続53 体育の授業は真面目にやるかサボるかの二択
修学旅行の班決めも難なく終わって、学生らしい行動と責任がどうのこうの~といった担任の長話を聞きながらその授業は終了。次の授業は体育、一組と合同でバスケ。体育館コートを半分にして男女それぞれで試合中。こういったクラス対抗での試合って燃えるよね。さあ二組の団結力見せつけてやろうぜ。
「佐々木死ねぇ!」
「俺味方ぐっはあぁ!?」
某サッカー漫画よろしくボールを顔面でブロックした米太郎が悲鳴を上げて床へと崩れ落ちる。パスという名の凶弾を放った二組の男子、周りからよくやったと褒め讃えられている。団結力はどこへ消えたのやら、試合そっちのけで米太郎潰しが展開されており、みるみるうちに米太郎の全身は痣だらけに。遠くから見ていてもリンチされているのがよく分かる。
「なんで佐々木君はチームメイトから攻撃されてるの?」
「修学旅行で水川と同じ班になったから」
「そっか、真美は人気者だからね」
米太郎の顔面がぐしゃぐしゃになっていく男子コートと仲良くキャッキャッと楽しくバスケをする女子コート、その中間で壁にもたれながら火祭とお喋り中。一組と合同授業だからこそ為せる状況。ジャージ姿の火祭も可愛いなとか思っちゃいけない、ニヤけたりしたらいけない。顔がデレデレしているのって第三者から見たらすぐ気づかれるらしいよ。さっきから女子側のコートで春日が見つめてくる、なんか監視されてる……。試合中だというのに春日は一切動かずそれどころかボールを目で追ってすらいない。ただずっとこちらの方ばかり見ているけど……ボール飛んできたら危ないから俺の方見ないでいいって。
「……春日がすげー見てくるんだけど」
「まー君のこと気にしているんだよ、声かけてあげたら?」
「下手に刺激するとボール投げつけられそうだからやめておく」
さすがにバスケットボールを食らうと尾を引く怪我になりかねないので。米太郎も入院しなければいいのだけど。……春日がまだ見てくる。別に火祭とお喋りくらいしてもええやん、そんな見つめなくても。というか一組と二組の男子達もこっち見てるし。火祭のジャージ姿は万人共通で可憐に美しいようです。
「なんか私達、皆から見られてるね」
いやまあ私達というか主にあなたですけどね。一名だけ俺を睨んでくる人がいるけど。
「こうして二人で並んでいると恋人同士に見えるのかな……えへへ」
「……ぁー、う、まあ、そう捉える人がいてもおかしくはないと言えないわけでもないかもね」
ちょっとぉ、フニャフニャに柔らかく溶けた笑顔でなんか言ってるよ。そんな嬉しそうな顔しないで、罪悪感で死にそうです。う……最近火祭が堂々と好意を見せてきている気がする。そんな積極的にならないでよ、リアクションに困るって。
「ところで修学旅行の班、火祭は春日と同じ班なんでしょ?」
上手い返し方が思い浮かばず、かといって黙ってしまうのも感じ悪いので話題を変えてみる。自分の優柔不断が招いたとはいえ、なかなか直視出来ない案件だよな俺と火祭の関係って。
「うん、そうだよ」
「春日のことよろしく頼むよ。他の男子に絡まれそうで心配でさ」
「もちろん、恵に近づく人は排除するよ」
あ、あまりやり過ぎないでね? 火祭が本気出すと病院送りで済まない気がするよ。全力じゃない攻撃二発で池内君は失神したくらいだもの。でもこれで一安心だ、春日をよろしく頼んます。
「まー君、私の心配はしてくれないの?」
「火祭は全然大丈夫っしょ、俺なんかより強いし」
「私はまー君に心配してもらいたいのっ」
頬を膨らませてジト目で睨んでくる火祭きゃわいい。あはは、と笑いながら談笑していると男子コートからボールが飛んできた。米太郎に向けて砲撃されていたのとは明らかに威力が弱くバウンドしながら手元へと収まった。ボールの来た方向を見れば男子達が黒い笑みで試合参加しろよと訴えている。うわ皆すげー黒い笑顔だ。
「気をつけろ将也……あいつら手加減なしで投げてきやがる……」
見る影もないほどにボコボコにされた米太郎、まるで牛乳を拭いたボロ雑巾みたい。あれすごく臭かった記憶がある。ダークマターという未知の物質があるとするなら牛乳ボロ雑巾だと思う。
「俺はもう駄目だ……」
「はいはいお前はゆっくり休んでいなさい」
米太郎は潰し終えて次は俺の番ってわけですか。バウンドさせながらゆっくりボールを投げてきたのは隣にいる火祭に当てない為か、意外と紳士だなお前ら。そんな紳士諸君だけど先ほどより顔が険しい。ピリピリと伝わってくるが恐らく俺が火祭と話していたからだろうな。テメェ水川さんだけじゃなく我ら癒しのアイドル火祭さんにまで手を出しやがって許さんぞ!といったオーラを感じる。これキツイなー、味方が一人もいないぞ。
「まー君頑張ってね」
「な、なんとかやってみる」
うわー、全員目がギラギラしてるよ。獲物を食い殺すような悍ましい気迫が全身を襲う。こいつらスポーツマンシップに潜んでラフプレーする気満々だよ。
「じゃあ俺は火祭とお喋りしよーっと」
「私戻るね佐々木君」
「畜生!」
いざという時に乱入して助けてくれそうな火祭は女子コートに戻ってしまったし米太郎は火祭に躱されたのがショックで凹んでいて使い物にならん。米太郎からゼッケンを奪い取り、コートに足を踏み入れると……全員がガンつけてきた。何その親の仇を取るような憎悪に燃える冷たい視線、全員目の色汚いって。敵チームから威嚇されるのならまだしも味方からも睨まれるってどういう状況だよ。こいつらが何を言いたいのかはよく分かる、火祭と喋っていたのが許せないのだろうよ。ちなみに火祭は向こうの女子コートで華麗にレイアップシュートを決めている。すぐに戻ってからのディフェンスも上手いし、パスカットしてからのハーフラインから放つロングシュートも見事に決まった。まるでキセキの世代ですね、運動神経抜群なところも男子達の目を奪う魅力の一つだ。コート上の男子共は俺の殲滅に専念しているが試合中ではない他の男子全員もれなく女子コートの方を凝視している。お目当ては火祭で間違いない。
「落ち着いて顔面ぶつけよう」
「パスパス、楽に~。楽に顔面狙って~」
「兎月中心にパス回していこうぜ、顔面に」
……火祭の方ばかり見ていたら自分の身が危ないよな。試合開始の合図が鳴ってチームメイトから不吉な掛け声しか聞こえてこない。ボールと顔面って単語が飛び交うフィールドは全方向気が抜けない、後ろから悪意に満ち満ちたパスが強襲してきてもおかしくはないのだ。ラフプレーって騒ぎじゃないぞこれ、今すぐミスディレクションしてこの場から去りたい。
「そら兎月パスだ、顔面で受け止めやが……れ、っお!?」
相手チームからパスカットした味方の一人が俺の正面に回って思いきり振りかぶってきた。おいおい、この至近距離で顔面狙いとか死ねるって! これはただの体育の授業だろ、バヌケじゃないんだよ。思わずしゃがみ込んでしまった。しかしこれは悪手だ、しゃがんでしまって動きがすぐには取れない。モタモタしているうちにボールが飛んでくる……うっ、ヤバイ。米太郎の二の舞を覚悟したその時だった。ボールの跳ねる音、弱々しくバウンドして俺の真上を通過していったバスケットボール。まるで先ほどの火祭に当てないよう調節された威力のボールだった。目の前に立つチームメイトの困惑した顔、ちょっとだけ静まり返ったコート内、そして目線を天へと傾けていけば、
「……あ、春日」
「……」
すぐ真後ろに春日が立っていた。……え、ミスディレクション使った? なんで女子のあなたが男子コートの方にいるのですか。まさかの乱入に男子達は動揺を隠せない、高威力パスを放とうとした味方の一人も春日の登場でビックリして慌てて力を緩めたのだろう。おかげで助かった、もといなぜ春日がこっちいるの? ボールをキャッチして俺を見下ろす春日。静まり返るコート内と火祭の応援に熱を込めるコート外、静かだったりうるさかったりする体育館で春日は俺を見下ろしたまま何も言わず黙ったままボールを落としてきた、顔面に。
「痛いっ!」
重力に任せた左手は添えるだけシュートでボールを垂直に落としてきた春日。学校に存在する数々のボールの中では上位レベルの硬度を誇る何気に固いバスケットボールを鼻柱に食らって悶絶するのは当然のこと、軽い衝突事故みたいなものじゃないか。え、何この子? なんでこんなことしてくるのさ。なんか怒ってる?
「あの、春日? 今試合中だから入ってきたら危ないよ」
「……」
何も言わずこちらを見下ろすだけのマイガールフレンド。出たよ久しぶりの徹底的無視。こうなると何言っても基本無視してくる、しつこく話しかけるか下ネタ言うかしないと返事を返してくれない。返してくれても「うるさい」とか簡素な言葉しか言ってくれないけど。この子は動く気がないみたいだし、ずっと座っていると第二撃を食らいかねない。のそっと立ち上がって春日と並ぶ形に。周りの男子はそんな俺達を見てボソボソと何か相談している。
「お、おいどうするよ」
「下手すると春日さんに当たってしまう危険がある。攻撃は中止だ」
「まあ間近で春日さんのジャージ姿見れるから全然構わないよな」
「寧ろ嬉しい」
……この男子共がぁ。結局春日は傍から離れず、一分に一度のペースで脛を蹴ってくるだけだった。試合を続けるわけにもいかないし春日を連れてコートから退場、代わりに米太郎を投入して試合を再開した。
「え、また俺ボコられるの!?」
「兎月の分を食らうがいい!」
再びリンチに遭うのを避けるためコート内を疾走する米太郎を春日と並んで眺めながら体育の授業は終わった。




