続50 星降りクリスマス・中編
50話突破しました。
前作今作と続けて読んでくださっている方々、本当にありがとうございます。
そして十二月二十四日クリスマスイブ、キリストの降誕祭。聞くに堪えない憎たらしい課外授業を受けて午前は終了、お昼からは授業もなく春日と一緒に帰ろうとしたが断られた。友達数人とカラオケに行くそうな。前に水川が言っていたやつだな、仲良しでいいですね。楽しんできなさいと送り出して一人寂しく帰宅。ちなみに米太郎は部活に行った、フラストレーションを糧に練習励んでいることだろう。部屋でストーリーがブラックでディープな子供向けの野球ゲームをダラダラしながら時間は過ぎていき、二時半になった辺りで私服に着替えて家を出る。向かう先は今日バイトするお店だ。ついにバイトというものにチャレンジすることになる。電車に揺られながら目的地に近づくにつれて心臓も大きく揺れだす。結構緊張するものだな、噛まないように気をつけなくては。精一杯頑張って華麗なバイトデビューにしたい。
「兎月将也です、今日一日よろしくお願いします」
よし自己紹介は噛まずに言えた。ここでしくじるとマズかったぜ、出だし失敗すると後々響きそうだからなー。
「あぁバイトの子ね、よろしく。とりあえずこれに着替えて」
駅前にあるケーキ屋さん、今日働くお店だ。ここでマダムな奥様がケーキを買っているのをよく見かける、そこそこ有名なお店なのかも。女子みたいにケーキ業界に精通しているわけじゃないのでよく知らない。とにもかくにも今日一日働くのだ、労働だよ。普段やっていたボランティア活動と同じ社会の末端だが、やはり世界は違う。金銭もらって働くのだ、ビジネスなんだよこれは。失敗は許されない、集中していこう。店長さんも気さくな人で優しい印象だ、三十代の女性の方だ。怒ると般若になるみたいなギャップキャラではないことを祈りつつ渡された制服に着替える。……着替えたけどさ、これは……
「お、似合ってるね。イケメンサンタだよ」
「サンタの格好ですか……」
てっきりパティシエが着るようなシャレオツの服と思ったら真っ赤なモコモコのサンタ衣装だった。上下どちらも赤色、袖口や真ん中は白の布で黒ブーツ、ポンポンのついた赤い帽子を被れば完璧にサンタのコスプレ。この格好で人前に出るんですか? は、恥ずかしい。
「兎月君には店頭で売り子をしてもらうよ。イブだしサンタの格好が一番でしょ」
「そうですけど……」
「恥ずかしくないって。今日はどこ行ってもサンタがいるんだから平気だよ。ほら早く準備して」
はあ、そんなものですかね。イブにケーキ売りのバイトだからサンタの衣装着るのかもと冗談半分に思っていたらまさか本当にそうなるとは。羞恥心がちらつくが今さら断れる空気じゃないし、まあ一度経験するのもアリかなと好奇心旺盛な自分もいる。テンション上げてサンタさんになりきろうっと。
「ブサイクの奴が来た時に顔隠せる用に白髭用意していたけど兎月君は大丈夫だね。というか髭つけない方が集客に期待出来そう」
「そ、そうですか」
サラッと酷い言葉吐いたぞこの人。ブサイクが聞いたらバイト始まる前に心折れてるな……店長さんは水川タイプの人だわ。
「それじゃあ頑張って。分からないことあったら私かバイトの子に聞いてね。一人は既に外いるから」
ニコニコと微笑みながら店長さんは店の奥へと消えていった。まだクリスマスケーキを作ったりするのかな? 大変だからバイト急募してたみたいだし、やっぱり今日はお客さんが多いのだろう。うしやってやるぜ、労働の喜びを実感してやる。あとイケメンって言われて嬉しかったです! 良い気持ちで扉を開けてお店の外に出る。すぐ近くには屋根付きの簡易的な台が設置されており箱に包装されたケーキがたくさん置かれていた。それらをせっせと配置していている一匹のトナカイ。正確にはトナカイの衣装着た人だ。……トナカイと比べたらサンタはまだマシな方だな、つーかトナカイの服カッコ悪い。っと、駄目だ。同じバイト仲間、共に働く同僚なのだから小馬鹿にした目で見るな。まずは挨拶だ。
「初めまして、兎月と言います。分からないこと多々あるのでよろしくお願いします」
「む、バイトの人か。こちらこそよろしく頼……ぬっ!?」
ん……あれ、この人どこかで見たことあるような。この人……いや、こいつは……!?
「池内君じゃん」
「その名前やめてくれ!」
「いやー、まさか池内君と同じバイトとは。何か運命的なものを感じるよね」
「……黙れ」
「あ?」
「ぁ、いや何でもないです」
少し威嚇したらすぐ萎縮してしまう流浪の鉄拳こと池内君。相変わらず中途半端なカッコつけしか出来ない奴だな。やるならもっとなりきろうぜ。まあ無理もないか、調子乗っていたら俺に倒されて、火祭を倒すとほざいていたくせに実際戦うと完全敗北、泣きながら気絶したトラウマがあるのだから。口だけは多少強気だが体はビクビクしている。おいおい、サンタに怯えているトナカイってなんかヤバイよ。サンタが過酷な労働させているみたいじゃん。
「あ、いらっしゃいませ。こちらのケーキお一つですね、二千八百円になります」
お客さんが来ると普通に接客する池内君。中二テイストな武人の語り口調を封印して店員さんらしく働いている。キャラ崩壊が激しいよ鉄拳君。彼は二週間前からこのケーキ屋で働いているらしい、色々と教えてもらわなくては。
「つーか池内君がケーキ屋さんかよ。カッコつけたい病の奴には向いてない仕事だと思うけど」
「黙れ、時給の良い仕事なら何だってしてやるさ。例え人を殺める仕事でもな」
うん、まずその茶色の衣装と赤い鼻取ってから言おうか。その格好でカッコつけてもダサイだけだよ。
「貴様こそ、なぜここに来た?」
「プレゼント買うお金が欲しいからだよ」
「……なるほど、血祭りの火祭に贈るのか」
「おい、その名称で呼ぶな」
「ご、ごめんなさい」
というか火祭? え、なぜそこで火祭の名前が出てくるのさ。まさか勘違いしている?
「言っとくけど火祭と付き合ってないから」
「え、じゃあ他に彼女が……」
「うん」
「……そうか」
悲しげに目を細めて弱々しく笑う池内君。その顔見たことあるよ、独り身の男子がよくそんな表情を浮かべていたなー。まるで世の中の不条理を呪うような哀愁漂う孤影にもらい泣きしそうだよ。
「まあそう落ち込まずにさ、今日はお世話になります先輩ウス」
「うん……一緒に頑張ろう」
寂しさと寒さに震えながら池内君は懸命に働く。モコモコの厚着のサンタコスプレとはいえ外は張り詰めたように寒く空気が冷たく突き刺さる。駅前のお店、ここから見えるイルミネーションは特別な一日を祝うように日の光りを浴びて輝いている。夜になるとイルミネーション自体が発光して聖夜を明るく色づけるのだろうか、何にしろロマンチックな雰囲気。道行く人もどこか足取りは軽そうだ。友達と喋りながら歩くJK、腕を組んで仲良しムードのカップル、仕事終わりにケーキを買いに来たスーツ姿のお父さん、皆楽しげな顔をしている。
「ありがとうございました、メリークリスマス!」
仕事にも大分慣れてきた。接客と言ってもケーキを渡してお金もらうだけの簡単なお仕事、愛想良く話すことが出来ればいけそうだ。頑張れ俺のコミュ力。
「あ、兎月だ」
意外と楽しく勤しむこと二時間、水川がやって来た。制服姿ってことはカラオケ終わりかな。後ろから女子数人がついてきている。クラスの女子……の中に一人他クラスの美女発見。その名も火祭ちゃん。
「まー君!」
「火祭、それに他の皆もメリークリスマス」
「あっ、兎月君だー」
皆さんクリスマス楽しんでいるようですね。そして全員が一斉に携帯やスマホを取り出し、次々とシャッター音が軽快に鳴り響く。うおおぉぉ、俺めっちゃ撮られてる!
「すごく似合ってるよまー君」
「あ、ありがと……ちょ、皆撮りすぎだって」
あと気づいたら池内君の姿がない。恐らく店の中に逃げ込んだのだろう。完膚なきまでにボコボコにされた火祭が目の前に現れたら逃げたくもなるか。店長さんに泣き寝入りでもしてなさい。
「兎月頑張ってるねぇ、カッコイイよ」
「うん兎月君イイ感じだよ」
水川に続いてクラスの女子達も頷く。女子から誉められると嬉しいなぁ、思わず頬がニヤけそうになるが今はバイト中、私語は慎んだ方がいい。ちょっと真面目な顔作って女子達には悪いけど帰ってもら……ん、そういえば春日は? 見た限りいないけど。
「おいマミー、春日はどうしたの?」
「前川さんが迎えに来て帰っちゃった、お父さんがうるさいらしいよ。あとマミー言うな」
あの親バカの仕業か。暗くなる前に娘を家に帰らせたかったのだろう。どんだけ一緒にクリスマス祝いたいんだよ、必死か。俺が娘だったら反抗しまくってるぞ。ん、おい水川勝手にケーキ持っていくな。ちゃんと払うもの払っていけ。
「一つくらいいいじゃん、サンタさんプレゼントください」
「悪いけどこっちも仕事なんだよ、春日がいれば話は別だったかもな!」
「うわぁ」
あ、悪いっすか? 彼女にだけ贔屓するのは当たり前だろーが。後先考えずに女子全員に奢るような軽い真似はしないと誓ったんだ、来年は厳格あるダンディ目指して頑張る所存です。
「真美ちゃん、私達帰るね~」
「あ、うんバイバーイ」
水川と火祭以外の女子は帰っていった。出来れば写真は流出しないでもらえると助かります。やっぱ恥ずかしいじゃん、サンタの衣装って。ちょっとした黒歴史になるかも、いや赤歴史か。サンタだけにね! うへぇ、全然面白くないや。
「あの子達今から彼氏とデートなんだよ~」
「へぇ、そうなのか」
「爆ぜればいいのにね~」
おい水川、本音と毒漏れてるぞ。
「で、彼氏のいないお二人のこれからの予定は?」
「私はケーキ買って家帰るよ、だからよこせ」
「私も帰る。……まー君誘いたかったけど」
火祭が頬を赤らめてこっちを見てくる。やめてぇそんなウルウルな瞳でこっち見つめないで。誘惑が腰回りにしがみついてきやがるっ、ちょっとでも葛藤した自分が情けない! でも火祭はそれだけ言って続きは言わなかった。春日のことを気にかけてのことだろう、友達の彼氏を誘うなんてNTR属性の行為は出来ないみたい。ちゃんと周りのことを思って行動を制御する火祭の気遣い精神には感服しちゃうわぁ。思わずケーキを奢りたくなる。一、二個くらい大丈夫だよね?
「え、いいの?」
「クリスマスだもの、サンタからの贈り物ってことで」
「おい兎月、私の分は」
「へいへい、これでいいですか」
「わーい」
嬉しそうに笑顔を浮かべて二人は駅へと向かって行った。良いクリスマスを! うーん、良いことしたなぁ。サンタの素質ありまくりだな俺、ちょっとドヤ顔しちゃうぜ。ムフフ、俺カッコイイ。
「おいテメー何買ってに売り物渡しているんだ……?」
「あ、店長……」
「おら早くケーキ包装しろ、終わんねぇだろーが」
「す、すんません」
英雄気分でケーキを贈呈した決定的瞬間を店長に目撃されてしまい、散々怒られた後こうして休憩もなく働いている。ひいいぃ、店長さん怒ると恐いタイプの人だった。悪いのは完全に俺だけど。そりゃまあ売り物を知り合いにあげるバイトなんて最低過ぎるよね。ちゃんとケーキの値段分給料から引かれるみたい、結果的に見れば俺が二人にケーキ奢ったことになる。……なんでこうなるんだよぉ、俺のお馬鹿。陽は落ちて夜となって外は真っ暗、ではない。待ってましたと言わんばかりにイルミネーションに明かりが点灯してクリスマスムードバッチリだ。もうすぐ人が来るピークになるから新しくケーキを補充する必要があるらしく池内君と一緒にケーキを箱に包装している。休みなく働いている……ゆとりのバイト初心者にはキツイっす。休憩ください、頼みます。
「兎月君はまだ包装続けて。そっちのトナカイは休憩入っていいよ」
「池内君だけズルイ!」
「誰も本名言ってくれない……」
ちょっぴり涙目で池内君は店の奥へと入っていった。いいなぁ休憩、俺も店の奥の個室でお茶でも飲んでゆっくりしたいよ。ファミレスの日常を描いた漫画ではよく休憩時間のシーンがあるぞ。あれみたいに休憩時間長いんじゃないの!? 現実はそんなに甘くないってか。貧弱な精神がポッキリ折れそうだ……。
「兎月君は手を動かす!」
「はーい」
「はぁ、ろくな新人が入ってこないなー。草壁君もお店の中に逃げこんでくるし……採用方式変えようかな」
…………くさかべ?
「え……今、なんて……」
「ん? ああ、トナカイの子ね。草壁って名前なのよ。兎月君はなぜか池内君って呼んでるけど、なんで?」
「…………あ、ああ。草壁ですね。あ、ははー、名前知らなかったんでテキトーに名前付けました」
「あー分かる。あの子いかにも池内って顔してるよね」
あー、ビックリした。なんだ、池内君の本名か。……草壁ね、うん。にしても池内君は草壁って言うのかー、似合ってねぇ。やっぱり池内って呼ぶことにしよう、しっくりくるし。
「ほら包装終わったら店頭に運んで。おい池内っ、テメーもいつまで休憩してやがる。さっさと働け!」
「て、店長僕まだ休憩して一分ですけど!? あと池内って呼ばないでぇ!」
悲鳴に近い叫び声を上げる池内君だったが店長さんによって強制的に外へと叩き出された。勿論俺もセットで。ぎゃああぁ、外寒っ。暖房効いて暖かい店内からの落差が激しいって。夜の街は寒いんだよ。微かに温もりを届けてくれた太陽も定時となって帰っちゃったし、ここから気温が一気に下がる。無遠慮に冷たい強風が肌を襲う。おまけに雪まで降ってきたし! 体を震わせながら空を見上げたら白く光る無数の玉が舞い落ちてきている。雪、触れると体温で溶けて淡く消える儚い結晶、積もることなく地面に落ちて滴となる。振り続ける無数の雪、それは何かにぶつかるとゼロになってしまう。されど癒しを届けてくれる天からの贈り物、まるで聖夜を祝うようじゃないか。ホワイトクリスマスと言うのだろう、最近全然雪なんて降っていなかったのが今日になって降るとは。天もなかなか粋なことをしやがる。街はクリスマスムード一色、イルミネーションは青白く輝き景色を色づける、そこに雪が降れば雰囲気は最高潮だ。駅前には埋め尽くすほどのカップル、夕方までは一般の人もいたのに今ではどこを見てもカップルだらけ。どいつもこいつも寄り添ってイチャイチャしている。普段なら考えられない光景だ、けれど今日はイブ。外で堂々とチューしようが抱き合おうが全て許容される一夜なのだ。なんと素敵なことでしょう、ただしカップル限定で。
「う、うぅ……なんで俺バイトなんてしているんだろう」
隣のトナカイは号泣していた。カップルにケーキを渡す手の震えは寒さが原因なのだろうか定かではない。とにかく彼からは負のオーラが染み出ていた。こいつも米太郎と同種か、今の時期にケーキ店でバイトしたらこうなることくらい分からなかったのかよ。続々とケーキを買いに来る人が増えたが大半がカップルとなっている、たまに仕事帰りのお父さんを見かけるがやはりカップルが目立つ。これぞクリスマスの真骨頂、非リア充の方は直ちに自宅へ引き籠るよう注意報を出してあげたい。こんなピンク色に染まってしまった街中を一人で歩くなんてある意味拷問だ、最悪の場合死んでしまうよ。
「喧嘩強くなってバイトもして、どうしてモテないんだ……」
「努力するベクトルが違うと思うぞ。いいから笑顔で接客しようぜ、メリークリスマス!」
「うぅ……」
なんだよ池内君、あなた単にモテたいだけだったのか。二週間前からバイトを始めたのもクリスマスが迫ってきて焦ったからか、バイトすればモテるとか発想が古いと思うぞ。火祭に喧嘩を売ったのも勝てたらモテると考えたのだろう、口調まで変えてご苦労なことです。その結果、映画は一人で観るしイブの夜は泣いてしまうことに。なんだか可哀想になってきた……焼肉奢ってあげたい。
「ぐすっ、なぜ貴様は彼女いるのに今日バイトしているのだ」
「泣きながらカッコつけるなよ。こっちにも事情があるんだよ」
春日、今頃どうしてるかな。あの豪邸で家族と仲良くチキンでも食べているのだろうか。春日父が酒飲んで騒いで、春日母がそれを拳で注意し、春日は微笑みながらこうして俺と同じ雪降る空を眺めているのかな……。ヤッベ、センチメンタルになってきた。何々この惨めな気持ちっ、ちゃんと彼女いるのにどうして悲しい気持ちに陥っているんだ俺!? これじゃあ去年と変わらないぞ。な、泣くな将也! 来年はきっと二人きりでイブを迎えられるって。あ、でも来年受験だからお互い忙しいのかも……え、嫌だよ!? あーぁ、イルミネーションが眩し過ぎて目が眩みそうだ……めりーくりすます。
「何男二人泣きながらケーキ売っているのよ……」
「あ、店長」
「頑張ったな君達、完売しそうだし上がっていいよ」
寒さと孤独に耐えながら俺と池内君はケーキを売っていき気づけば包装された箱は残っていなかった。途中から記憶がないが時間を見ると三時間は経っていた。それだけの時間寒い中カップルを眺めつつ販売出来たものだな、自分達が恐ろしい。発狂してケーキを投げつけてもおかしくない精神状態だったぞ、池内君が。堅忍不抜を貫き通して芯まで冷えた心を癒してくれたのは店内の暖房、うんダンボー暖かい。時計を見れば長針が十二時を指していた! ……ん、長針だと時間分からないじゃん、馬鹿か俺は。短針は九時の方向を向いており長短の針が指す方向から推測するに現在時刻は午後九時のようだ、ナイス洞察力。実に六時間も働いていたことになる。結構頑張ったな、寒いなか奮闘したと自分で自分をよしよししてあげたいね。というか六時間働いて休憩ほとんどなしっていいのかよっ、なんか労働条件で一定の休憩時間は設けないといけないみたいな決まりなかったっけ? 異議を申し立てたいが、日中の不祥事を攻められたら何も言い返せないので黙っておくことにします。
「やっぱこの時期はケーキが飛ぶように売れるね。助かったよ」
「そうですか」
「はい、これ今日の給料」
うはっ、キタコレ。こちとらその封筒の中身の為に身も心も凍らせて頑張ってきたんだ、へっへ~。初の労働、初の給料、自分で稼いだお金ってなんか響きが良いよね。ありがたく頂きます、さて早速オープンしちゃいましょうかね。いでよ本日の成果っ。
「……これだけですか?」
ち、ちょっと少ない気がするのですけど……あれれ? 店長さん、思っていた額より少ないのですが……僕の計算ミスですかね? いやそんなことはない、馬鹿でも自給の計算くらい出来る、というか絶対に間違えない。六時間働いたわけですよ、つまり自給×六のマネーちゃんが封筒の中に納められているはずなのに、どう考えても四千円ほど少ないぞ!? な、なんだよこれ、詐欺じゃないか!
「君が友達にあげたホールケーキ二つ分の料金を引いているからね」
「ひ、ひどぅい」
「一つ三千円近くするケーキだったんだよ、それを二つ合わせて四千円で手を打ってあげたんだから寧ろ感謝してほしいくらいだよ」
ぐっ、それ言われると文句言えない……。はぁ、自分がやらかしたことだし言い返しちゃ駄目だよな。この倍ぐらいもらえると思ってこのバイト選んだのにな~……やっぱ社会は厳しいよ。いやいや、甘い方か。勝手に売り物あげた分際なのに給料もらえるだけ店長さんは優しいって。その分ずっと働き続けたけどさ。
「とにもかくも今日一日お世話になりました」
「仕事はちゃんとしてくれたみたいだし、良かったらまた来てよ。池内君じゃあ頼りないし」
「僕の名前は草壁なのに……」
はは、またお金欲しくなったらその時はよろしくお願いします。さて、結構遅くなったしそろそろ帰らないとヤバイな。何がヤバイってカップルのイチャイチャ度が増してくるからだ。時間が経ち夜が更けるにつれてカップル達の心も激しく燃えて見るに堪えないことになってしまう。周りはカップルで熱々の中、自分だけ寒々と歩くのは自我が崩壊しかねない。さっさとプレゼント選んで今日はもう家に帰ろう。きっと母さんが温かいスープとクリスマスプレゼントを用意して待ってくれているはず。ここ一週間散々ねだってきたからな、明日から俺もタマゴの厳選や型を考える廃人ポケマスになってやるぜ。
「じゃあ今日はお疲れ様でした」
「あー、ちょっと待って。これ持っていって」
店を出ようとしたら店長さんから今日散々売ってきたホールケーキの入った箱を渡された。え……まさか、このケーキもらってもいいんですか? て、店長……っ!
「帰るついでに宅配行ってきて」
「……マジすか」
余ったケーキくれるわけじゃないんですねっ、期待した自分が馬鹿でした!
「僕免許持ってないですよ、チャリか歩いていけって言うんですか」
「その心配はないよー、宅配先は君がよく知っている家らしいから」
え?




