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続89 春日進一はついに認める

久しぶりに春日のビンタを食らった。やっぱこれだね~。

……あぁ、前々から思っていたが俺もマゾになってしまったのか。ようこそMの世界へ。新たな扉が開いた気がする。誰かキーブレード持ってきて、変態の扉閉じるから。


「あら兎月君もう帰るの?」

「はい。お騒がせしました」


玄関で靴を履いていると春日ママがやって来た。

今日は放課後からノンストップで色々なことがあり過ぎた。もう夜の七時を過ぎているじゃないか。早く帰らないと俺の晩飯が片付けられてしまう。うちの母親そーゆーところある。


「せっかくだから晩ご飯食べていかない?」

「お気持ちは嬉しいですが今日は遠慮しておきます」


えー?と残念がる春日母には悪いが今日は無理でしょ。だって春日父がいるし、あんなことがあった直後だよ。愛する愛しの愛娘の彼氏と認めてしまった男と一緒に食事とか。俺が春日父の立場だったら絶対に許せない。

なので今日は大人しく帰りますよ。だから春日、俺の服を引っ張るのやめて。あなた部屋を出てからずっとそれやっているよね。


「兎月、帰るの?」

「帰るよ。また明日な」

「兎月、帰るの?」

「いやだから」

「兎月、帰るの?」


あっれ、おかしいな~。会話が無限ループしているぞ。RPGゲームでよくある、選択肢で『はい』を選ばない限りずっと喋りかけてくる村長かな?

勘弁してください。一応認めてもらえたとはいえ、あなたの父親はまだ怖いんですから。


「なんだ兎月、帰るのか」

「あぁはい帰りま……ぎぇ!?」


喉の奥から声にならない悲鳴がこんにちは。今の時間ならこんばんはかな?

そんなことはどうでもいい。どうしよう、春日父もやって来た。玄関で春日家の三人に囲まれちゃったよ!

汗が止まらないのは当然のこと。自分の声が掠れていくのが分かる。


「は、はいお邪魔しましたぁ……」

「待て。貴様には話がある」


ギロリ! そんな音が聞こえる程に春日父の鋭い眼光が俺を捉えて離さない。

あかん、これヤバイやつだ。しかし俺に拒否権はない。素直に了承する他ナッシング。


「ついて来い」

「うす……」


履きかけた靴を揃えて吐きかけたゲロを飲み込む。

ふー、英検の二次試験を受ける前の心境に似ているな。パードゥン?を使えるのは一回までだ。しっかりイラストを覚えて聞かれる質問を予測して……いやこれ英検の対策方法。相手は試験官じゃないから。春日父だからっ。


「パパ、さっき言ったこと忘れてないよね」


ずっと俺の服を掴んでいた春日が父親に向かって冷たく言い放つ。

言葉の冷たさは脅迫に近いものを感じる。それを感じてか、春日パパの顔は狼狽で一気に歪む。


「わ、分かっているよ。お願いだからパパのこと嫌いにならないでぇ」


娘に必死にしがみつく姿を見て俺の気持ちは少し落ち着く。少しだけね。


「い、いいから行くぞ兎月!」


涙を浮かべながら歩きだす父親の後について行く。母親はニコニコ笑顔で「兎月君の分も用意しておくねー」と言ってキッチンへ向かい、娘は父親を睨み続ける。何この状況?

春日父について行き、長い廊下を通った先にあったのは応接間。さっき土下座したぶりだ。


「入れ」


応接間に入り、春日父はソファーに深々と座る。足を組んで俺を見下ろす姿はさすが社長とだけあって威風堂々。こりゃ心臓に悪い。

俺は腰を低くしながら向かいのソファーに腰かける。豪華な応接間に俺と春日父で二人きり。


うへぇ、確かに最初は覚悟してここに来たけど、時間が経って緊張解けちゃったよ。一度解けた緊張が再び始動して心臓を虐める。この人と対面するだけでライフポイントが減っていく。辛い、米太郎助けて。


「まぁ気楽にしたまえ」


無理だろ馬鹿! この状況で気楽になれたらすげー度胸の持ち主だよ。俺はルフィや悟空みたいな強心臓は持っていないんだよ。普通の高校生だぞオラァ!

そんな俺の心境を知るわけもなく、春日父は不機嫌に鼻を鳴らす。


「貴様、前川から『日輪の守り手』の名を受け継いだそうだな」

「い、一応。はい」

「ふん。三代目か何だか知らんが、前川が認めても私は認めんぞ」

「俺は二代目です。三代目はジェイソウルブラザーズですね」

「黙れ!」


つい言葉を返してしまった。俺の反論が気に食わないのか春日父は目を大きく見開いて一喝する。はい怖いー、ライフポイント半分減ったー。

い、いや落ち着け俺。調子を崩されただけだろ。迷うな。決意は固まっているはずだ。


「……先程、恵と話した」


親父さんは組んだ足の上に手を乗せてゆっくりと天井を仰ぐ。その姿はどこか哀愁を感じる。


「パパなんて嫌い、と言われた時は本気で死のうと思った」


娘に嫌われて命を絶つ。さすが親バカ。あなたが死んだら会社はどうなるんですか。うちの父親が困るんですけど。

ツッコミを入れたくなったがまた叫ばれても困るので俺は大人しく黙って春日父の話に耳を傾ける。


「だがしかし一方で恵の成長が喜ばしい。あんな風に言える子になったとは……若い頃のママを思い出すよ」

「はぁ、なるほど」

「おい兎月」

「相槌の仕方イマイチですいませんでした!?」


懐かしむ声から一変して俺の名を呼ぶ時は低く唸る。やめてくださいもう俺のライフポイントはゼロよ状態です。

まっすぐ睨んでくる春日父。鋭く突き刺す視線に思わず目を逸らしたくなる。……でも俺は逃げず、まっすぐ見つめ返す。この人に立ち向かうように、自分自身から逃げないように。


「貴様の気持ちは聞いた。恵と、これからも付き合っていきたいんだな」

「……はい。恵さんと一緒にいたいです」

「高校生の身分で結婚したいなどと妄言を吐く程にか」


……確かに春日父の言う通りだよ。

俺や春日はまだ高校生だ。親に育ててもらい、自分達だけでは生きていけないくせして発言だけは一丁前。バカップルみたく結婚すると言ってさ、何一つ責任持ったことは言えていない。


だけど、それでも。一緒にいたい。春日とこれからもずっと一緒にいたいんです。

だから逃げない。怖い春日父だろうが立ち向かってやる。はっきりと言ってやる!


「責任も何も取れない俺ですけど、それでも春日と一緒にいたいです」


ソファーから腰を浮かせ、机に両手をついて頭を下げる。

いつも春日に命令されて従順だった俺。春日父には苦手意識があって会う度に頭を下げてきた。けどこれは違う。ヘタレな行動ではない。俺が、俺と春日の為に下げる頭。もう逃げない。だって俺はへたれ犬じゃないのだから。


「娘さんとの交際を認めてください。お願いします」


言いたいことを言えた。言葉を吐き終えて後から静かに息が抜けていく。

言った……め、面と向かって言ってしまったぞ。う、うおおおぉ、やってしまったのでは? 殺されるのでは!? ヤバイ、即座に土下座に移行するか。床に頭を叩きつけなくては!


「ふん、偉そうに言いやがって貴様」


やっぱこの人の怖えぇぇ!


「……恵を泣かせたら承知しないぞ」

「え……?」


恐る恐る顔を上げてみる。目の前には俺と同じように机に手をついて頭を下げる春日父の姿。

どっしりと座って足を組んだ姿じゃない。あの春日父が俺に頭を下げている。


「一度しか言わんからな。……正直、恵のことを任せるならお前しかいないと思っている」


今言った言葉は本当なのか……!?

あのふてぶてしい春日父とは思えない発言だった。


「金田の小僧や他の御曹司に任せるぐらいならお前の方がマシだ。何より、恵が望んでいるからな。あの子が選んだ男だ、ならば私が反対するわけにはいかない」


春日父はゆっくりと顔を上げると俺を見つめる。さっきまでの威圧感ある睨み方ではなく、真摯な父親の目をしていた。


「これまで貴様には助けられてきた。改めて礼を言う。ありがとう……これからもよろしく頼む」

「……は、はい。ありがとうございます!」


俺は再び頭を下げる。勢い余って机に思いきりぶつけてしまった。痛い。

お、おかしいや……涙が出てきた。頭を打った痛みのせいなのかなこれ。は、ははっ……ヤベ、涙が止まらない。

やっと、この人に認めてもらえた。これで、俺と春日は一緒にいれる……。


「だけどなぁ! 恵の誕生日とクリスマスは私が一緒に過ごすんだからな!」

「……え?」

「それに交際を認めただけで結婚は許していない。恵は嫁には出さんぞぉ!」


先程までの真剣な眼差しは何処へ。いつもの親バカぶりを発揮していやがる。

こ、この野郎……やっぱこいつ超絶・大・極・親バカだ! 俺の涙を返しやがれ。


「お泊りは駄目だ。恵と会う時は必ず報告。き、キスは禁止だからな!」

「パパうるさい。嫌い」

「ぐはぁ!?」


扉が開いて春日が入ってきた。途端に嫌いと言って春日父を睨む。父親譲りの鋭い目、加えて嫌いと言われて春日父は吐血してぶっ倒れた。

か、春日さん? ずっとそこにいたの?


「め、恵ぃ……」

「兎月、ご飯できたから一緒に食べよ」

「あ、あぁ分かった」

「パパは来ないで」


トドメの一撃を食らって親父さんは気絶した。

お、俺がビビリながらも一大決心してぶつかってやっと認めてもらえたのに、春日はたった二回の言葉で倒しやがった。あれ、やっぱ俺いらないよね?


「兎月」

「な、何?」

「……カッコ良かったよ」


腕に抱きつく春日は普段見せないとろけた笑顔をしていた。ニコッと微笑んで俺の腕にしがみつく。

……ま、これで一件落着ってことだし気にしなくていいか。

二人くっついて、春日母の待つ食堂へと歩いていく。


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