続68 古今東西卓球ラリー
牧場で乗馬体験を終えた後、本日泊まる旅館へと到着。旅館のすぐ隣には雪山とリフトがある。ここはスキー場、明日は丸一日使ってスキーだ。楽しみですね。明日に備えて今日は安眠したいところだ。現在、そこそこ豪華な夕食を食べ終えて指定時間通りに入浴を済ませたところ。今頃は三組と四組が入浴しているだろう。大浴場気持ち良かったなぁ、冷えた体が温まった。でも夏休みに行った金田リゾートの温泉施設に比べると一回り小さかったな。あの豪華施設と比べるのは酷か。
「おっ、卓球台あるぜ将也」
風呂上がり、自販機で買った半透明の清涼飲料水『DAKARAnani?(ダカラナニ?)』を飲んでいると米太郎が話かけてきた。グレープフルーツ味のすっきりとした甘さが喉を潤す。メロンソーダが俺の中で王者なのは不変だがたまにはこうして体を気遣った飲料も悪くない。
「なあ将也聞いてる?」
「……」
「あ、聞いてないね。完全に意識持っていかれている。俺はジュースに負けたのか!」
うるさいな、ちゃんと聞いているよ。当たり前だろ、俺達親友じゃん? ジュース美味い。値段が高いのが気に食わないけど。スキー場だから物価が騰貴している。人の足元見やがって、商売上手だな。まあ雪山付近まで運搬する苦労を考えれば納得せざるを得ない値段設定なのかもね。
「なぁなぁ、卓球しようよ」
「分かった分かった」
米太郎が抱きつく。キメェ、触るな。せっかく大浴場で綺麗にした体が野菜臭くなるだろうが。そうだな、せっかく卓球台があることだし。楽しむか。フロントでラケットとピン球を借りてさあ始めよう。
「普通にやっても面白みに欠けるから古今東西ルールつけようぜ」
古今東西か、いいだろう。ラリーをする毎に出されたお題に答える。例えば『赤い物』とお題を出されたら「林檎」や「サンタクロース」、「テ○ガ」と答えて返球する。最後のは違うか、赤と白の物だったね。とにかくそんな感じで喋りながらラリーするから意外とテンパる。アタフタしちゃうんだよなあ。卓球スキルより頭の回転と滑舌が大切になる。
「5点先取で勝ちにしよう。負けたら罰ゲームだ!」
ほほぉ、やっぱ罰ゲーム付きか。いいのかい米太郎君。俺は容赦しないぜ。
「負けた方が外でガッツリ散歩とかどうだ?」
「氷点下の外を……いいだろう、野菜パワーで蹴散らしてやる!」
なかなかシビアな罰ゲーム設定も終わったことだし、いざ勝負っ。ラケットを握りしめ、腰を落とす。ヘイヘイヘイ、かかってこいよライス太郎。お米を冷凍保存してやるぜ。
「じゃあ俺からサーブするぜ。お題は……『濁音で始まる野菜の名前』! グラスジェムコーン!」
は、はぁ!? 野菜の名前……って、いきなりそんなこと言われても。あ、あぁ、もうピン球が手元にまで迫ってきている、っ。ぐぉ!
「だ、大根」
なんとか返せた。
「グリーンゼブラ」
「なっ、う、んん……ブロッコリー!」
「ガーデンクレス」
思考に深く沈み過ぎた、意識が戻った時には既に球が台の上を跳ねて横を通過していった。ず、ズルいだろこのお題。野菜大好きな米太郎に超有利だ。なんだよグラスジェムコーンって。聞いたことも見たこともないぞ。そんなマニアックな野菜情報知るかっ! クソが、自分の得意分野を出すのは卑怯だ。寧ろ大根とブロッコリーを言えた自分がすごいと思う。
「いえー、1対0~」
「すぐ取り返してやる。今度は俺の番だ!」
ピン球を左手に乗せ、台を見据える。お題は……そうだな、
「『授業中にした気持ち悪い妄想』で! 透明人間になって女湯に入る妄想!」
ラケットを斜めに振り下ろして右回転をかけたサーブと同時に気持ち悪い妄想を放つ。ふふっ、気持ち悪いだろ~。自分のしたキモイ妄想を思い出しながらアタフタしやがれ。球は緩やかに回転しながら台の端を跳ねる。カコン、と卓球独特の音を奏でて軽快に動くピン球。それに合わせてラケットを添える米太郎。
「好きな女子のリコーダーを遠心分離機にかけて唾液を採取する妄想」
「レベル高過ぎぃ!?」
とんでもない、規格外のカミングアウトに体の自由が奪われた。手元通過するピン球に反応出来ず……ま、マジで気持ち悪いやつ言ってんじゃねぇよ!
「んだよもう終わりかよ。女子の唾液を沸騰させてカップ麺作る妄想とかあったのになあ」
お前の妄想ストックはどうなってやがる。そしてなぜ唾液系にこだわる!? 米太郎のキモさを再認識した……。
「さあどんどん攻めるぜ。お題は今将也が言ったやつな。通学帽子に変身して幼女の髪の毛をクンカクンカする妄想!」
「いよいよ犯罪臭してきたな変態太郎っ」
素早いクイックで放たれたサーブ。兎のように低空飛行する球へなんとか追いつく、が……こ、言葉が出ない。くっ、何か言うんだ。
「俺がイケメン過ぎてすれ違う女子全員が失神するからその度に一人一人介抱する妄想っ」
「切羽詰まっている割には随分と長文言えたもんだな。じゃあ俺は……畑の土と女性の陰部がシンクロして、俺が畑を耕す度に女性が喘ぎ、畑に水を撒くと女性の陰部が濡れる妄想」
お前強過ぎるだろ!!
「バイキルト!」
「ぐあ、やられた。まだそれが残っていたか」
これで2対4。やっと2点目取れた……。『とあるゲームに登場する呪文の名前』というお題のラリーは一分以上続いた。ほぼ全ての呪文を出し尽くした。なんとか最後の最後に思い出したのはシリーズ通して安定の効果を発揮する補助呪文だった。よくやった俺。バイキルトは大切だよね。まさかここまで長期戦になるとは。もし言った呪文全てを唱えたとするとMPはあっという間に底を尽きていただろう。米太郎のキモさと頭の引き出しの多さに翻弄されて点差がかなり開いてしまった。米太郎があと1点取ると試合が決してしまう。ここから逆転するのは極めて難しい。い、嫌だ。寒い外を練り歩くなんて罰ゲーム受けたくないよ。
「もう楽にしてやるよ将也。お題は『半濁音で始まる野菜の名前』でピーマン!」
またしても野菜関連のお題か。くっ、最初から何も思いつかない。だ、駄目だ。眼前に迫るボール。ラケットで打ち返す準備は出来ているが同時に放つ言葉が整っていない。このままでは負けてしまう。う、うぅ。クソが、ライス太郎に負けるなんてプライドが許さない。負けるな将也、最後の最後まで抗え。何か、何か出ないのか。……だ、駄目、なのか…………。ピン球が通り過ぎるのを見送るしかなかった。野菜のお題はお前に有利過ぎるんだよ。あぁ……
「パイナップル!」
と、後ろから声が聞こえた。諦めかけた、閉じかけた瞳が開く。視界の端で捉えたのは凄まじい威力で通過していくピン球だった。ネットを焦がし、台を抉り、小さな竜巻を発生させながら昇竜するボールは米太郎の下顎へクリーンヒットした。パァン!と爆裂音と共にピン球が破裂して米太郎の顎も浮き上がる。人体が宙に浮いたのだ。
「な、なんつー威力だ……!?」
ぐしゃりと倒れ込む米太郎。倒した、のか。しかし俺の放った打球ではない。後ろから飛んできた。振り返ると、そこには火祭がいた。髪の毛は濡れてしっとりしており、湯気は色気を感じさせる。エロイ、そう思ってしまった自分がいる。恐らく火祭もお風呂上がりなのだろう。潤んだ瞳とツヤツヤのお肌が眩しくて直視出来ない。は、反則だ!
「まー君のピンチにはすぐ駆けつけるよ!」
腕をまくってニコリと微笑む火祭。あぁん、細くて白い二の腕が魅力的だよ。ずっと見ていられる。写真に撮って部屋に飾りたい。それに浴衣姿ってのが大変素晴らしい。激しく動いたらはだけそうだ。例えばさ、段差に躓いた火祭の浴衣がめくれてチラッと見えちゃうとか。興奮する! うへ、現在進行形で気持ち悪い妄想を生産するとは。自分のゲスさに嘆く。
「火祭、助けてくれたのは嬉しいけどパイナップルは野菜じゃなくて果物だと思う」
「……ぁ」
天然で間違えたのか。可愛いですね。となると結局お題に沿った解答を出せなかったから俺の負けか。まあ対戦相手の米太郎が気絶したのでノーカウントってことにしておこう。まさかピン球で人間を気絶させるとは……ここまでくると清々しいくらいの強さだ。さすが火祭、常識に縛られないぜ。彼女ならバヌケやテニヌを実現してくれそうだ。
「ご、ごめんねまー君」
「全然。それより一緒に卓球しようぜ」
「うんっ」
とりあえずまたフロントに行ってピン球取りに行くか。




