エンくんはたくさん食べる子です。
それにしてもエンの性格の悪さ異常だった。殺せってお前。
「……そういえば」
ユキヤが呟く。
街の前までたどり着いた二人と一匹は、立ち尽くす。
「ドラゴンって街に入れるのかな」
向こう十年は入れないんじゃないっけ……と、ユキヤは悩み始めた。
「……あ、じいちゃんの魔法」
命と引き換えに、アマヤは街を守る魔法をかけたのだが……それを解くには多大な犠牲が必要となる。
「……僕、入れないの?」
不安げにエンの瞳が揺れる。街に来るまでの間に、彼は自分の体の大きさを変え、ハルヤと同じくらいの大きさになっていた。
「いや……確かじいちゃんは『街に害を与えようとするもの』を阻むって言ってたから、大丈夫だと思うよ」
無事エンは街に入ることができ、家へ向かう……が。
「街の人に見つかったら面倒だから、魔法使いの姿になってくれる? ごめんね、あとでちゃんと街の人に説明して元の姿でも街にいれるようにするから」
ユキヤが言う。
「わかった」
確かに、まだドラゴンを恐れている人は多いだろうし、そもそも解決したことすら知らないのだ。
しかし今は何よりもフニカの元へ帰ることが優先したい。
「……帰るのが恐ろしいけど、行こうか」
ユキヤはフニカが作る大量の料理を恐れるも、エンが増えたから少しは楽になるだろう、と考えていた。
「帰ったら、何か怖い人でもいるの?」
エンが怯えた様子で尋ねる。
「……ごはんがたくさんあるだけだよ」
ちょっとたくさんすぎるけど……と呟くハルヤ。
エンは状況が把握できないまま、家に到着した。
「「ただいまー……」」
ユキヤとハルヤが声を揃えて帰宅すると、玄関までいい匂いが漂っている。食欲をくすぐるその香り。しかし、フニカの元にたどり着いたエンは、言葉を失った。
「……すごい」
大量の食べ物。どれもきれいに盛り付けられている。とても、四人で食べられるようなものではない。
「……これ全部、僕たちで食べないといけないんだよ」
ユキヤの顔がひきつっている。毎回のこととはいえ、今回の量はさすがに今までにないほどだったらしい。
「……これ、全部食べていいの?」
エンが嬉しそうに尋ねる。
「食べれるだけ、食べて。むしろいっぱい食べてくれるとありがたいよ、オレ的には」
ハルヤはあまり食べる方ではないので、既にこの量に辟易していた。
普段使っているテーブルを埋め尽くすだけでは飽き足らず、ものを置けそうな場所にはもちろん、ところどころにふよふよと浮いている皿。軽く二十人くらいは満腹にすることができそうだ。
既に食卓につき、手を合わせて箸を手にしていたユキヤを真似てエンも座る。
「いただきます」
ユキヤがそう言うと、エンもそれを繰り返した。
「いた、だきます?」
意味はまったくわかっていないようだったが、ユキヤが食べ始めたのを見てエンも箸をつける。
ハルヤもいつも自分が座っている場所に座ろうと椅子を引くと、椅子にもパイの乗った皿があった。
無言でその皿を浮かせると、椅子に腰かける。
「見ただけでお腹いっぱいだよ……」
と、ため息をつくと料理を食べ始めた。
「こんなにおいしいものがたくさんあるのに、どうしてため息なんてつくの?」
確かにおいしいけど……と、ハルヤがエンの方を見ると、既にエンの前には十枚近いお皿が積まれていた。
箸は使いにくかったようで、結局手で食べられるものを掴んで食べているようだが、ユキヤも一般行儀は追々教えていくことにしたようで、何も言わない。
「エンがいればなんとかなるような気がしてきたけど……食費、大丈夫かな」
と、苦笑いを浮かべるばかりだ。
「そっか、ドラゴンはたくさん食べるんだね」
ハルヤがすごいなー、と食べ続けるエンを見ている間にも、エンは目の前にある料理を片付けていく。
「違うよ、ドラゴンは食べるときは食べるけど本当は食べなくてもいいんだ。これだけ食べれば一か月くらいは食べなくて大丈夫かな」
もぐもぐと食べ続け、どんどん積み上げられていく皿。
「あらおかえ……あら? 」
フニカが追加の料理を持ってくると、エンの姿に気が付いた。
「わっ……」
エンが驚いて手にしていたパンを落とす。
「あ、フニカ。この子はエン。ドラゴン問題の原因となる子で……まぁ、簡単に言うとドラゴン族を追放されたから、賢いドラゴンの頭脳を利用しようと連れてきたんだ……ドラゴン族もそれが彼に与えた罰として、納得してるしハルヤの友達にもなってくれる」
「エンはもう反省したから、危なくないよ」
ユキヤの説明に、ハルヤが付け足す。フニカはへぇ……とか、はぁ……とか、言葉も出ないようだった。
「今はオレたちと同じような姿をしてるけど、みんなに説明したらドラゴンの姿に戻ってもらうんだ」
「うん……うん、よく理解しきれないけど、ハルヤが決めたのね? わかったわ、今日からドラゴンがドバルに住む。エンっていうのね、よろしく」
フニカは魔法でエンの前にある皿を片付け新しい皿を置くと、エンに手を差し出した。
「?」
握手を理解していないエンはフニカの手を不思議そうに見つめる。
「エン、これは握手だよ。ほら、こうやって」
ユキヤがお手本を見せようとフニカの手を代わりに握った。
「へぇえ……」
それに習い、ユキヤが離したフニカの手を握るエン。
「魔法使いっていうのは、手を触れ合わせるのが好きなんだね」
そういえば、とハルヤは呟く。
「そうだね」
手を繋いだり、握手したり。
考えれば、触れ合う習慣が少なくないかもしれない。
「それは、私たちが弱いからよ。誰かと一緒にいなければ生きていけないの」
「力を合わせればいろいろなことができるからね、助け合うことは大切だよ。エンにはまずそれを理解してもらう」
センとずっと過ごしてきたとはいえ、ドラゴンは基本的には単独で過ごす生き物だ。
魔法使いの生き方をエンが理解するのには長い時間がかかるだろう。
「うん……うん、僕、パパにドラゴンは誇り高い生き物だから、誰かと馴れ合うのはダメって言われてたんだけど、僕は魔法使いの生き方の方が性に合ってるのかも」
この場所、居心地がいいや。とエンは呟いた。
「エンが気持ちいいくらい食べてくれるから、私もすっきりしたわ。足りるかしら」
ぱくぱくと再びおいしそうに食べ始めたエンに尋ねるフニカ。
「僕はいくらでも食べるよ。でも、毎日はいらない。えっと、月に一度くらいたくさん食べられたらそれで大丈夫だよ」
「へぇ、便利な体してるのねぇ」
和気藹々と四人で囲む食卓。エンはかつてアマヤが座っていた席に座っている。
ハルヤは、これでいいんだ……と、パイを飲み込みながら思った。
じいちゃんはいなくなっちゃったけど、代わりにエンがいる。代わり、なんて嫌な言い方だけど、隣の席が空席になることはない。ぽっかりと空いた穴に、エンが入り込んでくれれば……じいちゃんの死を、あまり悲しまずにすむかもしれない。
なんて、ハルヤは考えていた。いつまでも、悲しんでいたらじいちゃんはきっといつまでもばあちゃんのところにいけない、と。
「食べ終わったら、さっそく街の人たちを説得しようか」
ユキヤがそう言うと、エンは嬉しそうに食べるスピードを上げた。
だからといってまったく悲しまれなかったりしたらそれはそれで悲しいよね チーン




