続77 キモカッコイイライス
無事生還、イエイ! 完ッ!
というわけにはいかなかったようで。
担任と学年主任に呼び出されて事情聴取やらお説教を受けた。
もっと学生として慎みある行動とか危険な真似をするなと叱られてしまい、もうハートはブルー濃厚だ。
いやいや俺だって遭難したくてしたわけじゃないんだけど。本当に事故なんだって。
異議を申し立てたが上手くいかず、長々と拘束されてしまった。
おかげで皆と一緒に夕食を取れず、なんか一人で寂しく食べることに。
「本当なら皆で楽しく飯食べたはずなのに……」
謎の個室で一人寂しくモソモソと夕食を終えて自分の部屋へと戻る。
同じ部屋の米太郎達はお風呂上がりなのか、首にタオルをかけて大富豪を興じていた。
座布団を三枚も使って鼻高々に天を仰ぐ、米太郎。どうやら奴が現在の大富豪らしい。
「おぉ将也、担任の説教は終わったのか。見てくれよ俺様大富豪っ」
さあ早く一番良いカードを献上しなさい、とやけに甲高い声で大貧民に命令している。
彼の気分は上々のようだ。楽しそうっすねー。
「兎月っちも入りなよ~」
「悪いけど今から風呂だわ。また後で」
着替えを袋に入れて部屋を後にする。
お叱り受けて飯食う時間が遅れて、てことで入浴時間も遅れた。今から五組六組の奴らの入浴時間で入らなければならない。担任にそう言われた。
もうこれ以上団体行動から外れた行為をすれば説教では済まないかもしれないからな、大人しく時間厳守で行動しよう。あぁ、なんかしんどい。
「……な~んか忘れているような」
お風呂を上がり、部屋で大富豪をしている。
いつの間にか都落ちしてずっと大貧民でひぃひぃ喘ぐライス君の横で8切りしながら何か腑に落ちないことがある。お願い5以上の二枚出しはやめて!と懇願する米太郎を無視して6を二枚出す。
なーんだろうなぁ、この何か忘れているような感覚。
「なぁ今日の夜トーークどうする?」
「最近ハマっているシチュエーション語り合おうぜ」
「俺は今マッサージ系にハマっている!」
「おおイイネ。はいでは上着脱いでください~、ってあの感じいいよな」
「これ皆さんやってますからね~、リンパの流れを良くしますよ~」
「え、いや……みたいに嫌がるけど従う感じ、マジそそるぅ」
カードを配りながら野郎共はゲスゲスと猥談をし始めた。
昨日は好きな子&可愛い子トークで盛り上がったのに今夜は年齢制限が発生しそうな話題になるみたいだ。俺どうしよっかなー、透明人間とか? ぐへへ。
うーん、エロ話に興じていいのだろうか。大事なことがあった気が……
「そういえば将也、調子戻ったみたいだな。昼飯ん時は絶望の顔だったくせに」
「……昼飯の時?」
「おお。春日さんの名前出したらバグ起こしていただろ」
……。
………。
はっあああああぁぁぁ!?
「しまったああああああああああ!」
「マサが狂ったばい!?」
トランプを放り投げて絶叫。
ああそうだそうじゃないかそうですやん!
春日への誤解を解く為に午後張りきった俺、遭難して無事帰還した後も再び春日を探そうとした俺……そんなマイウェイ突き進む俺はどこ行ったんだい!?
教師共に怒られてすっかり忘れていた。
何を馬鹿みたいにトランプゲームしているんだ。何を発表するエロネタを探しているんだ。お馬鹿!
「こんなことしている場合じゃねぇ!」
「つ、次は兎月っちの番だよ」
「こんなことしている場合じゃねぇ!」
「うわああウサギが壊れた!」
ど忘れしていた自分が憎い。
カップ麺の作り方を間違えた時ぐらい自分が憎い! どうして後入れ粉末スープを先に入れたんだ、なんか素直に美味しく感じられないだろ。
「今は粉末スープのことじゃないだろ!」
「おいこいつ本格的に壊れだしたぞ」
「誰かエスナ使える奴いるか!」
「いや今はサイレスが先だ、担任が来るぞ!」
アホみたいに騒いだが、担任が来るぞの一声で全員口を閉じた。
馬鹿と罵られてきたが今気づいた、俺……本当に馬鹿だ。
説教、夕食、風呂、大富豪、下ネタ、粉末スープ。そんなことよりも先にやるべきことはあったじゃないか。
……春日に会わなくちゃ。ゆっくりと立ち上がって扉へと向かう。
「将也、あと少しで担任の点呼が始まる。外に出るのは難しいぞ」
「そんなこと分かってる。でも、今じゃなきゃ……急いで行かなくちゃいけないんだ」
馬鹿にだって曲げられない想いってのがあるんだ。そうだろ将也。
だって俺は春日に会う為に戻ってきたんだ。もう一度会って、ちゃんと話して、誤解だってこと言う為にさ。
明日じゃ遅い。今すぐに会いたい。春日に、会いたい。
「ったく、しょうがねぇ親友だぜ」
「うるせー」
うるさいとはなんだね、と軽く笑って米太郎は続けて言う。
「野郎共、俺と将也は便所に行っていることにしてくれ」
「りょーかい。二人仲良く便器に座っていますって伝えておくよ」
「早く行ってきなホモ野菜コンビ」
他の奴らはすぐに答えた。
やれやれといった具合でトランプを拾い集め、俺の方はもう見ていなかった。
お、お前ら、協力してくれるのか……っ。
「さあ行くぞ将也」
「え、米太郎は別に来なくて良くない?」
「ひどぅい!」
静かな廊下を素早く音を立てずに歩く。まるでサバゲーをしているようだ。階段の横に隠れて辺りに人がいないか確認。
そこら中の部屋から男子達の楽しげな笑い声と教師の静かにしろ!といった注意が聞こえる。
「で、ここからどうするんだよ」
こいつと二人で部屋を出てきたが特に作戦があるわけではない。一体どうするつもりだ?
「まずお前の目的だが、恐らくっつーか絶対春日さんだろ」
その通りだ。コソコソと小声で話すお米に向けて小さく頷く。
「女子の部屋は上の階。だがそこへの侵入は極めて不可能に近い」
上を指差して顔をしかめる米太郎。
ここは二階で三階は女子達の部屋。すぐ上にあるのだが三階は女教師達によってほぼ完全にマークされている。マークというのは監視のこと。
「男子が近づこうものなら自由時間であろうと問答無用で捕まる。実際昨日、三組の奴らが行こうとしたらすぐ見つかったらしい」
「捕まったらどうなるんだ?」
「怒られて自分の部屋へ帰らされる。まぁ将也のような前科持ちは担任の部屋でガッツリ説教。最悪の場合、明日ずっと監禁される恐れもある」
それは最悪だな。
だからといって撤退の二文字はない! 何がなんでも春日の元へ向かってみせる。
たとえ四肢がもげようと頭皮が剥がれようとも、必ず会いに行くんだ。
「明日また会えるのになんで今行きたいのやら」
「今じゃなきゃ駄目なんだっ」
「将也テンション高いなぁ」
頭をポリポリと掻きながら米太郎は福神漬けをポリポリと頬張る。まるで錠剤を飲むかのように慣れた手つきで食す姿はどことなく余裕があるように見えた。
おいこの野郎、こっちは必死なんだよ。邪魔するなら今すぐ部屋に戻れ。
「で、実際のところどうやって春日さんに会うつもりだよ」
上の階を差して米太郎は問いかける。そりゃ、そうだな……んと、
「どうにかして春日のいる部屋に侵入する」
「具体的じゃねーなー。絶対に捕まるぞ」
米太郎の話通りなら上の階には女教師がいる。
騒ぐ生徒を注意するのは勿論、男子が女子の部屋に行くのを防ぐ役割もあるはず。
つまり警備は厳重、正攻法で突っ込んでも秒殺でゲームオーバーだ。
そんなことは分かっている。けど、他に方法が思いつくわけでもなく……
「現実突きつけられて黙ってんじゃねーよ」
っ、うるせー……。でも他にどうしろってんだ。
直接会いに行かなくちゃ駄目なんだ。
今、今なんだ。遅れて、ずっと遅れてきてさ。もう大遅刻だ。取り返しがつかないかもしれない。
だからこそ、今すぐに会わなくちゃいけない。
何よりも、俺自身がそうしたいから。単純に、春日と会いたいから……。
「将也、お前はその辺に隠れていろ」
……米太郎?
「上の階が騒がしくなったらすぐに下へ下りろ。外に出れば教師陣に見つかることもないだろう」
「ど、どういうことだよ」
タッパーに残っていた福神漬けを全て口の中へ放り込んで米太郎は臭いゲップと共に言葉を吐き続ける。
「陽動作戦だ。俺が教師を引きつけるからお前はその隙に一階に下りてホテルから出ろってことだよ」
「! そんなことしたら米太郎が」
「ゲッポ~」
「臭っ、ゲップ臭い! こっち向けてするな馬鹿!」
「……これくらいの役目、どうってことないさ」
ゆっくりと立ち上がって米太郎は上の階を見据える。
やれやれまたこんな役目かよ、と呟いたと思いきや次の瞬間には階段へ足をかけていた。
「水川と火祭には連絡しておく。あっちはあっちで上手くしてくれるだろうよ」
「で、でも」
「いいから行け馬鹿。昨日の罰ゲーム、忘れてないよな?」
罰ゲーム……あぁ、昨日の古今東西卓球のことだろ。
負けた方が確か、外でガッツリ散歩。卓球勝負は、火祭の助太刀で米太郎をノックアウトは出来たが結果的には俺の負けで終わった。
「北海道のクソ寒い中、散歩してろ。ま、寒くても二人寄り添えば少しは暖かいだろ」
こ、米太郎……! お前って奴は……っ! 自然と目尻が熱くなる。
「じゃあ暴れてきましょうかね~。もしかすると風呂上がりの女子に会えるかもしれないし! じゃあな将也、上手くやれよ」
そう言い残して米太郎は階段を上がり始めた。待てよ、と言っても止まらず突き進むライス太郎。
……すまん米太郎。もうこれ以上言うことはない。
俺は俺でやることがある。その為に米太郎は自ら犠牲に損な役目を担ってくれた。
俺なんかの為に、ヘタレで馬鹿な俺のせいで……。
「本当に、ありがとな」
お前にはいつも助けられてばかりだ。この恩は絶対に返す。
そう誓った時だった。
「げへへっ、女子の皆さん! マッサージとかどうですかー、僕上手いんだよ。モミモミしてあげますよぉ」
米太郎のキモイ声が上から響いてきた。
「ぎゃー変態っ!」
「先生キモイのがいますっ」
「か、顔がキモイ!」
一気に騒がしくなる三階。女子達の悲鳴が重なって轟く。
その声を聞きつけて二階にいた男教師達も慌てて三階へと上がっていくのを物陰から見つめる。
いや、あいつ、やり過ぎだろ。
もう三階はパニックだ。そりゃゲス笑い浮かべたマッサージ師が近づいてきたら絶叫するだろう。
そこまでしなくても……い、いや米の犠牲を無駄にするなっ。
隙を見て素早く一階へと下りる。
「米太郎、本当にありがとう。あと俺もキモイと思った!」
騒がしい上に背を向けて下へ下へと突き進む。
春日、待っていてくれ。いやこの場合、俺が待つのかな。
……春日、来てくれるといいな。
言わなくちゃいけないことがあるんだ。息を吸い込み、正面玄関の扉を開けた。




