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続49 星降りクリスマス・前編

十二月には街中を巻き込んだ年に一度の大目玉なイベントがある。大晦日ではないよ。それはあれでしょ、確かに来年を迎える為の大切な日ではあるがイベントがどうのこうのって感じではない。今年も笑ってはいけないを見て年越そうと思います。個人的にダイナマイト四国が好きだなー、また七変化とかでやってくれないかな。……いや大晦日の話じゃなくて、それとは別のもう一つのイベントについて言及したいんだって。勘の良い人ならもうお分かりだろうし、敏感な人だったら先月ぐらいからその存在に意識してピリピリするだろう。街中に輝くイルミネーションを見て舌打ちをして、ケーキを販売する赤い服着た売り子を避けて、カップルで溢れかえる雪降る街道を崩壊しかけの心を引きずって一人寂しく歩く。そんな苦汁を食らう悪魔の所業と思われるイベントが今月開催される。年明け前の死者を生む凄惨な期間だ。けどそれは表裏一体のように地獄であり天国にもなりえる。人によって変わるもので、例えば俺の親友の一人は……


「この紙屑がゴミ箱に入ったら俺に彼女が出来る……入らなかったら現存するこの世のカップル全部滅びる」


このように常軌を逸した不安定な精神状態に陥っている。ゴミを捨てるだけなのにノーリスクハイリターンな謎の願掛けをする始末、血走った眼と剥き出しの牙、悲痛で顔中に浮かぶシワは去年も見た気がする。そして俺も同じような形相をしていた、クリスマスを前にしたあの頃は。


「うっしゃー外したぁ! カップル滅びる~、というか滅べ!」

「我を失うな米太郎、そんなことしてもイブの夜からカップルが消えることはない」


床に落ちた冬休みの課題が記された紙を捨てた本人に投げ返すが、米太郎は捕るモーションすら構えずに紙屑を顔面で受けながらこちらを睨んでくる。なんだその怒りで赤く燃え盛る瞳は。クルタ族かよ。


「将也はいいよなぁ、聖夜を共に過ごせる相手がいてよぉ」


……あ゛? ……まあいいや。今にも喉元に食らいかかりそうな唸り声を上げて米太郎は睨むことをやめない。いつもは野菜のことで頭はお花畑、実家も野菜畑な米太郎だがここ一週間は人が変わったように目つきが細く鋭くなりクリスマスが近づくにつれて言動も荒くなっている。特に俺への当たり散らしが酷い。クリスマスとはそれほどに独り身の男子には耐え難いイベントなのだ。クリスタルの蛍光で装飾されたイルミネーションは夜の暗闇に映えて美しくてロマンチック、雪が降ればムードはこれ以上ないくらいグッドになる。何のムードか、恋人達のムードに決まっている。クリスマスイブは聖夜と呼ばれて恋人達がイチャイチャする日なのだ。キリストの降誕祭が何か詳しいことは知らないが常識としてクリスマスはカップルラブラブなイメージで固定されている、ルーツや起源なんて全く分からないのにお祭りとして祝うのは日本人らしいと言えよう。外やお店はカップルで埋めつくされ、家では家族が温かくチキンを頬張る。なら彼女のいない男子はどうすればいいのだろう? 家族と過ごすのも全然アリだ、別に悪いことじゃない。無宗教を説いて強がる方法もある。だが、それでも、自分に彼女がいないという事実は覆らない、受け止めなければならない。


「将也死ねぇ!」


パンチを制して距離を置く。話を続けよう、クリスマスに独り身っつーのはダメージが大きい。年を取れば取るほど痛みは増してハートは年々廃れていく。まさに地獄。残念ながら米太郎には寄り添う相手がおらず、こうして彼女持ちの俺に八つ当たりしてくるのだ。その姿は憐れで見ていて悲痛な面持ちになってしまう……まるで一年前の自分を思い出すよ。去年はああして反クリスマス運動に尽力を注ぐ惨め系男子だったな。おまけに一年前は米太郎の姉、菜々子さんに振り回されて精神は撃沈寸前だった。燃料切れかけの状態でリア充を呪い殺そうとしたせいで年末は真っ白に燃え尽きていたなぁ、我ながら情けない。しかし今年は違ーう、去年とは打って変わって彼女という存在を見つけたのだ。彼女がいる状態でクリスマスを迎えようとしているのだよワタクシ兎月将也は。そりゃ米太郎も嫉妬で暴力に走るのも当然の道理。他にもクラスの男子達が最近やたらと冷たくて、体育のバトミントンでは一対三でリンチされたり掃除の時は机を乱雑に運ばれて朝の挨拶は「おはよう」から「くたばれ」へとランクダウンした。あまりに粗暴で惨い仕打ち。ただの彼女持ちならここまで酷くないかもしれない、俺のガールフレンドが春日恵という学年でトップクラスの美少女だからこその対応だ。自分達と同じようにモテない奴が気づいたら美少女と付き合っているのが許せないのだろうなぁ。その気持ちが分からないわけでもないけど米太郎君、友の幸せくらい笑顔で祈ってくれよ。他の男子もさ、休みの日はよく皆で狩りに行ったじゃないか。同じハンターとして何度もハイタッチしたじゃないかよ、狩友だろ? 最近は忙しくて全然遊んでないけど。え、なんで忙しいかって? それは決まっているじゃないっすか~。


「はあああぁぁぁぁ…………」

「随分と長い溜め息だな」

「将也死ね」


さっきからそれしか言ってないぞ。呪詛を呟くか殴りかかってくるかの二択しかしてこない米太郎。落ち着いてくれよ、俺達はこの前同じベッドで寝た仲じゃないか。修学旅行前旅行で生まれた絆もとい高校生活で築き上げてきたお前との友情はどこに消えたのやら。親友として悲しいぞ。……ちっ。


「そう僻むなって。まだクリスマスまで時間はあるさ」

「あと二日足らずで何が出来るんだよ……」

「二日じゃないって、あと三百六十七日もあるだろ?」

「来年頑張れってか! なぁおい! おい!」


唾を吐き散らして激昂。恋に飢えた空腹の米モンスターはクラス中に響くほどの咆哮を上げ、狂った双眸でこちらを睨みながら突進していきた。乾いた叫びを腹の底から轟かし漬け物エキスで濡れた鉤爪が喉元目がけて強襲、悪いけど男子の醜い嫉妬に付き合ってあげるほどこちらも心にゆとりはありません。殴りてぇこの馬鹿。伊達にこの一ヶ月火祭の下で鍛えられてきたわけじゃない。身体能力の向上よりもスキルアップしたのは対人戦における経験値と見切る動体視力、火祭の神速の連続攻撃に比べたら米太郎なんかの直線的な動きなんて余裕でいなせる。気分は闘牛士、ヒラリと回避してすれ違う瞬間に拳を打ち込む。小さな呻き声を漏らした米太郎は攻撃の衝撃と自身の勢いを殺せずに床へと衝突、すぐさま上に乗しかかって両腕を拘束して頭を押さえつける。火祭に比べたらまだまだ動きに甘い部分があるがお米を出荷するには十分でしょ。我ながら手際が良い。


「がぁぁあああぁチクショー! 誰か弓矢持ってこい、こいつの眉間射抜いてやるぅ!」

「俺を撃ち殺す前にまず自分の恋に矢を撃てよ弓道部君」

「ぐああぁあ何も言い返せないぃっ」


多少暴れていたが次第に抵抗しなくなってきたので拘束を解く。こちらとしても今すぐ立ち上がって周りを警戒したかったので動かなくなって助かる。クラスの男子数名が箒を構えて睨んでいるからだ。どいつもこいつも酷い色の目してやがる。一緒にゲームしていた頃のピュアな目はどこにいったんだよ、皆もっと明るい子だったよ? そんな負のオーラを纏うようなゾンビじゃなかったはずなのに……クリスマスの闇に自我を飲まれたのか。


「まあ皆落ち着けって、敵意を向けないでよ」

「くたばれ」


もはや何を言っても返事はそれなのね。はぁ……そんなに一人でイブ過ごすのが嫌だったら今からでもいいから何か行動起こばいいのに。クラスの女子数人誘って何人かでクリスマスパーティーとか開催しようよ。それが一番だと思う。まあクラスの女子は既に仲良しメンバーで予定立てているから厳しいだろうけど。何をそんな人を目の仇にして楽しいのやら。……不幸なのが自分達だけと思ってんのかよ。


「けっ、クリスマスなんてこの世から消えればいいのに」

「荒れてるなー」

「うるさいやいリア充が。今すぐ死ぬか明後日一日俺と体入れ替えてくれ」


そうすれば春日とイブ過ごせるってか。入れ替わった俺は農家で漬け物ケーキを食っていろと。なかなか理不尽なこと抜かしよるなぁ。…………はぁ、好き勝手言ってるけどさぁ、別に付き合っているからといって全てが上手くいくわけでもないんだよ。……はぁ。


「悪いけど体入れ替わってもイブの日は春日と会えねーよ」

「え?」

「というか俺バイトだし」

「え!?」


何をそんな驚いているのだよ。まあ驚きですわっ、と土守さんが口に手を当てて言いそうなモーションで米太郎がこちらを見て目を開いている。あんまりこちらをイラつかせる動きをしないでもらえるかな、イライラするから。明後日はクリスマスイブ、聖夜と呼ばれる素敵な一日。恋人達は仲良くイチャイチャするのが決まりみたいだが俺と春日は会えそうにもない。お互い色々と事情ってのがあるのだ。ふかーい事情が。


「クリスマスプレゼント買おうにもお金なくてさ、短期のバイトでもして稼ごうとあれこれ応募していたらイブの日にバイト組まれちゃってさ」

「な、なんか本末転倒だな」

「うるせーよ死ね。それに春日の方も予定があるらしくてイブの日に会うのは厳しいみたいなんだよ」


クリスマスイブは家族で過ごすそうだ。春日家の豪華な屋敷で豪華な食事を楽しむのだろうか。おいおい何だよ、そこは家族より恋人優先じゃないのか。と思う方もいるだろう、俺もそう思う。しかしそんな甘イチャラブな行為を春日の親父さんが許すはずがない。娘のことが大好きで大好きでしょうがない春日父がイブの夜に娘を出歩かせるわけもなく、ましてや俺が誘うなんて自爆は出来ない。まだ春日父には春日と交際していることは内緒にしている。それなのにイブの日に春日を誘ってでもしてみろ、俺達付き合っていますチーッスと自ら暴露しているようなものだ。まだ命は惜しいので大人しく退き下がるしかない。土守さんや水川に協力してもらって馬鹿親父には女子会しますと嘘ついて密かに二人で会うことも出来ないことはないがバイトがいつ終わるか分からないので結局は難しそうな状況となっている。


「じゃあイブはどうするんだよ?」

「バイト終わったらプレゼント買ってまた違う日に渡すよ。そのくらい察しろよ死ね馬鹿」

「あの……将也、なんか怒ってる?」


怒ってるかって? クリスマスイブの特別な日に恋人と会えないでニコニコしている馬鹿がいるかよ。テンション下がるに決まってるだろうが、悲しいに決まってるだろくたばれ馬鹿。なのに独り身の男子のどーでもいい嫉妬に付き合わされてキレないわけねぇよ。何テメーだけ不幸だと嘆いていやがる、何もない奴が妬みをぶつけんじゃねぇよ。クソが。さっきから言いたい放題でさぁ、舐めてるの?


「や、ヤバイ。総員退避」

「なぁ米太郎、お前を親友だと信じていたんだけどなぁ。この死にたくなるような傷心をお前なら聞いてくれると思っていたんだよ、なのにお前はテメーの言いたいこと好き放題ほざくだけで挙句には殴りかかってきて、あ? それを冷静なフリして相手してやった俺のことなんてテメーは何も知らないだろうけどなぁ、こっちは今すぐにでも八つ当たりして良かったんだぞ、あ゛!?」

「す、すすすんませんでしたぁ!」


蜘蛛の子を散らすように教室から逃げていったクラスの男子共の後を追うようにクソ太郎も消えていった。ゴキブリみたいな動きで去っていったなあいつ。……泣きたくなる。初のクリスマスイブを共に過ごせないなんてこの世はなんと無慈悲な世界だと呪いたくなるね。あのクソ親バカ野郎ぉ、いつもいつも邪魔ばかりしやがって。あいつさえいなければ普通に会えるというのに……。春日と会えるならバイトに拘泥することはない、ぶっちぎってやるさ。プレゼントは用意出来ないがそこはまあ俺の全てを君に捧げるよ的なキモイ台詞でお茶を濁して、あとはもう雰囲気に身を投じて熱い聖夜でジングルベール! 鈴が鳴っちゃうぜ、鳴るというか喘ぐというか。雪とは違う白い物体が降っちゃうかもね。うーん、人間腐ると下ネタのキレが少しだけ増すようだ、今も頭の中で君の靴下に大きなプレゼント届けちゃうぜ☆といった台詞が滑走してる。サイテーだな。でも許してほしい、彼女いるとはいえイブは一人きりなのだから……。


「で、私のところに来たんだ」

「この状況をなんとかしてくれマミー」

「マミー言うな」


期末考査は赤点なく無事に乗り切り、楽しかった修学旅行前旅行からしばらくした後、今日は終業式だった。体育館で校長のありがた~い話右から左に聞き流して教室では担任から来年は受験に向けて勉強しろだとか耳を覆いたなる話はベルトコンベアに流して、さあやって来ました冬休みです。夏休みほどではないが二週間ほどの長期休みだ。つまらない勉学から解放されたと手放しには喜べない。休みに入っても課外授業というわけの分からないものがあって午前中は学校に拘束されてしまう。休みとは言え結局は授業があるのだ、なんて詐欺だろうか。訴えてやりたい。課外授業は一週間続き、クリスマスの日でも関係なしに行われる。……クリスマスか、泣きたくなる。この悲しみを誰かに聞いてもらいたいがアホの米太郎は話にならなかった。アホを含めた男子達は逃げてしまい教室に残っているのは女子だけ、そのうち一人はきっと愚痴を聞いてくれると思ったのでこうして話しかけた次第です。助けてください水川様。


「なんでその日にバイト入れたのよ」

「あまり深く考えずに決めたから。というかバイトの応募なんて初めてで緊張してそれどころじゃなかったんだって」


せっかくの聖夜だ、何か盛大に贈り物をしたい。けれど度重なるデート、カッコつけて奢りまくる、まるでバブル時代を彷彿させる金の荒使いが祟って所持金は三桁になった。これじゃあろくなもの贈れないと考えた結果バイトするしかないとなりまして闇雲に電話をかけた。これが初バイトとなる。短期とはいえ無事採用となってその時はかなり浮かれていた。もしツイッターなるものをしていたら間違いなく『バイトなう。疲れるぜぇ』みたいな自慢をしていただろう。英雄で偉そうにドヤ顔していたが冷静になって日付を見れば……愕然とした。バイト取り消そうにもやはりお金は欲しいし、慌てて春日に事情を説明しようとしたらイブは家族と過ごすだって~。天国から地獄へと落ちた瞬間だった。『ショックなう』だね。


「ちなみに何のバイト?」

「ケーキ販売するやつ」


たぶんお店の前でサンタの衣装着ていらっしゃいませーとか言うバイトじゃないかな。自給高かったのだけは覚えているけど詳しいことは知らないや。クリスマスらしいバイトだよね。余ったケーキとか貰えないかな?


「へー、私買いに行くから半額にしてよ、絶対に!」

「絶対のところを強調しないで。つーか水川はイブの日はどうするんだよ」


こいつはこいつでモテるからな~。言い寄る男子だって少なからずいるわけだし、もしかすると付き合っている奴がいるかもしれない。一時期彼氏がいる疑惑があって水川の後を追跡したことあったな。蓋を開けたら妹の世話だったというオチでしたが。


「授業終わった後何人かとカラオケ行って遊んだ後は普通に家帰るよ。美保梨がいるし」

「彼氏とかいないの?」

「なかなか良い人が見つからないからね~、周りには野菜馬鹿とケチな奴がいるくらいだし」

「おい誰がケチだと? お祭りファミレス遊園地、あらゆる場所で奢ったせいでバイトする羽目になったんだからな」


よくよく振り返ってみると水川に対してかなりの額払っている気がする……。新作ゲーム買える額くらい奢ってやっていると思うぞ。こんな口の悪い小悪魔なんかに……それをケチ呼ばわりした挙句さらにはケーキも半額にしろだなんて悪魔じゃないか。小悪魔ならまだ可愛くて許しちゃうっ、となるかもしれないが悪魔は駄目だ。悪魔は悪魔だもの、デビルだもの。


「恵の為に働くなんて兎月もやるじゃん、カッコイイよ。その調子で私にも何かプレゼント頂戴っ」

「……」

「ん?」


君の靴下に立派なモノ入れてやるよ、と言いそうになったが言うと間違いなく悲鳴を上げられて殴られそうなのでやめておく。自暴自棄になっていても品性だけは失ってはいかんよ、常にジェントルマンであれ。


「余ったクリスマスケーキくらいならあげてもいいよ」

「やったー、楽しみにしておくね。じゃあまた明日」

「え、帰るの!?」

「バイバーイ」


……親友二人に相談しても駄目だった。はああぁぁぁ、イブどうしようかな。


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