてこの街を嫌いになるのかしら」

 ドバルの住民は、滅多なことでは街から出ない。ならば、嫌われようもないのだ。

「それはわからないけど……。そうだ、オレ、もう一回ドラゴンのところに行こうと思ってるんだ。オレの得意分野を生かそうと思って」

 ハルヤは先ほど拾ったドラゴンの鱗とひげを取り出した。

「……一応聞くわ、何をするの?」

 ふー、と感情を抑えつつもフニカが尋ねる。

「ドラゴンに変身するんだ!」

 キラキラと目を輝かせるハルヤ。

 その輝きの根源は果たして新しい研究にとりかかれるからなのか、ドラゴンという未知の存在に変身できるだろうことから来ているのか。

「危ないわ」

 やっぱり、という表情で吐き出すように言うフニカ。しかし、すぐにハルヤの肩を掴むと、自分の胸元に抱き寄せた。

「え、お、お母さん?」

 まだ幼いといえど、勉強や研究が忙しい上祖父っ子なハルヤに、自身も仕事をしているフニカの母子はこうやって触れ合うことは滅多にない。

 動揺するハルヤだったが、暖かい母の感触を心地よさげに受け入れた。

「……いいわ、やりなさい。でも、お母さんあなたに魔法をかけるわ。危険だと思ったらすぐに呼び戻すからね」

「引き寄せの呪文?」

 ハルヤの顔がひきつる。引き寄せの呪文はかけられた時ものすごいスピードでひっぱられる上揺れるため、そこまで乗り物が得意ではないハルヤにとって引き寄せの呪文は苦痛でしかない。

「嫌なら賛成するわけにはいかないわ。……大丈夫、ハルヤのために私なりに改良したつもりよ」

 渋い表情は崩れないものの、ハルヤはフニカの許可を貰ったということで自分のデスクに向かった。まず、理論を組み立てないことには始まらない。ドラゴンの細胞には限りがあるのだ。

「ここにいない方がいいかしら?」

 フニカはハルヤの後ろ姿に声をかけた。

 しかし、返事はない。もう自分の世界に入っているらしい。

 まったく、変なところが父親に似ちゃったんだから。とフニカは笑みをこぼすと、進展なんて欠片もないであろう会議室に向かった。



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