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ハルヤくんはドラゴンになります

ハルヤくんそこ代われ

「君の出番が来たよ」

 瓶の中で揺れていた赤い気体は、ハルヤの声に反応してどことなく嬉しそうに瓶の中を動き回る。

 小屋の陰からドラゴンたちを窺うと、ほとんどの者が眠っていた。今なら紛れ込んでも大丈夫だろう。

 きゅぽ、と小さな音を立てて栓を抜くと気体はハルヤの体を包み込む。

 皮膚に纏わりついた気体は、ハルヤの細胞を伝って体の中へ入り込んだ。

 ドクン、とハルヤの鼓動が大きく弾み、一つ一つの細胞が大きくなっていく。

「……っ」

 声にならない叫びがハルヤの喉を震わせ、それと共にどんどんハルヤの体が大きくなりドラゴンに近い体になっていく。

 やばい、とハルヤが思った時には遅かった。ズシャアアア、と音を立てて小屋がハルヤの体に押しつぶされる。目線をドラゴンの群れに走らせると、気怠そうに頭をもたげる者がポツリポツリといた。

 ドラゴンのうちの、前に一度見た一際大きなドラゴン……長と目があう。

 ギリギリのところで、変化は終わっていた。

「よく来てくれたな、同胞よ」

 嬉しそうに鼻の穴を膨らませる長。ドラゴンたちは普通同胞と会うことはないので、まったく見たことのない顔でも受け入れてくれるようである。

「事情を詳しく聞きたい。その……ちゃんと話を聞かないままに飛び出してきたものだから」

 まずかっただろうか、と長の顔をちらりと盗み見ると、長は感激したように鼻息を荒くしていた。

「そうか、そうか。我が息子が危険な目に遭わされたと聞き、事情もきちんと把握せずに来てくれたのか! お前はドラゴン族の鑑だよ」

 ドラゴンがどんな伝達手段を用いているかはわからないが、ハルヤは話を合わせることにする。長が都合のいい勘違いをしてくれたのはとても助かった。

「エン、この仲間思いな同胞に話を聞かせてやってくれ。……っと、その前にお前の名前を聞かせてもらおうか」

 一瞬焦ったハルヤだったが、ドラゴンのことを調べていた時にちらりと見た名前を呟く。

「プギーだよ」

 プギー。ドラゴン族の中でも有名なドラゴンだ。

 その昔四匹のワイバーンと戦い、相打ちとなって勇敢に死んでいったと書物に書かれていた。この名前なら怪しまれないだろう。

「プギー。なるほど、いい名だ。お前の親もその名を選んで良かったとさぞかし誇りに思っていることだろう」

 長は疑いなんて欠片も見せずにハルヤを子ドラゴン、エンの前に通した。

 エンはハルヤを見上げると、同情を引くような目で訴えだす。

「来てくれてありがとう。話すね。エン、道に迷っちゃって、ドバル? とかいう人間の街の近くまで降りちゃったんだ。そしたら、エン何もしてないのに、バーンって攻撃されて、それで……気付いたら吹き飛ばされて、いっぱい怪我してた」

 確かにエンの翼が折れかけていたり、ところどころ鱗が剥がれ落ちたりしていて、けがをしている。

 エンの話からしても、あのゴブリンはエンだったと考えてもいいだろう。

「変化してたとか、そういうのはないの?」

 ハルヤがそう言うと、エンは目に涙を浮かべた。

「プギーはエンを疑うの? エンに怪我させた奴らに、復讐しに来てくれたんじゃないの?」

「そうだぞ、プギー。変化はまだ私の監視下以外ではしてはいけない年だ、するわけがないだろう」

 長がそう言うと、エンは少しばつが悪そうに俯く。

 これだ、とハルヤは確信した。

 エンは嘘をついている。エンがゴブリンに変化したということは紛れもない事実で、それをエンは隠そうとしている。ドラゴンは、変化の魔法を使えるのだ。

 けれど、これほどひどい怪我を隠し通せるものではない。だから、変化したという点のみを隠しありのままを話したのだ。

 だから、ドラゴンたちは何もしていないのに攻撃されたと思い込んでいる。

 ドラゴンたちのこの誤解を解ければ、とハルヤは思案を巡らせた。

「……プギーは、魔法使いの肩を持つのか?」

 長は憤慨の色を込めた声でハルヤを責めたてる。

「いや、そうじゃないけど……」

 どうしようか、とハルヤが足元を見ると、しゅわしゅわと微かに煙が出ていた。

 やばい、とハルヤは慌てる。変化が解けてしまう予兆だ。幸い他のドラゴンたちは気付いていない。強い者は細かいことに拘らないと誰かが言っていたのを思い出す。ドラゴンが強い生き物で良かった、とハルヤは胸を撫で下ろした。

 しかし油断はできない。このままどうにかして、魔法使いだとバレないようにこの場を去らなければならない。

 フニカとの魔法のリンクで引っ張られるのは怪しまれるだろう。ハルヤはどうにかしてこの場を抜け出す口実を考え出さなければ、とエンと長から離れた。

「どこへ行くのだ」

 そんなハルヤを見過ごすわけはない。長は苛立った声でハルヤを呼び止める。

「……仲間が、いるから。呼んでくるよ」

 ばさ、と翼を動かす。飛べるだろうか、と僅かな不安がよぎったが、飛ばないわけにはいかない。元の体にはない鍵爪で力強く地面を蹴った。

 ハルヤの体は空に滑り出す。魔法使いの体ではできないことだ。翼を動かすと、一気に上空へ飛び上がる。

 後ろで、長が「プギーは少しわかりにくいきらいがあるが、きっと味方だ」なんて言っていた。味方どころか、ドラゴンですらない。

 頭に血が上ったドラゴンは、あまり賢くないのだな、なんてハルヤは思う。

 一度上昇したハルヤの体は、翼を広げてドバルに向かって滑空していた。

 初めての経験に心躍るハルヤだったが、だんだん落ちるスピードが上がっていく。

 シュウシュウと音を立てて足元から変化が解けてきたのだ。

「……あれ? 間に合う、かな……?」

 ドラゴンの鱗は気体となり空へ放出される。

あっという間に下半身の変化が解け、顔がハルヤのものに戻った。

 前足が腕へと戻り、残るは翼のみ。

 その時、どこかから軽く引っ張られる感覚がした。

「あ……引き寄せ呪文!」

 つんつんと、ハルヤの魔法力に絡み付こうとするフニカの魔力に、自分の魔力をリンクさせる。

 翼が消え、空気に抵抗するものがなくなった時、ハルヤの体は消えた。



私もドラゴンに変身したい。

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