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続69 なあ寝た?は皆が起きる合図

気絶した米太郎を放置して火祭とキャッキャウフフと卓球に興じていると春日や土守さん、水川と倉田も来た。せっかくなので皆仲良くレッツプレイピンポンっ、となりましてキャッキャウフフのフ~♪ と思ったが女子達の仲良しパワーに飲まれてしまった。気づいたのだ、あれ……これ俺の居場所なくね?と。女子達だけで十分に楽しんでいる。寧ろ俺が邪魔者みたいな感じになったのでさり気なくフェードアウトした。無理無理、女子五人に対して男一人の空間は耐えられない。キャッキャウフフのフ~のミラクル女子フィールド!に気まずさを覚えた。米太郎を背負って部屋へと逃げたよ。まあ春日のお風呂上がりの姿を拝めたので満足です。別荘でも見たけどあの人のお風呂上がり半端ない。


「んじゃあおやすみー」

「おー」


部屋に戻ってからは同じ部屋で寝るクラスメイトとトランプをして時間を浪費。主に大富豪を嗜んだ。賭け大富豪をしました。大富豪で上がるとプラス百円で大貧民になるとマイナス百円というルール。賭け大富豪盛り上がるよね~。高校生が賭けの真似事するのは健全ではないがそこは修学旅行ってことで流してください。ちなみに俺はずっと平民だったので利益も損失もなし。ずっと三位と四位を行き来していた。大富豪でも平民にしかなれない自分の庶民っぷりに少しショック。どこまでも俺は平民なんだな。悔しい! 気づけばもうすぐ消灯時間。担任が点呼に来たのでトランプを片付けて就寝の準備をする。そして現在はこうして布団の中でぬくぬくと意識が落ちかけている。ふぅ、今日は疲れたな。ぐっすり眠れそうだ。


「なあ将也、寝た?」


消灯時間が過ぎてから二十分、隣の布団から声が聞こえる。米太郎だ。とりあえず無視しよう。


「なあ起きてるだろ。なんか話そうぜ」


うるせーな。明日はスキーなんだから早めに寝て備えようぜ。ユサユサと揺らしてくるクソ不快な親友。イラッとする、額に青筋が浮き上がるくらいにはイラッとする。んだよ早く寝ろ。思わず舌打ちが出てしまう。


「あ、今舌打ちしたな」

「寝言だよ」

「起きてるじゃんかー」


チッ、はいはい起きてるよ。このまま寝たフリしてもお米からの催促は止まりそうにないので諦めて目を開ける。男六人が寝るには申し分ない部屋の広さ、他の奴らは寝ているのかな。就寝前に皆で大富豪して楽しく過ごした時とは一転の静かな暗闇。お米の声しか聞こえない。


「黙れよライス太郎、寝かせてくれ」

「せっかくの修学旅行だろ。定番の夜トーークしようぜ」


暗闇の中で光る双眸。ニヤニヤワクワクテカテカと楽しげに目を輝かせている。これは完全に寝る気配がありません。初飛行機や乗馬体験で疲れているはずなのにまだ元気があるのか。お前のエネルギー残量どうなってるの? オートリジェネのアビリティでもついてるのかよ。ゾンビ状態にしてやるから徐々に弱まっていきやがれ。


「じゃあ定番の話でもするか。米太郎、好きな人いる?」


修学旅行において最も盛り上がる瞬間、それはまあ修学旅行に行く前なんだけど。四番目くらいに盛り上がるのが就寝の時だ。ただ寝るだけで夜更けを過ごすのは愚行、愚かしいわ! 同じ部屋の友達と普段はしないトークを楽しむのだ。修学旅行というテンションの上がった状態では気持ちも浮いて話す内容も大胆になる。そう、最高に楽しいのだ。てことで寝ていた他の四人もちゃっかり起きている。俯せになってこちらを見ているのだ。米太郎が喋りだした時から何か動く気配がしていた。寝ろ、と一蹴していた俺も実のところ楽しみにしていました。はいすいません。米太郎はいつ話しかけてくるのかな?と待っていたくらいだ。明日に備えて早く寝ろ? 嫌ですー。さあ男だらけウホッ、ポロリもあるよ夜トーークの始まりだ。


「そうだなぁ、俺は春日さんと火祭と水川と矢野ちゃんが好きだな」

「フライングプレス!」

「ぐぼあぁ!?」


腹筋の力のみで宙に浮き上がり、両手を思いきり広げる。そして米太郎目がけて腹から倒れこむ。綺麗にフライングプレスが決まった。苦痛に顔を歪めつつ悲鳴を上げる米太郎。テメ、この野郎っ。春日は俺の彼女だぁ! ふざけるんじゃないよ。あと矢野は俺の後輩だ、お前そんな目で矢野を見ていたのかよっ。つーか名前上げた女子全員もれなく可愛い子ばっかじゃねーか! この面食いがっ、お前は米食らってろ。


「おいここの部屋うるさいぞ! 何を騒いで……」


ドアが開く瞬間には俺も自分の布団に潜り込んで米太郎は安堵の寝息を立て、他の奴らは物音一つ立てず布団の中で静止。これほど統率の取れた動きをしたことがあるだろうか。軍隊以上の統率力と団結力で全力の寝たフリだ。


「き、気のせいか。疲れているのかな……」


あまりに静穏な空気に飲まれたのか、担任は弱々しく独り言を呟いて戸を閉めた。徐々に遠くなっていく足音、完全に消えたところで米太郎が悲鳴を嘔吐した。


「ぶぼぇえぇぇ……! し、死ぬかと思った。悲鳴と激痛溜め込み過ぎて意識飛びそうだった」


息絶え絶えに顔を紅潮させている。赤色というよりはどす黒い色だな。あっさり成し遂げたけどフライングプレス食らって声を漏らさないのって何気に高難易度だよ。米太郎すげー。他の奴らも半端ない一体感だった。


「いきなり何しやがるっ。担任の野郎にバレるところだったじゃねーか!」


はあ? お前が人の彼女を好きとか言うからだろうが。至極まともで正当な行為をしたまでだ。俺は間違ってない。なあそうだよな皆。


「まあ佐々木の指名は仕方ないよ兎月っち」

「そやな。うちの学年を代表する美少女やからな。でもウサギの彼女の名前を出すのはナシやろなぁ」

「矢野って人は知らないけど。マサの知り合いなん?」


途端に他の部屋メンバーの奴らも意見を出してきた。おいおいお前らも同意見かよ。ちなみに俺はなぜか色んなあだ名で呼ばれています。なんであだ名多いの? そんなに兎月って言いにくい? 読み方うさぎつきに変えた方がいいのかな……。そんな思いに浸っているうちに皆が集合し始めた。米太郎を囲んで顔を寄せている。完全にトークする気満々である。プロレス技は禁止にしよう。次に大きな音を立てたらさすがにバレる。皆で雑談するのはいいが担任の説教で睡眠時間を削られるのは釈然としない。絶対嫌だ。声を潜めて会話に混ざる。


「ウサギ怒らんで聞いてな、春日さんはメチャ可愛いねん。誰だって思わず見てしまうんよ」

「そーだよ兎月っち。ちょっと見惚れただけで男子全員を殴るのは暴君過ぎるって」

「そうだそうだ、見る権利は誰にだってある!」


うおおぉ、一斉に俺への非難が始まったぞ!? なんですか皆揃いも揃って。まるで俺が悪者みたいじゃん。そりゃ付き合ってから春日をいやらしい目で見ている野郎は蹴散らしてきたけどさ。やり過ぎだったのかよ。いやでも自分の彼女をじっくり見られたら嫌だろ。皆だって経験あるよな? と言おうと思ったがここにいる米太郎含めて五人全員クリスマスは予定のなかった連中だった。部屋でモンスター狩っている連中ばかり。火に油を注ぐことにしかならない、やめておこ。口を噤んで大人しく不満を聞くか。


「いつも教室でイチャイチャご飯食べやがって」

「なのに火祭さんとランチすることもあるしさー」

「堂々と二股かいな。火祭さんには彼氏、いや婚約者がいるって噂やけんな!」


あ、それ変装した俺のことだ。今ここで言うと暴動が起きるので絶対言えないけど。


「おまけに今回の修学旅行で水川さんと同じ班になったばい……マサはおかしか!」

「よっしゃ皆その調子で将也を攻めろ攻めろっ」

「佐々木お前も同じ班だから同罪だ!」


一人が米太郎の布団の中へ入っていった。途端に聞こえ始める米太郎の喘ぎ声。や、やめろぉ! 一つの布団の中で野郎二人が悶えている姿なんて見たくないし声も聞きたくないわっ。もぞもぞ動く布団、米太郎が甲高い声を漏らしつつ口をへの字にして我慢している。おいやめろ、ホモの空気出すな。気持ち悪いわ!


「さっきも二年を代表する美少女の方々と卓球してたばい」

「あ、それ俺も見た。兎月っちハーレムだった!」


あぁもう、うるさいな。これ以上騒ぐと担任に見つかるぞ。その時はまた物音消して静かにすればいいと思っているのか? 今回はヤバイだろ、二回目だし。それに米太郎の布団には人間二人が密着しているんだぞ。絶対アウトだ。不純同性交遊で説教されるのは勘弁願いたい。同じ空間にいた俺までホモの疑いを持たれるかもしれないじゃねーか。春日や火祭にどんな顔して会えばいいんだ。


「まあそれはいいとして、他の皆も米太郎と同じ意見なのか? 他に好きな人いないのかよ」


なぜか兎月死ねよムードになっているので変えよう。話題を最初に戻す。そりゃ春日や火祭が最強レベルなのは重々承知さ。じゃあ他に可愛い子はいないのか? ってことだ。


「そうだなぁ、土守さんかな」

「あー分かる。あの人綺麗だよな。こう、品の良いオーラがあるというか」

「茶髪にグッとくるばい」


どうやら土守さんの人気も高いようだ。春日の親友で俺の元主人、土守有紗さんが転校してきたのは夏休み明けの二学期だ。その時俺は退学して執事になっていたので転校当時土守さんが周りからどんな風に思われていたのか知らないけど現在はこのように男子人気を獲得しているみたい。まあ、ね。見た目も綺麗で上品だからな。性格も、春日家を嫌っている時は例外として普通に良いみたいだし。ファザコンだけど。無表情で無口な春日とは違って普段からお嬢様オーラを発している。春日はなぁ……やる時はちゃんとお嬢様できるんだけどね。お店とか俺の母さんの前ではニコッと微笑んで態度が慎ましい。俺の前ではほぼ常に不機嫌そうにしているけどなっ。話が逸れたけど、要するに土守さんもモテているようだ。


「でも土守さんは佐々木のこと気にしているっぽいからなー」


は? そうなの? 米太郎の方を見ると、


「ムフフ~、そうだろ? 土守さんの家に行ったこともあるぜ」


自慢げにペラペラと喋る米太郎。聞こえはいいけど確かお前、後藤さんにボコボコにされただけだろ。後藤さんとは土守家に使える執事。元同僚で大先輩だ。何を話盛っていやがる、自慢話にするな。アレだよね、昔の出来事とかは二割増しで話す傾向にあるよね。なので忘年会や同窓会で友達が昔話をした時は注意が必要だ。それに、土守さんが米太郎のことを気にしてるぅ? ただの間違いだ。君ら間違った認識しているよ。


「いや土守さんは米太郎のこと嫌って……むぐ」

「将也、いらんこと言うな」


真実を語ろうとしたら米太郎の手で口を覆われた。やめろぉ、ホモが伝染る。些細でしょーもない理由で喧嘩した春日家と土守家。長年の間絶縁状態だったが米太郎の活躍で解決した。あの時の米太郎の活躍ぶりはすごかったような覚えがある。土守さんはその時の米太郎にビックリして今でも苦手意識があるのだ。ヘラヘラしているのに突如真剣な顔つきになる米太郎が怖いと本人が公言していた。どうやらそれが周りからしたら土守さんが米太郎のことを意識しているように見えたようだ。良かったなお米ちゃん、全くの勘違いだけどな。


「野菜コンビ揃ってお嬢様と付き合っているのか……逆玉の輿だな」

「羨ましい! 将来奢ってくれよな」

「はっは~、俺と将也に任せろ」


逆玉の輿かー……それってもう結婚するってことか。俺と春日は婚約しているので将来的にはそうなるけどさ。米太郎は違う、お前にリムジンとお屋敷は似合わないさ。百姓として畑耕していろ。結婚……いつか春日父に言わなくちゃいけないんだよなぁ。今まで逃げてきたけどいつかは報告しなくてはならない。絶対殺されるよ。でもいつかは……え、えぇー嫌だよ。それよりも先に日下部との問題も解決しなくちゃいけないし。おいおいやること多過ぎるだろ。庶民のキャパ超えている。なんだか色々と考えると疲れてきたな、もう寝ようかな。


「ふふ~♪ なあ、いつかお互いの彼女交換してセッ」

「フライングプレス!」

「「ぐあっ!?」」


米太郎の布団に入っている奴ごと米太郎に倒れこむ。ゴラァ! だからうちの彼女を汚すなボケがぁ! 許さんぞっ、それ以上言うな! なんかR指定に引っかかるから。ふざけんなクソライス、俺でもまだやっていないんだぞ。ファック!


「やっぱりこの部屋うるさいぞ! お前ら早く寝ろ!」


結局担任に見つかって六人全員で怒られることになった。はぁ、早く寝れば良かった。


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