続88 続・兎月と春日
春日の部屋に入る。大きなベッドや可愛らしいぬいぐるみ、そして良い匂いがする。
うほぉ春日の匂いがいっぱいだよグヘヘ。はい俺キモイー。
「座って」
「お、おう」
春日はベッドに腰掛けて俺はカーペットの上に胡座をかいて座る。
ふー、落ち着いてきたことだし色々と聞きたいことを尋ねてみるか。
「えっと、親父さんに何か言ったの?」
「うん。兎月のこと認めないと私は家出して二度とパパとは会わない、大嫌いって言った」
春日は無表情で淡々と説明してくれた。俺、思わず背筋をピンと伸ばす。
何があったか理解した。俺が春日父に想いを言おうとしたのと同じで、春日も自分の気持ちを告げたみたい。
「だからあんなことになっていたのか」
親バカの春日父にとって娘から嫌われることは死に値する。この前は真面目な険しい表情をして認めないと断言していたのに、娘の脅しであっさり陥落したと。確かに大嫌いと言われたら死にたくなるよね。春日父にちょっとだけ同情。
そして俺も泣きそうになる。あの無口な春日がはっきりと自分の気持ちを告げたことに。
「……いつも兎月に助けられてきた。だから私も、私と兎月の為に行動しなくちゃと思ったの」
春日は目を伏せてごにょごにょと話す。その姿が愛おしく見えて、本当に嬉しかった。
そっか……春日も考えて決意してくれたんだね。あぁ、涙が溢れてきた。視界が潤んで前がよく見えないよ。
「パパに認めさせたよ。私、頑張った」
「ぐすっ、そうだな春日のおかげだ。本当、ありがとな」
「ん。当然のこと」
つまり俺がみんなから激励を受けて決意し、ここへ突っ込んで春日父に叫んだ時には既に問題は解決していたってことか。
……う、うん、肩透かし食らった感はあるけどそんなのどうでもいい。春日と一緒にいられる、それで十分だ。
「……兎月、怪我してる」
涙を拭っているといつの間にか春日が俺の隣に移動していた。
そっと俺の頬に添えてきた手は温かく、俺は顔が赤くなるのを感じた。
「どうしたの?」
「火祭に激励もらってきた。おかげでここに来ることが出来たんだよ」
「……」
ん、どうかした?
「……またキスしたの?」
「い、いやいやしてないからっ」
確かにあの時は火祭に唇奪われたけども! 今回は違うって、ボコボコにされただけだから。それはそれで酷いなおい。
でも火祭がいたから今の俺がいるんだよな。ははっ、火祭には感謝しきれないや……火祭、ありがとう。
「む、桜のこと考えているでしょ」
「なんで分かるんだよごめんなさい殴らないでぇ」
もしかしてまたニヤニヤしていた? なんで俺は考え事していたらニヤニヤしちゃうんだろうね。街中でしたら変態扱いされるよ、ってそうじゃなくて春日が不機嫌になっちゃうローキックがあぁ!
……ん、ん? 何も来ない。閉じた目を開ければ春日がしょんぼりした面持ちで俺を見つめていた。
「……もう兎月に暴力は振るわないもん。兎月に嫌われたくない」
頬に添えていた手は離れ、俺の胸元をぎゅっと掴む。弱々しく、すがるようで優しく掴まれた。
春日変わったな……修学旅行以来殴ることはなくなった。嬉しい一方で寂しいかも。べ、別にマゾに目覚めたとかそんなわけじゃないんだからねっ。
「でも兎月が他の女の子見てデレデレしたら殴る蹴る抓る抉る」
「とんでもない勢いのラッシュだなおい!」
理不尽な暴力をやめただけで俺の態度次第では殴る蹴る抓る抉るってことね。
うん決めた、バインバインな女性いても絶対ニヤニヤしない。変な行動と言動も控えよう。
「怪我、痛そう」
「ぶっちゃけ痛くて気絶しそうなんだぜっ。春日甘えさせてっ」
はーい俺の馬鹿ー。変なことしたら暴力で返されるに決まってるだろ。今さっき決めたこと即破ってどうする!
「あ、ごめ、嘘だからっ」
「……いいよ」
ふえ?
「いつも私が甘えてばかりだからたまには兎月も、わ、私に甘えて」
……マジか。これは本当に現実か。
親友米太郎へ、うちの彼女がデレデレになりました。お前に対しては未だにツンツンで嫌っているけど俺にはデレデレです。
「じ、じゃあ……」
俺は生唾を飲んで一点を凝視する。緊張と高揚で痛みなんて吹き飛んだ手をそっと春日の……頭の上に。
「んっ……」
おぉ、やっぱ春日の髪はサラサラだな。このままずっと撫でていたい。撫で心地最高……幸せだ。
「んん、これだといつもと同じ。私が甘えている時と一緒だもん」
「俺はこれでいいんだよ。こうして春日の頭を撫でたい」
さらにナデナデを続けると春日は小さく息を漏らしつつ目を細める。春日猫みたいだな。きゃわいい。
正直、甘えていいと言われて色々と脳裏をよぎったが今は控えておこうと自粛した。今は甘い時間、エロイこと駄目。また今度ね。……こ、今度、明日とか!
「何にせよ親父さんに許可もらえてホッとしたよ」
春日父にビクビクする必要がなくなったわけだし、これからは堂々と遊びに行ける。たぶんすげー形相で睨まれるんだろうけど。
「パパに何か言われたら教えて。私、怒るから」
「はは、あまりに酷かったら報告するよ」
ナデナデされてとろけていた春日が「任せてっ」と呟く。とりあえず春日父には認めてもらえたのかな。
……違うな、春日が黙らせたに過ぎない。いつかは俺が真正面からぶつかってあの親バカにちゃんと認めさせてやる。いつか、春日と結婚する時、うおっ?
「き、急に抱きつかないでよ」
「……兎月に甘えたくなった」
胡座をかいた俺の上に座って正面から抱きつく春日。
目の前にはサラサラの黒髪、良い匂いがより一層漂う。力いっぱい抱きしめられているはずなのに怪我は全然痛くない。
あ、あと胸元に控えめながらも柔らかい感触が……!
「ん、幸せ……」
「お、俺も」
「……少し大きくなったでしょ?」
そう言うと顔を赤くしながらさらに密着してきた。
な、なんか胸元を胸でぐりぐりされているんですが……っ。ふああぁ、ふにょふにょの感触がするぅ!
「あ、あのね。兎月なら、さ、触っても……」
「んー、そんなに変わったか? 相変わらず小さいと思うんだが」
「……」
え、今触ってもいいって……あ、あれ? なんか、黒いオーラが見えるんですけど……?
ゴゴゴ!って凄まじい音が聞こえてきたんだけど!?
「待って! い、今のは違うから。口が滑って、あっ……」
「……馬鹿兎月」
抱きつかれた状態のまま、ゼロ距離で破壊力抜群のグーパンチが俺の頬を抉った。
あぁやっぱ春日の暴力最高。ってやっぱ俺マゾじゃないか!




