続55 日下部冬華
家族連れや学生で賑わうファミレス。目に優しい明るい照明と塗装された壁は窓から見える外の寒々とした冬景色とコントラストして温もりと心地良さを提供する。そんな活気づく店内のとあるテーブル、そこだけ周りと違うピリピリとした空気を醸し出していた。そこに座る三人の学生、うち一人は俺なのですが……ちょっともう消えたい気分です。
「久しぶりね」
「……そうすね」
目の前に座る女性、セミロングの髪をサイドテールで結んでおり、キリッと綺麗なダイヤモンド形をした猫目でこちらの方を睨んでくる。……ジト目で睨んで露骨に不機嫌そうにしているのは相変わらずか。そのくせよく分からん周期で機嫌が良くなったりして楽しげに微笑んでくることもあった。高飛車な態度で感情の起伏をぶつけてくる、よく笑ってよく怒ってよくよく考えるとこいつには振り回されていてばかりだ。……こいつ、日下部冬華には。
「二年ぶりかしら、よくもまあそれまで一度も連絡をよこさないでいたわね」
「いや、お前メアド変えただろ? 送ろうとしたら拒否されたぞ」
「へぇ、送ろうとしてくれたんだぁ」
……誕生日に一応メールしようとした律儀な俺がいましたよ。ジト目で睨んでいたのから一変、満足げに俺の方を見下ろしてきやがる。メアド変更したこと伝え忘れていたことに関しては一切の謝罪なし。勝手に怒って勝手に満足している、その辺はホント変わってないな。二年前と一緒、自分の言いたいことだけ言ってこっちのことなんて徹底的に無視する。高校生になってその歪んだ性格も少しはマシになったのかと思ったのに残念だわ。けどそれが日下部らしさなんだけどね。
「まあそれはいいや。それより将也……」
ブラックコーヒーにシュガーどぱどぱ入れて一口啜り、甘いと言って俺の方に押しつけてきながら日下部は視線を横に流す。再びジト目な猫目になって見つめる先には春日の姿。とりあえず甘いのか苦いのかよく分からんコーヒーを俺に押しつけないでくれ。
「その子誰? まさか彼女とか言わないよね?」
まるで宿敵を煽るような挑発の色を帯びた瞳で春日を睨む日下部。対して春日も己のご自慢ちょいつり目気味の尖りに尖った睨みを効かしている。視線のぶつけ合い、睨み睨まれ火花散る緊迫した空気が激しく伝わってくる……すんごい居心地悪い。いつぞやの春日VS火祭を彷彿させる。なんでこの二人は初対面でこんなにも仲悪いの? やっぱ俺のせい? うんそうだよね、いやでもしゃーなくね? 日下部も煽るなよ、こちらの春日お嬢様は短気で気性の荒い一面もあるんだからね。……一応紹介しておくべきだよな。さすがに婚約していることは伏せておくけど。
「あーっと、まぁ、その通りです」
「へぇー、ほぉー、将也にこんな引くぐらい美人な彼女出来るなんて思わなかったぁ、やるじゃん将也」
わざと間の抜けた棒読みに近い声、パントマイムのように大袈裟に両手を広げて口をパクパクされる日下部。そして火花の火力が上がった。隣をチラッと覗けば久しぶりに見る春日の超絶不機嫌な顔、放たれるオーラで全身が焼けそうだ。日下部、なんで春日を挑発するんだよ。やめてくれ、この子怒ると殺人ローキックマシーンと化してしまうから。
「初めましてぇー。将也の元彼女、というか今も付き合っているはずの日下部冬華って言います」
「うぉい!?」
間髪入れずに否定の叫びを上げることが出来た自分が誇らしい、というよりは危機回避能力に長けているなと思う。ここで否定の言葉を入れておかないと横の爆発寸前のお姫様が何をするか分からない。本っ当にヤバイ気がする。つーか日下部の奴は何を言っているんだ、俺とあなたがまだ付き合っている? んなわけない、ちゃんと別れたはずだしそもそもアレを付き合っていたと言うのも疑わしい。
「あら、ちゃんと別れてはいないでしょ私達」
「ざけんな、中学卒業と同時に契約は解消したはずだ」
付き合っていた、周りの人からはそう見えたのだろう。しかし実際は違う、付き合っているフリをしていたと言った方が正しい。その辺の詳細を日下部に文句をぶつけてやりたいが、まずは春日が勘違いしているかもしれないのでそっちの誤解を解くことから始めたいっす。変に誤解されたまま話が進むとまた春日が泣いてしまうかもしれん。もう彼女の涙は見たくないのさっ……うん、こんなカッコつけてる余裕なんかないですよね。パパッと事情を説明しなくては。…………俺と日下部の中学時代の話を。
「春日落ち着いて聞いてくれ、ローキックは勘弁な。俺と日下部は同じ中学校の最初は知り合いでも何でもなかった。彼氏みたいなのが欲しくてたまたま近くにいた俺に彼氏のフリをするよう強要してきたんだ」
そう、あれは今から二年前。中学三年生の秋だった。




