ハルヤ、リスになる
得意分野を生かしてます
ハルヤは、フニカの魔法で出たとおり、ドバル山の麓、小さな小屋の陰に隠れている。
懐に薬の瓶を隠して。
「まさか、おじさんのために創ったこの薬がオレの役に立つ日がくるなんて、ね」
そう、ハルヤが思いついた案とは、自身が創りあげた薬で小動物に変身することだ。
ドラゴンの主食は大型の肉食獣なので、小さな動物など目もくれないだろう。ハルヤは瓶の蓋をあけると、一気に飲み干す。
味に改良の余地があるな、なんて思った時には、ハルヤの体は小さなリスに変化していた。
彼らは嗅覚と聴覚、そして味覚が鈍い。幸いハルヤが近付いていることにも気が付いていないようである。
ハルヤはリスとなった体を走らせ、ドラゴンたちの群れに忍び込んだ。
「まったく、あの魔法使いはドラゴンの子供に手を出す度胸があるだけあって、なんと強力な結界を張るのだ。おい、あれを破る手立てはまだ立っていないのか」
イライラと群れの中を歩き回る、たくさんのドラゴンの中でも一際大きなもの。
群れの中での位置は、高いほうだろう。畏怖の目で彼を見るドラゴンがちらほらと見受けられている。
「長、落ち着けって。俺らドラゴン族に勝てない相手はいないんだからさ、ちょっと時間がかかっても絶対仇は打つって」
長なのか、とハルヤは驚く。ドラゴン族というのはもっと思案深く、冷静沈着なものだと思っていた。しかし、今この長と呼ばれたドラゴンはまったくそんな様子はなく、先ほどのクラトを彷彿とさせた。
「これが落ち着いていられるか。我が息子が攻撃されたのだぞ。おい、もう一度あの時の様子を教えろ」
長はドスドスと音を立てて、小さなドラゴンの元に歩み寄っていった。
猫同士がぺろぺろと毛づくろいをするように長ドラゴンが子ドラゴンの顔を労わるように舐めると、子ドラゴンはくすぐったそうな、嬉しそうな表情をする。
じいちゃんがドラゴンを、しかも子供を攻撃するわけないじゃないか、なんて思いつつもハルヤは子ドラゴンの近くに駆け寄った。数回ドラゴンに踏まれそうになったハルヤだが、リスというのはずいぶんと素早い動きをするもので、リスの体に慣れていないハルヤでも華麗なステップで彼らの足をすり抜ける。
「えっと、あの時僕、散歩をしてたんだ。それで、魔法使いがいっぱい住んでいる街の近くまで歩いてたことに気が付いて帰ろうとしたら、間違えて茂みから出ちゃって。そしたら風の魔法で吹き飛ばされた。あの年寄り魔法使いと一緒に子供もいて、多分魔法をかけたのは子供だけど、絶対年寄りの指図だよ」
ハルヤがアマヤと共にパトロールをしたのは一度だけだ。
そしてあの時魔法をかけたのはゴブリンだ。ドラゴンではない。
このドラゴンは嘘をついている。一体、なんのために。
それを探るためには、ドラゴンに変身して直接問いただすという手もある。
リスの頬袋は便利なもので、落ちていたドラゴンの鱗やひげを大量に詰め込むことに成功した。
次の策を練りながら、ハルヤはドラゴンの足を再びすり抜ける。
小屋の陰まで戻ると、ドバルに戻ろうと駆け出した。