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続67 記念撮影

空の旅を経て、遂に北海道の地へと降りた。両手を広げて肺にいっぱい吸い込む北の冷たい風、目の前に広がる広大な大地。全ては初めて、見たことのない光景に脳がクラクラする。あぁ北海道に来ているんだなぁ。


「はーい皆さん注目、それじゃあポニーに乗る時の注意なんだけど」

「とりあえずエポナの歌吹けばいいんでしょ?」

「オカリナで頭かち割るぞクソガキが」


うおおお、インストラクターのお姉さん超怖い。険悪な顔つきで睨まれてしょぼんと落ち込む米太郎。ドンマイ、けど今のはお前が悪いぞ。飛行機の新鮮で快適な移動を終えて北海道へと来た我ら二年生達。クラスによって移動ルートは違うようで、一組と二組と三組は最初に牧場へと来た。とても広い牧場の中を走るポニーさん。馬だ、馬がいるっ。初めて生で見たかもしれない。英語で言うとファーストフレッシュ、えっと、あ……英語で馬を言えない自分の英語力の乏しさを痛感した。分からない、えー、やっぱ俺馬鹿だな。とにかくファーストフレッシュ馬だ。なんか馬の品種名みたいになったけど気にしないでおこう。今から乗馬体験をするみたい。般若から元の優しい笑顔フェイスに戻ったお姉さんを見つつしっかりとお話を聞こう。


「ちぇー、ちょっとボケただけで怒るなんて北海道の女は気が短いんだな」

「誰が悪いか、どうして怒られたのか、考えて物言えよクソ太郎」

「ぐおっ将也もキツイ! 顎が揺れちゃうっ」


さて、乗馬を楽しもう。






あー楽しかった。馬に乗るとあんなにも見える世界が変わるとは。視点が高くなり、眼前に広がる光景は一変した。感動だ。思わず鼻歌でエポナの歌を歌ってしまいインストラクターのお姉さんから「お前もか」といった冷たい目で見られた。なんで俺今日ずっと米太郎とセットで扱われているんだよっ。やっぱり同じ班になったのが間違いだったのか。まぁそんなことはぁ北海道の広大な土地に免じて許そう。そう、俺のハートは今もれなく寛大だ。今なら突然鳩尾を殴られても爽やかスマイルで許してやってもいい。


「いやぁ、北海道は空気が美味いよね」

「……」


隣の彼女さんから返事はなし。はいはい通常運転ですね、分かります。そして若干のプレッシャーを感じる。威圧感ってやつですか。おいおい何すかそのレアな特殊能力。パワプロだったらランダムイベントでしか手に入らない特殊能力だよ。あなたすごいですね。何をピリピリされているのやら。乗馬を終えて時間が空いたのでぼんやり景色を眺めているといつの間にか隣には春日がいた。だから音と気配を消して近づくのはやめてください。ステルス機能オフにしてもらえないすか? 現在他の皆は乗馬を楽しんでいる。エポナの歌を鼻歌で吹きながら危なげに乗る米太郎、ライスシャワーの手綱を持つ騎手の如く華麗に走る火祭。ポニーの走力とは思えない力強い走りだ。ちょ、軽く眺めるつもりだったけど火祭さん!? あなた乗馬の才能もお持ちですか。多才にも程があるよ。やっぱ火祭すげー。乗馬上手いなぁ。きっと夜の騎乗も……げぶん。下ネタは駄目だよ将也くぅん。


「……」

「痛たた、俺に鞭叩かないで」


背中を叩かれた。やめてください僕そんなマゾブレイ所望してないっす。いつもあなたからローキック食らってあぁ心地好いなあとか思ってるけどそーゆーことではないんで。ドMへの扉を開こうとしないでください。相も変わらず不機嫌な恵お嬢様。それは北海道でも健在。せっかくの修学旅行なんだから今日くらい理不尽暴力やめてもらえない? 寛大な心で許すけどね。


「春日は乗らないの?」

「さっき乗ったからもういい」


淡々と返す春日。そんなこと言われちゃあ、「せ、せやな」としか言葉が出てこないよ。決して俺の応対力が乏しいわけではないはず。誰だってこうなるさ。このお嬢様にまともな会話を求めるな、んなこと下僕時代から分かりきっていることだ。フィーリングで読み取れ、そうフィーリング。英文や古文と同じだ。雰囲気で察しろ。出家した=あっ(察し)って感じだな。古文でまともな点を取ったことのない俺に任せろい。せっかくの特別な修学旅行、ちょっくら大胆に攻めてみよう。


「暇ならその辺散歩しない?」


手を差し出しつつ誘ってみる。我ながら積極的だ。少し冒険し過ぎたかな? 嫌、と一蹴されそう。でもダイジョーブ博士イベントよりは成功率高いと思う。大丈夫なはず。悟空風に言えば、でぇーじょぶだ。きっと成功する。


「……」


暫し沈黙が二人の間で右往左往した後、


「……」


沈黙を引き連れたまま春日が歩きだした。無言は肯定の表れ。信頼と実績の法則に従えば了承してくれたことになる。歩きだしたのが何よりの証拠。うん、その辺散策してみよう! ……でもさぁ、ちょっと残念。こっちは手を差し出したんだぜ? 意味分かるでしょーよ。ちょい甘なムードにしようと企む俺の見え透いた手段に乗ってくれてもいいじゃないか。スタスタと牧場を歩く春日。ちょ、お待ちを。距離が離れないよう慌てて後を追う。


「うー、寒い」

「……」

「にしてもマジで北海道にいるんだよな。マジ超ガチ感動だよね」

「……」

「今日泊まる旅館はどんな感じだろ? ご飯美味しかったらいいな。蟹食べたいよね」

「……」


三球放ったが見事にスルーされた。捕りやすいコースに投げたつもりだったんですがねぇ。キャッチボール失敗。あなたホントに気難しいよ。やっぱ相性悪いのかな……バカタレっ! 俺のバカチンがあ、腐ったミカンですかっ。何を弱気になっている。大丈夫、もっと話しかけていけばいつか返してくれるはず。将来はオシャレな喫茶店で何時間も語らいたいんだ。そして最終的にはアイコンタクトで会話したい。もっと言えばテレパシーの領域まで達したい。遠く離れていても念じるだけで会話してみせる!


「ファニッフ~」

「……」


喋ることがなくなったので奇声を口ずさむ。結構歩いたなー、でもまだ牧場から出ない。広い、広過ぎるよ。こんな景色、地元では絶対に拝めない。てことで記念撮影しよう。流行に逆らうガラケーを取り出してカメラモードを起動。いざシャッターを押さん!


「あ……」

「え、何?」


携帯を取り出すと春日が反応した。些細なリアクションだったが見逃さないぜ。パッと隣を振り向けば無表情の春日。表情は変わらないんですね。何やら言いたげな様子なのは感じ取れる。フィーリング力を発揮していくぅ。


「……待ち受け」


待ち受け……あぁ、これですか。携帯の待ち受けは空の景色だ。先程飛行機での移動中に撮ったもの。これは待ち受けレベルの画像でしょー。雲と空と海のシンフォニーが見て取れる。うふふ、今見ても新鮮だ。でも今撮った北海道の大地も次期待ち受けとして筆頭だ。どうしよっかな~、偶数の日にちは空の写真にして奇数の日にちは大地の写真にしてみるか。たまに自分の顔写真を待ち受けにするとかバランス良くね? 空と海と大地とドヤ顔の俺様みたいな。RPGのサブタイみたいになってしまった。そんなくだらない思考を巡らせていると激痛が割り込んできた。だから痛い! 英語にするとビコウズペイン!


「なんで蹴るのさ」

「別に」


そう言って春日はスタスタと歩いていく。えぇー、何かやらかしたか俺? 分からないよ恵お嬢様、もっと口頭で伝えてよ。全てを蹴りに乗せないで。何が駄目だったんだろ。待ち受け変えたことか? え、でも別にいいじゃん待ち受け画面くらい。前のは…………あっ。


「あぁ、ミスった」


そういうことか。うわ、うわ、なるほど。前の待ち受けは何を隠そう春日と俺のツーショット写真だったのだ。ゲーセン行った時に撮ったプリクラを待ち受けにしていた。我ながらバカップルだなぁ、今思えば恥ずかしい。知り合いに見られたら煽られること間違いなしの一品。家族に見られたら「あらあら将也ったらもうラブラブね」とニヤニヤされそう。そして春日父にバレたら携帯ごと俺の身体も真っ二つだ。そんな待ち受け画面を変えたのが春日は気に食わない、らしい。あはは、ホント可愛いじゃないすかあなたー。……ヤバ、めっちゃ可愛いんすけどうちの彼女。嫉妬してるよ、空の景色に嫉妬しちゃっているよっ。もうしょうがないんだから~……なんて思いながら俺の顔は赤くなっているんですけどね。クソ、反則だ。それ反則、禁止級だ。照れてしまう。冷たい北風で冷まさなくては。息を飲み込み、後を追う。左手で春日の肩を掴んで右手は再びカメラモードを起動させる。


「はいカマンベールチーズ!」


無理矢理春日を引き寄せる、そりゃもう抱き締める勢いで。動揺する春日の顔は見ずに右手で掲げる携帯のカメラ一点を見つめ、シャッターを押す。パシャリ、と軽快な機械音と共に撮影が終了。よし、たぶん撮れているはず。ポチポチとボタンを連打して設定を変えて……うっし、これでオッケー。殴られたり蹴られる前に携帯の画面を彼女さんの方へ向ける。


「ほら、待ち受け変えたよ」


お互いの頬をくっつけて抱きつく俺と春日のツーショット写真ver.北の大地だ。綺麗に撮れている。ナイスだ将也、君の撮影技術は素晴らしい。どーですかマイハニー、これで満ぞ……痛っだぁ!?


「いきなり抱きつくな」

「ぐおおお鳩尾がぁ……!」


肘打ちが人間の急所にヒット。悶絶! だ、駄目だ。今の一撃は駄目なやつだ。もれなく激痛が蠢いてやがる。腹ん中のたうち回る痛みの熱を吐き出すように口から息が漏れる。白い息が空へと昇っていき、俺の意識も消えそうだ。な、何しやがる!? 今の答え百点満点だろうがっ。何が気に食わないんだよぉ。


「戻る」

「あ、ちょ、待」


踵を返して皆のいる方向へと歩く春日。その顔は白く、凛としていた。勿論無表情。うぅ、なんてこった。俺まだ歩けないよ。回復スピードに追いつかない攻撃を食らってしまった。仕方なしにその場で倒れながら画面を見つめる。あ、春日の顔赤い。ビックリした表情だし。でもさっき見た時はいつも通り白くて……あぁ、なんだ。春日も顔冷ましていたのか。新しい待ち受け画面を見ながら微笑みが止まらない俺であった。


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