表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/91

続57 一歩先は地雷

「……とまあこんな感じです」


日下部との出会いについて簡単に述べてみた。隣に座るローキックの達人が何も行動を起こさず怒っていないみたいなので一安心。それと、そんな美人じゃないと言って泣かせたことは伏せてお送りしました。日下部にとっても思い出したくないだろうし今の日下部は見違える程綺麗になっている。上の下レベルじゃないか、高校生になって随分と印象が変わったな。不良っぽい奴が高校に入ると髪染めてチャラい格好になったのと同じように日下部もそれに準じた今時のイケイケな外見をしている。だけど完全なギャルではない、ある程度清楚な部分も残しつつ遊んでいる感じだ。清楚系が好きな俺にとってなかなかタイプな清楚とチャラさの割合です。……いや、元カノにキュンと来てどうする馬鹿。デレデレしていると隣の現カノが不機嫌になるのは散々見てきたし痛感してきただろうよ。そして日下部とは付き合っていたとも言い難い。


「今話した通り俺と日下部は正式に付き合っていたというよりは実験的に仮交際をしていたってことなんだよ。これはもはや付き合っていたとは言わない」

「何言っているの将也、私達はちゃんと何度もデートしたじゃない。客観的に見たら疑うことなく二人は恋人同士だったでしょ」


新しく持ってきたアイスティーを飲みながら見下すようにせせら笑う日下部、甘くて苦いコーヒーに苦戦している俺とのコントラストでこっちが惨めに見えてくる。……確かに周りから見たら「あいつら付き合っているんじゃね?」と思われても仕方ない距離で話していたし二人で下校したりした。実際友達から「うぇうぇと、兎月お前うぇ彼女できたのかよおわぁん」と言われたものだ。今となっては何語だよとツッコミたくなる言い方だったなぁと中学時代を振り返りながら溢れ出る日下部との思い出。初デートはこいつと、他にも色々と恋人が行きそうなところへ遊びに行ったものだ。他校の学園祭や地域のお祭りに行ったり、恋愛モノの映画を観たり、手を繋いで歩いてみたり……けどそれは日下部が恋人の気分を知りたいって理由でやったことであり、一緒にいた俺としてはこいつが楽しんでいたとは思えない。気分屋で自分からデートに誘っておきながら不機嫌になったり、かと思えばいきなり呼びつけられて買い物に付き合わされる。やること全てが自分中心で俺の人権なんてガン無視だった。


「全部お前が好き勝手にあれこれやっていただけだろ、俺のことなんて何とも思っていなかったくせに」


そうさ、どーせ俺なんて実験相手に過ぎない。こいつは誰でも良かったんだ。周りから浮くのが嫌で形式上だけでもいいから彼氏が欲しかった、恋愛について知りたかった等と言ってたまたま近くにいた俺をスカウトしただけのこと。期間限定の恋人と偽っただけ、やっていたことなんて友達と大して差異はない。そして最後には、簡単に別れた。


「中学の卒業式、お前は言ったよな? 『高校生になるから交際は終わりだって』そう言ったんだよお前は」


中学生最後の日、卒業式を終えてクラスメイトや部活の仲間と写真を撮る中、俺は日下部に呼ばれた。日下部の目的は高校に入るまでに恋愛とは何か、彼氏がいたというステータスが欲しかっただけで、つまり目標は高校だったのだ。高校生になってからが本番、俺との仮交際なんて前準備に過ぎなかった。初志貫徹、あいつの気持ちはブレていなかった。だからアッサリ別れた。お互い新しい環境で次の出会いを見つけましょ、と締め括って日下部はクラスメイトの方へと意気揚々と歩いていった。あの時のことは今でも鮮明に覚えている。浮くのを相当に嫌っていたあいつが一歩一歩を確かに踏みしめながら皆の元へ歩いているのを。そして取り残された俺がなぜか浮いているように感じたのも。


「所詮俺なんて繋ぎ目に過ぎなかったんだよな。お前がリア充になる為の実験台さ、そして見事に踏み台にされた。それなのに今となって元カノでした、挙句の果てにはまだ付き合っている? 何を言ってやがる、そんなわけあるか」


我ながらよく口が回るものだ。甘くて苦いコーヒーが脳の働きを阻害しているようだ。変に混乱して、苦い思い出が頭の中で孵化している。日下部に対する嫌悪感に近い怒りの感情が噴火寸前だ。……違うだろ俺、別に恨んではない。久しぶりに会って混乱しているだけだって。それか現在付き合っている春日に疑惑を持たれるのが嫌で焦っているのか。そう思って声が荒くなるのを必死に抑えつけるが、どうしても蓋を閉めれずに言葉が次々と溢れてくる。くそっ、何を必死に喋っているんだ俺は。元カノにフラれたことを弁解している駄目男みたいだぞ。落ち着けって。


「将也さぁ、私のこと好きだったんでしょ?」

「は、はぁ!?」

「本当に嫌だったら形式上の嘘の付き合いとはいえそんなの断っているし、本当に嫌いだったらあんなにたくさんデートしなかったでしょ。そして本当に好きでないなら別れたことなんて簡単に忘れるでしょ。何その必死な言い分、まだ根に持っているの? それだけ将也が深く思っているってことでしょ、てことは」

「うるさい! 今日は感情の荒ぶる日なんだよ! それにお前のことなんでどーでもいいしぃ? はぁあん?」

「うわぁ、マジで必死じゃん」


俺が日下部のことが好きだった? んなわけあるか、こんな理不尽でワガママな奴。あ、今のは日下部に向けて言ったもので春日のことじゃないよ。春日にも当てはまる要素ばかりだったけど。高飛車でいつも自分勝手で気分屋で発言一つで機嫌が変わって散々振り回してきたお前のことなんて全っ然好きなわけが…………んんんんんっ、ていうか今は春日のことが大好きだし! マジ春日アイラブユーだし。何なら今ここでキスしたい気分だしぃ、あっ、そうだよ。日下部とは手を繋ぐ程度でキスなんてしたことなかったろ。その程度なんだよ俺のお前に対する気持ちは。決してヘタレ過ぎて何度かチャンスあったけど出来なかったとかそんなんじゃな…………んんんんんっ、とにかく!


「昔は昔、今は今なんだよ。今はこの子と付き合っているんだ、そして幸せです!」

「馬鹿兎月」

「痛い痛い! ちょ、照れ隠しで殴るのやめて。今から良い感じに締めるところだから」


肩パンしながら足で踏みつけくる春日。二か所同時攻撃だなんて器用な真似座っている状態でよく出来るな。痛い、痛いって。後でたくさん殴られてあげますから今はちょっと落ち着いていてくださいっ。


「ある意味俺もお前に感謝しているよ。恋愛なんて知らなかった俺がこうして春日と付き合えたのもお前との経験が活きたからだと思う」

「なんか良い風に終わろうとしているけど何が言いたいの?」


ぐっ……ホントにペースを乱さない女だな。


「こうやって久しぶりに会えて驚きはしたけど嫌ってわけじゃなかった、それだけ言わせてくれ。まあお互い新しい相手を見つけたわけだし、これからは元恋人同士というよりは友達として仲良くしていこうよ」


色々あった。無理矢理付き合わされて散々振り回されて色々あって、最後は突然と別れた。部活とゲームだけの馬鹿中学生だった俺に色んなことを教えてくれた日下部、受験勉強が忙しくて大して遊べなかったかもしれないけど俺にとってはお前との時間はどれよりも楽しかった。ゲームのプレイ時間分を元に戻して日下部と遊びたいなんて思ったりしたよ。だからこそアッサリ別れた時は異様な虚無感に囚われたりしたさ。自己中心的な態度にガチで怒りそうになった、憎んでいる時もあった。でもそれもまた思い出、今となって微笑んで見つめられる大切な思い出。日下部と付き合えたからこそ今の俺がいる、春日の横でちゃんと彼氏として立っている俺がいる。日下部の言う通り、新しい環境で最高の相手を見つけることが出来たんだ。こんな俺でも幸せを掴むことが出来た。そりゃ米太郎や水川といった他人の贅沢過ぎるサポートの甲斐があってのことだが、でも俺だって自分なりに努力した、頑張った。それは日下部との付き合いで身につけたものだ。だからこそ、ありがとう。日下部、付き合っていた頃、いつからかは覚えていないけど…………うん、まあ、それなりに好きでした。……うん。


「良かったら今度ダブルデートでも」

「……なんか勘違いしてない将也?」


ん?


「……何、私に彼氏がいる前提で話しているの?」


先程までの優越感に満ちた色は消え失せて代わりに潤い度が増している日下部の瞳。手に持つアイスティーの氷がカランカランと音を立てて震えて日下部自身も微振動している。微振動……あ、ヤバイ。この感覚、この雰囲気、よく覚えている。日下部が泣きそうな時だ! 気分屋の彼女は些細な一言で不機嫌になるし機嫌良くもなるし、子供のように泣きじゃくることもある。え、え、えっ? なんか俺やらかしたか? だ、だって日下部は高校で遊んでいるんだろ? その為に俺と付き合っていたのだから。外見も美人さんになってるし、てっきり彼氏の一人や二人既に作って遊んでワクワクして乗り換えまくっているんじゃ……


「わ、私がいつ彼氏が出来たと言った? 何も言ってないでしょ」

「い、今はいないだけで前まではいたとかは?」

「……」


ち、畜生っ。無言は肯定の表れが日下部にも通用するなんて知らなかったぞ。は、嘘だろ? お前は高校生になってリア充してやるつもりで俺とデートして恋人とは何か恋愛とは何かを学んだんだろ? なんで、何してたの!? 中学時代と比べて圧倒的に可愛くなったよ、上の下レベルなんてすごいって。それだけ綺麗なのになんで彼氏がいないのさ。俺の時なんて命令口調で付き合えとか言ったでしょうが、その勢いの良さはどうした!? い、いやいや待て。今ここでそんなこと言ったら日下部は間違いなく泣いてしまう。ここはフォローしないと。


「ま、まあきっと良い人が見つからなかったんだろ? そう焦るなって、きっと今に素敵な男性と巡り合えるさ。俺だってこんな上の上レベルの彼女を見つけたんだぜ?」

「……私は?」


……。


「上の下ぐらいです」

「……」

「ぎゃあああああああ泣かないでぇ! あと春日、照れ隠しで抓りながら殴りながら踏みつけるのやめてぇ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ