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続87 春日家へ突入

俺がここまで来れたのは皆のおかげだ。

それは間違いないし、俺自身感謝している。何もかも中途半端でダメダメだった俺が今こうして立っているのは皆がいたから。


「行くぜ……俺は行く!」

「じゃあ私達はここまでだね」

「はーい」


左右から聞こえる水川姉妹の声。途端に体が浮き、足が挫けて豪邸の門に頭を打ちつける。そのまま門へ摩り下ろすようにズリズリと頭部が落ちていき最後はコンクリートへ。


「あ、頭が……!」


おもいっきり頭が摩り下ろされたんだけど!? 脳髄出ちゃいそうだったよグロテスクな展開だよそれ。頭皮が剥がれる勢いだったし最後は結局コンクリへダイブ。

な、何この仕打ち。ちょっとカッコイイ台詞言ったらこのザマだよ。俺はお笑い芸人か。


「いきなり離すことはないだろ……ぐああぁ」

「行くんでしょ。いい加減自分の足で歩きなさい」


行くというか天国に逝きそうなんですがこれ如何に。

美保梨ちゃんは美保梨ちゃんで俺の背中をツンツンと突いて遊んでいる。大丈夫、ちゃんと生きているから。


学校から春日家の前まで肩を貸してくれただけでも十分だろ。俺はいつまで甘えているつもりだ。

水川の言う通り、自分の足で歩け。俺が会いたい人がいるのだからーっ。

悲鳴を上げる頭皮を無視して、つーか全身痛いんだから今更どうでもいいだろ。足に力を込めーの、膝に力を込めーの、レッツ起立。立ち上がって豪邸と向き合う。


「頑張ってください兎月さんっ」

「一つ貸しよ。今度回転寿司奢ってね」


浄げなる瞳で声援を送ってくれる妹と奢りを強要する姉。その辺はしっかりしているんだね水川。というかお前には散々奢ってきただろ。クリスマスケーキあげたのを忘れたかっ。

まぁ、奢るけどさ。奢るんかーい!とセルフでツッコミを入れたくなる。

……当たり前だろ。ここまでやってくれたんだ。何度俺に喝を入れてくれたことか。返しきれない恩を受けてきた。

息を整え、門に手をかける。その前に、俺は振り返って水川姉妹の方を向く。


「ありがとなマミー、そしてミホリー。今度こそ、行ってくる」

「行ってこい兎月。あとマミー言うな」

「ミホリーは言っていいですよ。これからもそう呼んでくださいっ」


それだけ言って二人は帰っていく。振り返ることなく、何も言うことはないといった感じで。うん……本当に、ありがとう。


さて、ここまで来た。ここまで来れたと言った方が正しいか。

火祭、米太郎、水川。お前らのおかげだ。感謝しきれない、何とお礼を言えばいいか。そんな思いを何度もしてきた。だからもうしない。俺がすべきことは他にあるから。

あいつらの元へ帰ろう。春日を連れて。それが俺に出来ること。そして俺が何よりもやりたいことだ。春日とまた一緒にいたい。


「……今行くよ。春日」


気は引き締まった。覚悟もできている。あとはこの門を越えて突き進むだけだ。

重い門を開け、目の前には春日家の屋敷。

気持ちが急く。鼓動が早くなる。ここに、最愛の人がいると。頭の中に春日の姿が浮かび、その瞬間に足が躍動した。

痛みは吹っ飛んで……いやそんなことはなかった。もれなく絶賛痛過ぎる。けど体は動く。全力で走れる! さぁ行こう。もうすぐだ!


「うおおおおぉぉやっぱすげぇ痛いいぃぃぃ!?」


奇声を上げつつ俺は突撃していった。






この大豪邸に来るものも慣れたものだ。最初は戦々恐々としていたのに、今ではどこにどの部屋があるから把握している。あれもう俺って春日家の一員じゃね? そんなことないよね。


「今更だけど勝手に入って良かったのかな……?」


門を抜けて巨大な庭を通り過ぎて今は正面の入口に立っている。センサーや監視カメラが設置されているだろうし、俺が来たことは既に向こうには知られているのかもしれない。


「考えても仕方ないか。ここまで来たら堂々と不法侵入してやらぁ」


扉を開けて中へと入る。予想外なことに鍵は閉まっていなかった。おいおい大丈夫かよ春日家。泥棒に入られちゃうぞ~。まぁおかげで俺はすんなり侵入出来たわけですが。

シンと静まり返る玄関でそっと静かに靴を置いて客人用のスリッパを履く。さあバレないよう進もうじゃないか。気分はルパン。


「あら兎月君。来てたの」

「ぎゃああああああ!?」


忍び足で歩いていると声をかけられた。そりゃビックリして悲鳴が出てしまう。え、嘘、もう気づかれたの? 何やってるの俺、見つかるの早過ぎ!

恐る恐る振り返ればそこにいたのは春日母。相変わらず清楚でお綺麗ですね。


「どうしたのそんな大声上げちゃって」


あらあらウフフ、と上品に手を口元に添えて微笑む姿は見ていて気持ちがとても安らぐ。いや安らいでどうする。不法侵入がバレたんだぞ。てゆーかやっぱ初めからバレていたんじゃない!?


「もしかして恵に会いに来たの? 恵だったら応接間にいると思うわ。パパと一緒に」


春日母はニコッと微笑んだままそう言うと「じゃあゆっくりしていってね」と付け加えて去って行った。

残された俺、思わず「えぇ……」と呟いてしまう。何あの人、普段のノリで出迎えてくれた。そりゃ春日母は俺と春日のこと知っていて且つそれを反対していないから味方だとは思っていたけど、それでも俺がアポなしで勝手に入ってきたら普通は怒るんじゃないのか。何このアットホームな感じ。すごい素敵っ。


「えっと、応接間にいるんだよな」


応接間といえば俺が以前金田先輩と春日の婚約事件の時に突撃した部屋じゃないか。なぜ応接室に春日と親父さんはいるのだろうか……。

まぁ考えても始まらない。春日父も一緒にいるなら好都合だ。

俺は応接間の扉の前まで来て、そこで一つ大きな深呼吸をする。


ふー……落ち着け、大丈夫だ。もう覚悟も気持ちの整理も出来ている。

俺はただ自分の気持ちを告げればいいんだ。春日父に認めてもらえなくても、それでも一心不乱に自分の想いを叫べばいい。それが今の俺に出来る唯一のことでしなくちゃいけないことだ。


「行くぜ……!」


意を決し、扉にかけようとしたその時。

こちらが開ける前にドアが開いた。思わぬタイミングに心臓が大きく飛び跳ねる。

ぐおっ……さらに心臓が暴れだした。だって目の前に、春日の父親が立っているから。


「……兎月、貴様」

「あ、あ……」


ぐあああああああ春日父だあああぁ!?

いや会いに来たんだけどねっ!? でも予想外なタイミングで急にエンカウントしたら混乱するに決まっているだろっ。

いつも通りの厳つい表情、俺をギロリと見下ろす獣の如き双眸。たちまち自分の体は萎縮していくのを感じる。

だ、駄目だ。怖気づくな将也。それだと前回と同じだろうが。

俺は何をしにここへ来た。みんなから後押しをもらって、再び火祭を傷つけてまで、何の為に突き進んできたんだ。


「お、俺は……」


言え、言うんだ。たとえ認めてもらえなくても、たとえ相手が拳銃を構えようが、俺は逃げない。

この人からも、春日からも、そして自分自身からも。もう絶対に逃げない!


「俺は恵が大好きです。これからも一緒にいたいんです! 俺達のこと認めてくださいお願いします!」


言えた、言ってやったぞ! ただし春日父の顔が怖過ぎて自然と土下座してしまったが。

床に頭を叩きつけて出せる限りの声で叫び散らした。上手く言えなかったかもしれない、声が震えていたかもしれない。だけどこの想い、春日父にぶつけてやったぞ。


よくやったヘタレ将也ぁ。よし後は……殺されるのを待とう。うん。

さあさあどうぞこの頭に鉛玉でも刀でもぶち込んでみろやオラァ! こ、怖くなんかないぞっ。いやものすげー怖い!


「……クソ兎月が」


頭上から聞こえる唸り声。低く重たく、俺の体が圧迫されていく。

ぐうぅ、こ、殺される……。




「ふん、勝手にしろ」

「……へ?」


次にやって来た言葉に思わず目が開く。パッと顔を上げればそこには苦い顔をしたまま俺を睨む春日父の姿。

顔は相変わらず敵意剥き出しだが、今の言葉って……まさか、


「言っておくが認めたわけじゃないぞ。気に食わないしお前なんか大嫌い」

「パパ。黙って」

「っ、は、はい……」


艶やかな黒髪が視界に映る。俺の愛するハニーこと春日恵が姿を現した。

途端に春日父の顔は固まり、ダラダラと冷や汗を流し始めた。えっと、これは一体……?


「パパ、さっき言ったよね。兎月と私のこと認めてくれないと私この家から出て行くから」


春日父にも負けないくらい低くて重くて冷たい声の春日。その目は轟々と怒りを燃え盛らせていた。春日が、とてつもなく怒っている。

春日の親父さん、歯をガタガタ言わせながら娘に対して土下座をする。それはもう目にも止まらぬ速さで。


「ご、ごめんってば恵ぃ。お願いだからそんなこと言わないでぇ!」


頭を床に激しく叩きつけて春日父は泣き喚く。

今この状況、応接間の扉のところで俺と春日父が土下座、春日は仁王立ち。え、何これ……ある意味シュールな光景なんですが。


「これはどういうことですか」


互いに土下座している状態だから春日父と目線は同じ。声のボリュームを絞って小声で尋ねてみると春日父は弱々しいながらも鋭い目で俺を睨む。


「う、うるさい。お前との関係を認めないと家出すると恵が言い出したんだ。おまけにパパなんか大嫌い!と言われて……お、おおぅ」


鋭い眼光から涙が溢れて春日父はその場に崩れ落ちた。一応は大企業の社長で偉い人間が土下座したまま号泣している。

これ程に情けない光景を俺は見たことがない……! な、泣かないでくださいよ。なんで俺は慰めようとしているのやら。


「兎月、行こう」

「え、でも親父さんは?」

「いいの。パパなんて知らない」

「ぐはぁ!?」


涙の次は吐血。春日の父親は血を吐いてその場で気絶してしまった。

困惑する暇もなく、俺は春日に手を引かれて歩いて行く。チラッと前を見れば春日の凛々しく美しい横顔。前をまっすぐ見て決意した表情が伺えた。


えーっと、その、これはもしかして……俺が来る前に全て解決した感じ?

状況が理解出来ないまま、俺は柔らかく温かい手を握り締めて春日の部屋へと入っていった。


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