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続78 再会と和解、そして

冬は寒い、夜は一層冷える。北の国なら尚更だ。

ホテルを抜け出して現在、俺はゲレンデ近くの駐車場のところに立っている。


「おお、まだ滑っているのか」


夜更けた中、ライトに照らされる雪山とリフト。滑っている人が駐車場の位置からでも確認出来る。きっとインストラクターの人達がいるのだろう。

ナイタースキーってやつだ。そういえば明日は夜も滑るんだったかな? 夜に遭難したら絶対助からないよね。遭難したのが昼で良かった。いや良くないけど。


「来るといいなー、春日」


ホテルから抜け出し、誰もいない駐車場でただひたすら待つ。

米太郎の陽動作戦のおかげで無事ここまで来れた。あとは会って、話をするだけ。……ぶえっくしょい。


「はいそこ!」

「っ?」


微かに聞こえた足音に反応して首を半回転させれば、後ろには春日がいた。

ふっ、今まで何度バックアタックを食らったと思いやがる。今回はさすがに気づくぜ。だって普段以上に精神研ぎ澄ませていたからな。

体も方向を変えて春日と向き合う。


ジャージ姿の春日、こちらを見つめるだけで何も言わない。元からペラペラ喋るタイプじゃないから別段大したことではないけどさ。

こうして会えたってことは春日も上手く抜け出せたみたいだ。


「……佐々木が暴れていて、パニックだった」


淡々と報告する春日。どうやら米太郎の回春マッサージのノリは女子生徒に多大なる悪影響を及ぼしたらしい。

ホテル抜け出す時も上の階から阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえていたな。これまでも色々問題を起こして、今回の修学旅行でもやらかした米太郎。

だが今しがたの行いはそれらを越える大惨事となった。是非後輩達に語り継ぎたい。

ま、それはいいとして……


「来てくれてありがとうね。実は春日に言いたいことがあるんだ」


米太郎のキモ凄さや俺の遭難事件、色々と話したいことはあるがまずは最初に言わなくちゃいけないことがある。

決してふざけてはいけない、真剣に語るんだ。


「……」


春日と向き合い、背筋を伸ばして顔を引き締める。

言わなくちゃ、いけないことがあるんだ……。気持ちを静め、前だけをしっかりと見つめ、逃げず臆せず春日と向き合う。

静かな駐車場、凍える風に震えながら言葉を紡いでいく。


「今日の昼に言ったことだけど、俺は春日と」

「嫌」

「え?」


小さく短く、けれどはっきりとした春日の声に言葉を遮られる。

目の前に立つ春日は……泣いていた。


…………………えぃ? なんで?


「嫌、絶対に嫌っ。兎月と別れたくない」


呟くのと同時に涙も零れ落ちていく。

え、いや、ちょい? どうしたのマジで?

動揺する俺をよそに春日はこちらに詰めよって、


「無視してごめんなさい。わ、私いつも兎月に理不尽なことばかりして、で、でも兎月と別れたくないっ」


俺の服の端を掴んで懇願するように必死になって喋る。

顔はぐしゃぐしゃ、冷たい風に吹きつけられて涙が頬に張りついてしまっている。その上からさらに涙が零れ落ちる。


「ぅう、わ、私、悪い所治すからっ。無視もしないし嫉妬もしないから、だから別れたくないよ兎月ぃ……」

「え、何言っ」

「えぐっ、とぢゅきぃ」


涙と嗚咽で俺の名前をはっきりと言えないでいる春日。

白い息に混じって飛び込んでくる必死な言葉に俺はただ戸惑うことしか出来ない。


なぜ春日が泣いているのか、なぜこうも必死になって詰め寄るのか、なんか意味不明だった。

ラーメンのスープ飲んだ後に水飲むとすげー美味しい、そして水の後にスープ飲むとこれまた美味い、この繰り返しでスープ飲み干してしまう時ぐらい意味不明だ。なんだろうねあのコンボ、永遠に続けられる気がするよ。

……こんな状況でも話を脱線させる癖は抜けないのか俺よ。今はラーメン談義よりも目の前で泣く彼女の方が先決だろうが。


にしても、この子は一体どうしてしまったのだろうか?

昼に会った時はぶすっとして、まぁいつもぶすっとしているんだけど。

相変わらずの理不尽暴力や無視を振り回していたのに、今はそんな姿は微塵も感じられなく、泣きじゃくって別れたくないと声を漏らしている。


「あの春日さん落ち着いて」

「兎月以外の人となんて絶対嫌っ、兎月じゃないと駄目な、の。っ、兎月じゃないと死んじゃう!」


し、死んじゃうって。かなりオーバーな表現だなおい。

落ち着かせようとするが春日は一切聞いてくれず乱れまくり。

こんな春日を今までに見たことがあろうか……キャラ変わり過ぎだよ。


それだけ必死になっているってことか。

なんとなく春日の意図が見えてきたような気がする。


「春日!」

「っ、っん……」


少し大きな声を出して黙らせることに成功。

そのまま春日の肩に手を置いて、押す。詰め寄ってきていた春日と距離を開けるようにし、手を離して再び見つめ直す。


「聞いてくれ春日、俺の話を」

「……嫌、嫌だよぉ……ぐすっ」


春日は号泣だった。そりゃもうテレビのワイプで見るベッ○ーみたいだ。

けれど今は懸命に声を漏らさないよう押さえてじっとこちらを見つめている。その間も涙はボロボロ、とめどなく溢れていた。


……なんつーか、その。ここまで来ると申し訳ない。

早く俺の気持ちを告げて楽にしてあげないと。


「あのな、俺は春日と別れるつもりは一切ないから」

「ぇ……?」

「昼はごめん! 俺、頭に血昇って思いもしないこと言ってしまった」


頭を下げ、すぐにパッと上げる。春日はキョトンとしていた。

え、何?みたいな驚きの表情をしており、けれど涙は止まらず未だに頬を流れている。


せっかくの修学旅行、せっかくのスキーだというのに春日は普段通りの無口で無愛想で理不尽暴力ウーマン。それにイラついてしまった俺は別れようとか口走ってしまったのだ。

どうやら春日はそれを信じてしまったらしく、今こうして必死に迫ってきているということになる。

何をしているんだろうねぇ俺。子供みたいな拗ね方をしてしまった自分が情けない。


「でも本当は違うんだ。春日と別れるつもりなんてないし、つーか俺だって別れたくない! でやっ!」


本当の思いを吐き出していく。ついでに謎の奇声も出す。

奇声を吐き終えてしばらくの間沈黙、二人とも何も言わず静寂と雪が辺りを覆う。


次第に泣き声が収まってきた春日。と思いきや、また再び泣きだした。えぇ!?


「よ、良かった」


泣きながらも笑顔で涙を拭う春日。もう顔がぐしょぐしょだ。

それでも可愛いんですけどね。何それ、ボロ泣きしても可愛いとか反則だよ。

俺や米太郎が号泣して笑ったら世界レベルで気持ち悪がられるだろうに。

っと!?


「もぉ、馬鹿ぁ……!」


気づけば春日が抱きついていた。

なんとか視界に捉えたのは、四肢全てを放り出して飛び込んでくる彼女の姿だった。

全身にのしかかる重み、しっかりと受け止め、抱きしめ返す。

いやホント俺のせいで辛い思いさせてしまったみたいでマジごめんなさい。


「わ、別れようとか、言わない、で!」

「本当に悪かった。ごめんね」

「っううん、えぐっ、嘘で良かったぁ……!」


またしても声を上げて泣く春日。

普段の無口無表情無愛想なお嬢様はどこへ行ったのやら。

ぎゅ~~!と非常にお強い力で抱きつかれる。ちょっと痛いけど我慢しておこう。こうしてちゃんと誤解を解けたことだし。


いやいや、俺だって相当不安だったからね。

勢いで言ったとはいえ、もし春日も別れようとか言い出したらどうしようかと。

自分のせいだから何一つ文句言えないけどあまりのショックに全裸で雪山に飛び込むところだった。

とんでもなく惨めな自殺の仕方だよそれ。父さんと母さん絶対悲しむよ。なんで全裸なの?って。


「もっと早く言えれば良かったけど俺遭難してさー」

「うん、知ってる。……兎月、無事で良かった」

「おかげさまです」


時間にして十分は経っただろうか、まだ抱きしめ合っている俺と春日。

もういい加減そろそろいいのではないだろうか……こんなにも長時間密着したのは初めて、いや別荘に泊まった時一緒に寝たのが最長記録か。

ともかく感動の和解は終わったことだしそろそろ離れても、って力強っ!

え、ゴリラ? 俺抱きしめているのゴリラ!? そう思ってしまうくらい春日の抱きしめる力は強かった。

離れようとしても無駄で、逃がすまいとさらに力を強める春日。


「あ、あの。もうそろそろ離れても」

「駄目。あと一時間」


割と長い時間設定! 高校生が寝起きで「あと五分~」と母親に頼むのとはレベルが違う。

え、えー。そりゃまぁ寒い夜空の下とはいえ抱きしめ合っているから別に寒くはないけど、あまり長時間ホテルから抜け出しているとさすがに教師にバレるというか何と言うか。


「そ、そんなに嫌だったの?」

「嫌。兎月以外と結婚なんて絶対ない。電話だって百回以上したもん」


したもん、って。したもん、って!

春日がそんな風に喋ることがあっただろうか。性格変わり過ぎじゃない?

それに電話百回って……ずっと圏外で見てなかったけど、恐らく今見ると履歴がとんでもないことになっていそうだな。

これってもしやヤンデレと言うのでは?

ヤンデレってあれでしょ、「あなたが他の女性を抱きしめないように、あなたの両腕私が管理しておくね♪」とか言って包丁を取り出すやつでしょ。怖過ぎるよ!


「兎月ぎゅー」

「今してるじゃん」

「……ちゅー」

「ま、また今度ね」

「今」


……あー、あー、米太郎さん。あなたのおかげで無事仲直り出来ました。仲直りと言っても俺が一方的に勘違いさせただけなんだけど。

で、でもね、これはちょっと仲直りし過ぎたというか、その、えっと。

春日が暴走しているような気がしますはい。

そう思いながらお嬢様の命令通りに動く俺なのでした。











「も、もういいでしょ」

「……」


あれから時間にして三十分は経過したに違いない。

ずっと同じ体勢でいた俺と春日。おかげで密着していた部分は熱い程に暖まった。もう常夏だ、胸囲の部位だけ常夏だよ。


「ほら離れて、ね?」

「……うん」


そして懇願すること数十回、ようやく春日は離れてくれた。けどすかさず手を握ってきて、これまたぎゅ~~と繋いで離さない。

手くらいならもういいや。付き合った頃は手を繋ぐだけでも緊張したのに……慣れって恐ろしいなぁ。


「そろそろ戻らないと先生にバレるよ。それに事の経緯は話し終えたし」


抱き合って口が塞がってない時に遭難した時の状況を説明しておいた。恥ずかしい部分は省略したかったけど、それじゃ意味がないと思って日下部とのやりとり全て話した。

むにゅむにゅしたことや奪われたことを素直に告げたけど春日は許してくれた。

その時はなぜか「ちゅー」としか言わなくなってしまったが。

と、とにかく無事に日下部との関係もはっきりとさせたことを伝えた。それで良いじゃないかえぇおい!?


「明日も早いし、戻ろう」

「……」


春日の手を引っ張ってホテルへと向かう。

うーん、抜け出したのはいいけどここからどうやって戻ればいいんだ?

いやそれよりも俺と春日が抜け出したことがまだバレていないという前提が成り立たないといけない。

怒られるのを覚悟で正々堂々と入っていくのもアリだな。我はここにいるぞ!みたいな。


「……決めた」


ん、春日?

隣に並んで歩いていた春日が急に止まったかと思えば何か呟いた。

横を見れば、決意したかのように口を閉じてこちらをじっと見つめていた。

え、何?


「修学旅行終わったら……」

「終わったら?」

「パパに言う」

「…………な、何を?」






「私達が結婚すること」


…………あー、あー、ああー、米太郎さん。あなたのおかげで無事仲直り出来ました。仲直りと言っても俺が一方的に勘違いさせただけなんだけど。

で、でもね、これはちょっと仲直りし過ぎたというか、その、えっと。


たぶん、俺、ヤバイことになりました。


読んでくださっている片、本当にありがとうございます。

今回で修学旅行編は終わりです。


次回から『へたれ犬じゃない』最終章、的なやつです!

残り話数わずかですが最後までクスッと笑ってもらえるよう頑張ります。

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