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続90 将也と恵

屋上に吹く冬の風を相手に、常に身を縮まらせる。吐いた息は白く、冷えた指先では箸を持つのも一苦労だ。


「なぁ、なんで寒いのに外で飯食ってんだよ俺ら」


隣で文句を垂れる米太郎はしかめっ面でキャベツの千切りをモリモリと口いっぱいに頬張っている。

今日もお前の弁当は野菜尽くしか。キャベツの千切り専用の弁当箱があるとか頭おかしい。


「うるさいなー、別に佐々木は呼んでないし嫌なら消えてよ」


「消えてとか……うぅ将也ぁ、親友のマミーが冷たいよ」


「マミー言うな」


「あだっ」


水川にチョップを食らって米太郎は小さく悲鳴を上げている。口からこぼれ落ちるキャベツが見ていて不快だ。

水川も俺と同じ心情らしく、米太郎に背を向けて火祭の方を見る。


「桜~、この馬鹿ぶっ飛ばして」


「ん、いいよ」


「火祭さん!? あっさり了承しちゃうんだね!?」


続けさまにごめんなさいを連呼して俺の後ろに隠れる米太郎。それを見て水川と火祭は意地悪く笑う。そりゃもうニッコリと。

あぁ火祭は完全に水川の小悪魔スピリットを習得してしまったのか。完全無欠美少女となったわけですね分かります。


「恵ちゃん、今度一緒にお買い物行きましょう」


「ん、有紗ちゃん」


その傍らでは幼馴染同士の春日と有紗お嬢さ、じゃなくて土守さんが楽しげにお喋りしている。いい加減慣れないとなー。最近はタメ語で喋れるようになったけどたまに有紗お嬢様と言ってしまう。

昼休み、今日はいつメンでランチしちゃってま~す、とスイーツ女子ならツイートしていることだろう。冬の屋上は超寒いのに皆さん元気ですね。まぁ俺もなんだけど。

仲の良いメンバーで昼食タイム。今日もあんパンが美味い。


「で、結局は認めてもらえたんだね」


水川がニヤニヤ顔で俺と春日を交互に見つめてくる。口元がグフフ~、と楽しげに歪んでいやがる。

はいはいそうですよ、おかげさまで問題は無事解決しました。つーか俺が行く前に解決していました。


「ところで兎月はまた怪我したの? 頬が腫れているけど」

「これは気にするな、うん」


昨日、この屋上で火祭にボコボコにされた怪我とは関係なく俺の頬は赤い。

やっぱ春日のビンタはすごい。時間差っつーか痛みの継続時間が長すぎ。まだ痛いんですけどっ。

と、いつの間にか火祭が俺の側に移動していた。背中から「ごめんなさい俺も一緒にランチしたいです!」と米の叫び声が聞こえるがこれは放置しておこう。


「まー君大丈夫? 冷やしてあげるね」

「あ、ありがとう」


確かに火祭の手は冷たくてひんやり気持ち良いんだが……ちょ、ドキドキするからやめてぇ。

つーか火祭が俺の怪我を心配するのか。向こうで砕け散った地面はあなたの仕業ですよ。昨日ボコボコにされた相手から優しく手を添えられる俺……不思議な気分ー!


「……桜、駄目。兎月奪わないで」

「む。少しくらいいいでしょ」


不満げな声で春日が俺の横にピタッとくっつく。火祭も少し頬を膨らませて抵抗する。

春日と火祭、まるで小さい兄弟がぬいぐるみを奪い合うかのように俺を挟んで睨み合っている。


「よっ、さすが鈍感ハーレム野郎め」

「ひゅーひゅー」

「兎月君やりますわねー」


そして外野うるさいぞ! 呑気に煽っていないで助けてくれよ。この子達はなんとかして。

って、まぁ俺が悪いのかなー? いやいやホント俺どうした。いつか刺されるよ?


「何にせよ将也がいつも通りのアホ面に戻って俺は嬉しいぜ~い」

「兎月、お礼のこと忘れないでよー」

「良ければ兎月君もお買い物来ます?」

「恵ばっかりまー君独占してズルイ」

「当然。か、彼女だから」


広い屋上がぎゃあぎゃあと騒がしい。

……見上げれば青い空に薄い雲。冬も終わり間近、もうすぐ春がやって来る。

高校二年生も終わりかー……こうしてみんなで過ごすのもあと一年。


「あっという間だったな……」


来年の春にはそれぞれ進路を決めて違う道を歩んでいくのだろう。

その時、俺の隣には……


「将也が空を見て憂いておるぞ~」

「何カッコつけてんだー、写真撮ってネットに晒すぞー!」


人が感傷に浸っているというのに……お前ら二人はホント最高の友達だよチクショウ!






センチメンタルな気分をぶち壊され、一方で春日と火祭の言い合いは白熱していった。まぁ俺の腕をもぎ取ろうとしなかっただけ今回は大人しかったと言えるか。

……俺マジで腕もがれるかもね。今のうちに機械鎧整備士を探しておくか。


「まー君、私達先に戻ってるね」

「どうぞごゆっくりセンチメンタルな時間を~」

「野菜パワ~」

「水川のテメー覚えとけよ。そして米太郎、お前のは意味分からん!」


地面に敷いていたブルーシートを畳む俺を置いてみんなは屋上から出て行った。そうかそうか君らは待ってくれないんだね。将也きゅん悲しい。

火祭は残ろうとしていたが次は移動教室だから早めに戻らないといけないらしい。唯一の良心が……。


「はぁ、別にいいけどさ」


ブルーシートは俺の私物だし、せっかくの機会だ。また一人たそがれることにするか。

誰もいないこの空間で、思い返す様々な出来事。


「兎月」

「いたのかよ!?」


隣に立つ春日。だからあなたはどうして気配もなく接近出来るんですかっ。

一人静かに語り出すところだったよ。そんな姿を見られたら黒歴史認定待ったなしなんですけど。


「いたら駄目?」

「駄目ではないけど。つーか次は移動教室だろ。急がなくていいの?」

「大丈夫」


何その自信ある返事は。絶対大丈夫じゃないよね、あと五分程で予鈴鳴るからね。

ちなみに俺は遅刻しても気にしないことにした。一度退学した人間だぜ? 今さら遅刻なぞ怖くなーい。良い子のみんなは反面教師にしてねっ。


「……」

「……」


屋上に二人。どちらも喋らず沈黙が続く。

な、何か話題……と去年の春頃は焦っていたよなー。今じゃ沈黙なんて気にもかけない。風が冷たいねぇ。


「兎月、寒い」

「そりゃ冬だからな」

「……あっためて」


そう言って手を差し出す春日。

鈍感と馬鹿にされてきた俺だが少しはマシになったんだ。差し出された手の意味くらい分かる。


「おう」


春日の手を取り、優しく握りしめる。互いの指と指をからめた恋人繋ぎ。

ふふっ、まぁ俺達付き合っているからな。これくらい余裕、って?


「ん」

「ぽ、ポケット、だと……!?」


繋いだ手を、春日は俺のズボンのポケットに突っ込んできた。

兎月将也、混乱状態に入る。わけもわからずじぶんをこうげきした状態!

繋がれた手と手はポケットの中いっぱいギチギチに収まって二人の熱がより一層増していき……あ、熱い。そして俺の頬はもっと熱くなる!

ポケットの中で恋人繋ぎ、恐るべし威力。


「あったかい」

「そ、そうだな。あたたたたかたかいな」


噛みすぎだろ俺ェ……! そうだな、で終わって良かっただろ。なんで暖かいを言おうとしたんだ。今の状態じゃ絶対言えないだろうがっ。

噛んだことを誤魔化すように俺は一つ咳払い。春日は何も言わない。

……暖かいポケットの中、滲む汗は俺なのか春日なのか。


「この一年色々あったよな」

「……兎月?」


青い空に薄い雲。下を見れば広い広いグラウンド場。

さっきまであんなに寒かったのに、今は手も心も全て熱くなって全身とろけてしまいそうだ。

でも頭だけは、鮮明にこれまでの出来事を思い返していた。


「春日が誘拐されたり、挨拶運動や清掃活動、一緒に勉強した中間考査前」


文化祭は一緒に回って途中からはお昼寝した。

カラオケ行ったら菜々子さんに茶化されて春日が激怒。

金田先輩との揉め事で離れ離れになったけど仲直りして。


「暑い中二人乗りで帰ったり、夏休みは別荘やお祭り。俺が退学して春日を泣かせて俺も辛くて……辛いことも楽しいこともいっぱいあって、あったからこそ、春日のこといっぱい知れた。知って、好きになった」


付き合ってからも幸せだったり喧嘩したりラジバンダリ。

別荘で二人きりのお泊まりは今思い返しても赤面しちゃう。

修学旅行で遭難した時はヒヤヒヤだったし春日と別れそうになって死ぬことも考えた。

他にもいっぱい、たくさん、


「春日との思い出はたくさんある。思い返すのが大変なくらい。春日……俺この一年、すげー楽しかった」

「……うん、私も。兎月と付き合う前から、付き合ってからも全部、幸せだった」


激しい風が吹きつける。学校中に予鈴が響き渡る。

その中で俺と春日は肩を並べて二人、互いの想いを握りしめ合う。


「本当、色々なことがあった。そんで、もうすぐ春日と出会って一年が経つ」


最悪な出会いからの、突然始まる下僕生活、気づけば一緒にいるのが当たり前で付き合ってからは距離なんてゼロ。俺の横には春日がいた。


「だからってわけじゃないけどさ、なんつーか、その……」

「……早く言いなさい」


久しぶりの春日らしいツンとした口調。思わず頬が緩む。

……よし、決めた。今、ここで、もう一度、俺は春日と向き合う。


「この屋上で春日は言ってくれたよね」


俺の告白を断っておきながら春日は結婚しなさいと言ってきた。あの時は心臓止まるかと思ったよ。今すぐ結婚は出来ないから結婚を前提に付き合ってくださいと、あの時俺は言った。

せっかくの屋上で二人きりなんだ。昨日の今日だしぃ……言う!


「今もう一度、この場で告白させてください」


改めて言おう。

これからも二人、明るい未来を歩んでいきたいから。


「恵、俺と結婚を前提にこれからも付き合ってください。同じ大学に進学して、そして一緒に住みましょう。ずっと、ずっとそばにいてください」


繋いだ手を離して、俺は恵を抱きしめた。体いっぱいに恵の温もりを感じる。

そんな俺に負けないくらい、恵も俺を抱きしめた。


「うん、うんっ……こちらこそ、よろしくお願いします。将也、将也ぁ……!」


胸元から聞こえる恵の大きな声。胸を叩いて心臓に染み渡る、涙と想い。

溢れる涙を止められない恵は力いっぱい俺を抱きしめる。


「恵を幸せにしてみせる」

「もう幸せだからいい。将也、大好き……!」

「あぁ、俺も恵が大好きだ」


冬が終わる間近、もうすぐ春がやって来る。


次回で最終話です。今までありがとうございました。

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